体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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 イレネオ・ジュスティ。魔道具を専門に取り扱う商会であるジュスティ家の次男。今の俺のことだ。

 俺はよく熱を出す子供だったらしい。
 熱が引いたと思ったら、夢の話にしては詳細すぎる、まるで別世界の話を興奮しながら延々としていたそうだ。
 物覚えが早すぎる。分別がありすぎる。
 すわ天才か、と期待を持たせるには充分な出来過ぎ君だったそうだ。
 この頃は親父も俺に甘かった気がする。跡継ぎ長男である兄貴は嫉妬して、この頃からちょっかいを出されていた。

 ちょいちょい兄貴に馬鹿にされては拳で反撃し、罠に嵌められては飛び蹴りで反撃し、いつも最後は二人まとめて親父に締め上げられていたのも最早微笑ましい思い出だ。
 庭の木に逆さ吊りにされたときは二人で死を覚悟したくせに、忘れた頃に繰り返すヤンチャ兄弟。そりゃ親父もキレるよな。

 そういった俺を取り巻く環境について徐々に明るくなってきた頃、ハッキリ自覚した。
 俺は転生という機会に恵まれたのだ。選ばれた男なのだ。
 そんな希望で胸がいっぱいだったことを覚えている。



 俺は前世から本なんかは読まないタイプで、読むといったら漫画。嫌々の教科書くらい。
 前には当たり前にあったものが何もない。
 つまんないし、と本を開いてはみた。
 でもどの本も漫画じゃないし、「セルリアン王国完全攻略本」なんか存在しない。
 そんなものはない。
 早々に嫌になり、刺激を求めた先は今世のスポーツと、弓や剣や乗馬だった。

 今も昔も体育会系なのである。
 頭で考えるな。筋肉で感じろ。

 以前と姿は変わっても、運動神経は持って来れたらしい。
 声変わりが始まり、多少は背が伸び始め、的に矢を当てられるようになり、真剣での鍛錬も始め、馬に乗り風を感じられるようになった頃。
 両親が受けさせてくれた検査で、魔力量がかなり多いことが判明したのだ。
 隔世遺伝だ。俺の愛するババアは魔女様だった。彼女のおかげだ。

 異世界パネェ。転生ヤベェ。俺スゲェ、とワクワクの最高潮で祝・ご入学。
 当初希望していた騎士科から一転し、魔術科コースへ進む運びとなった。



 俺はここでひとつ勘違いしていたことがある。楽しい魔術のお勉強をしたい、色々な魔術を使ってみたいという俺の意思で、学園の魔術科へ行かせてもらったと思っていた。
 違ったのである。予定通り騎士科に進んだとしても、途中で魔術科へ強制転科させられることは確定していた。
 泣いて暴れて嫌がっても、ブチ込まれること必至だったのである。


 魔力を流せるアイテムはあるが、多量に流せるものはまだ高価だ。

 蓄電ならぬ蓄魔力できるものも数が少ない。良いものは国宝級だ。

 巨大設備に魔力を注いで回る仕事もあるが、一生全国転勤だ。

 歳を取ると魔力が減ってはくるらしいが、体力と一緒にうまいことそうなってくれるかは解らない。
 便利なエネルギーは使い方を学ばないと、自分と周囲が危険なのだ。

 die or learn。死ぬか学ぶか。
  
 俺は今、死ぬかヤるかの選択を強いられていたのだ。



「ネオくん、おいでよー」
「ヤダ」

「もう何にもしないよー。先輩と一緒にサッパリしようよー」
「お断りします」

 ブルーノ先輩がお風呂に誘ってくる。ひとりで入ってと言ったのにしつこい。
 兄弟で先輩の豪邸にお泊まりしたときはギャアギャア言いながら一緒に風呂に入り、その後脱衣場で『輝け!第3回・最強剣士大会~君はどこまで戦えるか~』を全裸で開催して執事のおっちゃんに大説教されたレモンのように爽やかな思い出があるが、今はその頃とは違う。
 易々と身体を見せる気にはならない。

 俺は一応お貴族様枠だから寮の一人部屋は広く、シャワールームも設置されている。
 バスタブまである。ついてて良かったのやら悪かったのやら。

「ネオくんスッキリしたでしょ?  魔力的な意味でも下半身的な意味でも」

 ブルーノ先輩は甘い声で最悪なことを言いながら、グイグイと凄い力でシーツを剥ぎ取ろうとする。破れる破れる。
 確かに言われてみれば、魔力を練る鳩尾の部分が全て抜けたわけじゃないが、スッキリしているのだ。

「普通に出すだけじゃダメなんだよー。僕の言った通りでしょ?」

 先輩は諦めたのか、シーツごと俺を抱えてズンズン風呂場に向かっていく。
 流石に汚れたシーツごと沈められたらたまらないと観念した。後処理が大変だ。
 洗濯はお任せできるが、洗濯場まで持って行くのは生徒の仕事だ。原則平等の規則として、学園内にいるうちは各々メイドさんを雇えないのだ。

「洗ってるだけだよー」と言いながら痴漢してくる先輩を牽制しつつ、狭い狭いと文句を言いつつバスタブで温まっていると急に眠くなってきた。
 明日休みで良かった。今何時だ。早く寝たい。



 先輩は少しよれた服を拾って着替え、
「また頑張ろうね。愛してるよ」
 と俺に妖艶な笑みを投げつけ軽いキスをし、俺の拳を華麗に避けてオホホホと高笑いながら部屋に戻って行った。
 やられっぱなしオブやられっぱなしである。
 忸怩たる思いと眠気を我慢し、乱れ散らかしたベッドのシーツを交換し、眠りについた。
 最近寝つきが悪くて困っていたが、その日は二秒で寝た。
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