体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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 あらぬ所がジンジンするショックと、疲れのせいで1日寝込み、ブルーノ先輩は『僕のせいでごめんねー』と謝りながら食事を持ってきたり、なんなら食べさせようとしたり、本の読み聞かせまでし始めたり、とにかく俺の世話を焼いてくれた。


 ほんとだよ。全ておめーのせいだわ。

 流石に病気じゃないから治療室のお世話にはならなかった。

 いつの間にか思いっきり歯型をつけられた首筋と、毒虫に襲撃されたような身体の痕を見せに行くわけにはいかない。社会的に死ぬ。



 休日潰れちゃったなあと思いながら、いつも通り教室へ向かうといつもの友達がいた。

 日常だ。癒される。もう君たちはそこにいるだけでいいよ。そこで笑ってるだけでいい。

 しかしピカピカの一年生で初心者仲間であるお友達は、ただの魔力バカの俺とは違う。


 彼の繊細なセンサーでいつもと違うものを感じると言う。

 教室内に設置されている装置のおかげで魔術発動はせずとも、感知することだけはなんとなく出来るそうで、それを指摘されたとき、心臓がドゴンと跳ねた。

「イレネオ、知らない人の魔力をちょっと感じる気がするんだけど…?」

 と、半信半疑な様子とはいえそう言われてしまった。

 俺のバックに稲妻が落ちる絵面を想像してほしい。

 いや、お友達はまだ知らないはずだ。学園で保健体育の授業みたいなもんが今後あるのかは知らないが、ブルーノ先輩の野郎が『上の先輩から聞いた』と言っていたので下品な先輩と付き合うようなことさえなければ大丈夫だろう。

 俺の友達は上品だ。絶対大丈夫だ。多分。


 気のせいじゃない?と内心冷や汗だらだら
 で平静を装っていたが、だよねーと向こうから流してくれた。ホッとした。

 お友達の1人はユハニくん。
 蜂蜜色の髪と瞳。見るたびホットケーキが食べたくなる。

 お友達のもう1人はアポロニアちゃん。
 艶めく茶色の髪と桃色がかった薄茶の瞳。見るたびチョコレートが食べたくなる。

 どちらも入学当初からのお友達だ。



 その美味しそうなお友達が、今週末観劇に行かない?と誘ってくれた。

 行く行く!とすぐに乗ったが、俺宿題がちょっと溜まり気味なんだよね。ブルーノ先輩野郎のせいで休日何も出来なかったし。

 あと俺んちただの成金だから、貴族らしくしなきゃいけないときは前日軟禁されてビシバシ鞭打たれながら教え込まれてどうにか取り繕うって感じだったから、マナーとか忘れてないか不安なんだよ。



 相変わらず学園で四苦八苦してあっという間にいざ当日。

 馬車で迎えに来てくれてるのに、ここにきてやっぱ宿題が…マナーが…と弱腰になった俺を、『大丈夫だって』と蜂蜜ボーイが背中を物理的に押してくれ、チョコレートガールが『私達の真似すればいいのよ! 』と言って連れ出してくれた。いい子だ。




 いや、もう、一言では言い尽くせない。

 凄かった。この一言だ。一言で言えたじゃん。


 俺ミュージカルとかダメだったはずなんだよ。なんで話の途中で突然歌って踊るの?って思ってた。その理由が解った気がする。

 人の声だけどあれは声じゃない。歌だけど歌じゃない。なんていうかこう、慟哭とか。悲鳴とか。そういうものに聞こえた。

 あの子死んじゃうんだよな。彼女と結婚するって約束してたのに。

 昔の話らしく女の子同士だからって反対されて、頑張ってやっと両家に認めて貰えたのに。あー、俺むりだわそういうの。

 親もこんなところで死なせるために育てたわけじゃないんだ。小さい頃は初めて笑った喋ったと成長を喜んで、これから彼女と幸せにねって旅立ちを祝福して。なのに。

 感情って言葉になんないときあるよな。それを生々しく伝えるための歌であり楽器の音なんだ。

 一音一節に物語を煮詰めて煮詰めて凝縮させてあるんだ。



 ベソベソ泣く俺とアポロニアはユハニに背中をさすられながら、凄かったね、あそこの場面が主人公がと感想を語っていたところで、ふと俺の頭に学園の先生の言葉が浮かんできた。

『呪文は命。ただそこにあるものに命を吹き込む魂歌なのです』

 俺は前世で古文が覚えられなかった。春はあけぼの。はい終了。

 でもよく行ってたカラオケなんかではどうだった? 好きな曲はソラでも音がなくても歌えてた。

 今世の記憶に押されてあちこち記憶が薄れてるくせに、あの曲この曲、今でも歌える。



 ────これだ。
 呪文をメロディーに乗せる。
 魂の歌に、俺が変えてみせるのだ。
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