体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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18 先輩のお見舞いとセルリアン最速伝説

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 至れり尽くせりだった一晩のお泊まりを楽しんだ俺は身ひとつで来たため、学園長の差し入れくらいしか荷物がなかった。

 レイブン先生まだかなーと待っていると突然魔術師さんに呼ばれた。ブルーノ先輩が目を覚ましたとのことだ。

 院内は走らない! と言われたので最大速度の徒歩で向かった。話せるんだろうか。後遺症とかなかっただろうか。王立治療院の廊下は長すぎる。



 先輩は顔だけ出して、白いベッドに埋まっていた。

 嫌な既視感にドキッとしたが、顔色は凄く良い。なんなら艶々してるし、目尻がほんのり赤くて怪我人なのに色っぽいし、唇なんかプルップルなんだけど。え、もしかして、本当に魔力の注ぎ過ぎだった?

 二人きりになった病室で、俺は矢継ぎ早に話しかけてしまった。

「先輩、先輩、痛いとこない? 苦しいとこない?」
「大丈夫。ちょっとそこの魔道具のスイッチ入れてくれる?」

 小声の先輩が心配になったが、目線で促された棚の方を見た。あれ?  何で此処にこれが。

 なんでだろうと思いながらトグルスイッチをパチンと動かし、先輩の方へ向き直った。ちょっと耳貸して、と言うので近寄ってみる。

「僕と結婚してください」

 ──もう!! いつもいきなり!!!!

「…いいですよ! そんなことより怪我しないように気をつけてくださいよ!!」
「してくれるの?  やったあ」

「ていうかもう婚約してるから! お忘れでしょうか!」
「ふふ、忘れるわけない」

 どんな顔をしていいか解らなくなり、椅子に座って脚を踏み鳴らしていたら、先輩は慈愛に満ちた笑顔で俺を見つめてきた。なんなの! さっきから!

「あ、もう一個言うことあった。耳貸して」
「はいはい。次は何スか」

「僕、魔術効かない体質だから。これがバレると最悪、ネオくんのそばにも学園にも居られなくなるから誰にも言わないでね。内緒だよ」

 えっ。マジか。そうなの?  言うなってことなら逆立ちしても言わないけど、治療魔術師さんにはバレちゃってるのでは?

「国の研究対象ってことになってるから。あと大人のやり方で箝口令を敷いてある」

 お…大人のやり方ワイロ…!



 先輩は、今回はたまたま運が悪かったんだよねーと軽い口調で話した。

 完全に魔獣を倒すまであとちょっとのところを結界ありきで前に出ていたが、朝に弱い魔術師さんが単なるうっかりで怪我をして集中が途切れた。

 結界はほつれた程度だったし、他の魔術師さんが補佐に入ったが、その僅かな時間の僅かな隙間にでかめの瓦礫がビュンビュン飛んできて、何人かにブッ刺さったらしい。その一人が先輩だった。


 今聞いたばっかりだが、先輩は独学でそれなりに魔術は使える。やっぱりな。

 しかし使う機会が無さすぎると、咄嗟の発動はどうしても遅れるもんなんだとか。
 考え甘かったわー、アハハと笑っていた。笑いごとじゃねー。


 いくら魔力が多くても、いくら制御が上手くても、人間のやることだ。

 何かに気を取られれば失敗するし、意識を失えば術を維持することなんかは出来ない。魔力が多すぎるのに何もせずほっとけば暴発するからな。

 人間産のエネルギーはエコで便利だけど、それを使うのは結局人間だし、使い方にも注意が要るのだ。モノを動かすエネルギーってのはそういうもんだ。 

「ネオくん。僕、動けないから君からキスして」
「今しようと思ってましたよ」

 先輩の顔の横に手をついて、ゆっくり魔力を交換した。

 俺が上ってなんかいいな。ドキドキすんな。先輩が元気になったら一回くらい乗らせて貰うかな、と調子に乗ったことを考えていたら脇腹を撫でられて声が出た。動けないんじゃなかったんかい。

 先輩の悪い手を握ってつかの間のマウント気分を味わっていたら、ノックの音がした。

 なんだ、もうお開きか。レイブン先生のお迎えだ。



 ──────



「ああああああああああ!!!」
「舌噛むなよー」

 またコレである。別に急いでないのに。このオッサン、やはりスピード狂で間違いない。

「あ、やべ。また間違えちった」
「おえええええええええ!!!」

 空中にラインを描き、華麗なコーナリングを見せつけてくる。よく見たらまさかの片手運転である。狂ってやがる。

 腹をポリポリ掻いて欠伸しやがって。飛馬ちょうばもよく付き合えるよな。あ、飛馬の目が据わってる。こいつもそっち側だったか。



 この後も無意味な定常円旋回を数回繰り返され、やっと地上に降りたときには、まだ身体が空を飛んでるような感覚がして気持ち悪くなった。

 俺、よく吐かなかったよなあ。『じゃーなー』じゃねえよあのオッサン。イキイキした顔しやがって。


 ふらつきながら寮へ向かうと、ユハニとアポロニアが駆けてきた。俺らが急降下していたところを窓越しにハラハラしながら見ていたらしい。

 聞いてくれよ! と、みんなで学校へ向かいながらひとまず、オッサンのスピード狂っぷりを身振り手振りで訴えた。

「レイブン先生は昔、セルリアン最速として名を馳せたらしいからね」
「あの伝説の走り屋って先生のことだったのね」

 なんでみんな知ってんだ。ああ、単に速いから送迎役に指名されたんだな。学園長の采配、的確ダナー。

 ていうことは学園にいる間、俺が使えると判断されればああやってカッ飛ばされる機会がまた来るかもってことか。来年からは魔獣騎乗の授業が始まるらしいから、しっかり勉強しとこ。

 走り屋の魔獣クルマに同乗すんのはもうこりごりだ。全身痛いんだけど。


 何故俺が呼ばれたのかについて訊かれたとしても婚約者だから、で済むのだが、先輩の特殊体質のことが広まっているかもしれない。

 それをほぼ身内である俺に訪ねられたらどう答えようかと考えていたら、アポロニアが先に話してくれた。

「イレネオの婚約者様って、原因不明の呪いにかかってて研究対象なんでしょ? だから魔力があっても使えないし効かないんだって?」

 おー、そうきたか。なるほどね。呪いなら、条件付きタイプだから健康に見えても実は、って設定が使えるよな。考えたなー。

「めいっぱい魔力を渡せばどうにかなるよ。ていうかなった。そういうの婚約した後に分かったんだけど、俺は暴発防げるし、先輩は楽になれるし、ウィンウィン」
「へー! 良かったじゃない。運命の出逢いだわ。ねえねえ、魔力譲渡ってどうやるのぉ?」

 ピンクがかった薄茶の瞳がキラキラ輝いている。アポロちゃん、君分かってて言ってるだろ?

「アポロニア、お行儀が悪いよ」
「だってキスして相手を救うなんて、御伽噺みたいじゃない! 素敵ー!」

 紺色の制服のスカートをふわふわさせて軽く跳ねるアポロニアを見て和んでいたら、横でユハニが早口でボソッと言った。

「…もっと方法あるけどね」

 目ん玉を飛び出させながら横目でそっと確認したが、楽しそうなアポロニアをニコニコ見ているだけだった。独り言だった。


 ねえ…!? 何で知ってんの!? いつ悪いお友達ができたの!?!?  

 ユハニ! ユハニぃぃ!!

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