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35 六法全書再び
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秋の開校記念レースは楽しかった。またやりたい。来年は十馬身差をつけて優勝してやろう。目標ができた。俺のあとに続いたロメオとジェンティにはめっちゃライバル視されてるからな。期待にお応えしてやるよ。しかしなあ、ブルーノ先輩は卒業である。寂しいなあ。
この学園に入った者には特典がある。無理やり入学させた者へのフォローのつもりでもあるのか、卒業後の進路への道が舗装されていて就職率が高い。基本的に推薦か、スカウトが来るようになっているのだ。
先輩はレースをきっかけに、色々と自分を売り込んだという。全部事後報告だったが、王宮勤めになるそうだ。あなた隠れ王族なのにいいんですか、と突っ込んだが、『もしバレてもそれまでに実績を積めば、誰も何も言えなくなるだろうよ』と悪い顔をして言っていた。
卒業後、スムーズに働けるように何度か訪問したり、制服を作るための計測をしたりの細々としたことがあるのであまり会えなくなった。もう既に寂しい。俺はというと来年は試験対策に大いに時間を使わないとならないので、それから意識を逸らすために先輩と遊びたいって下心もあるが。
「ネオくん、いるー?」
「あっ、いるいる、いまーす!」
…などと考え込んでいたら先輩が来た。噂をすれば。
「暑いねこの部屋! 僕急ぐからはい、これ読んでおいて。予算は特になし。自由に注文つけて。場所はもう確保してあるからね! じゃ、よろしく!」
なんか超分厚くて重いものを渡され、呆気に取られていたらキスされ、走ってきたらしい先輩はまた走って去っていった。なんだ。どうしたんだ。
紙袋に入っていたのは本だった。なんか豪華な装丁の…………ん?
──────
前世では、鈍器になる結婚準備用雑誌が存在することだけは知っていた。しかし結婚したい人もいないし、そもそも大してモテない俺は本屋さんに行っても手に取ったこともなかった。なんかよくわからない付録がついているときだけ、こんなのあるんだと目に入れていただけな気がする。
今、俺の目の前にはそれらしきものがある。六法全書再び。何人か殺してもまだ使えそうな、あの結婚準備用雑誌よりも丈夫そうな代物である。つまりはそういうこと。
……もう! いつもいきなり!!
とりあえず開いてみる。うわ、目次だけで何ページ割いてるんだこれ。中々本題に入らない。ウエディングドレス…? いや着ない着ない。何故笑いを取りに行かねばならない。
ブライダルエステのメニュー…? お姫様が毎日メイドさんにあれこれしてもらうやつか? 俺マッサージ駄目なんだよな、くすぐったくて笑っちゃうから。ちょっと耐えられないかもしれない。
最近流行のお祝いの品…? あ、引き出物的な? え、たっか!! 一人にプレゼントするならわりと無理して出せる額だけど、これを人数分? おいおいどこのセレブだよ。王族価格じゃんかよ。祝い事だからってぼったくってない? うちにそんなお金はないよ。
常識とすれ違いの解消…。『ご結婚が決まり、おめでとうございます。今あなたは悩まれていらっしゃるのではないでしょうか。お家同士の家格差、持参金の金額、その内訳、領地経営の有無、現在のお仕事をどのように継続するかなどの結婚後の生活イメージを────』俺らに必要なのってこれじゃね?
この付箋が貼ってあるページはなにが書いてあるんだろう。パッと捲ると『王城ウエディング』とか書かれててへーって思った。知らなかった、貸し出ししてるんだ。でも式場関連の付箋ってここしか……
あ、もうやめよ。考えるのは。きっと意味がない上に精神衛生上、良くない。
──────
「つーことでゼク…じゃない、結婚準備事典だけ置いて先輩はどっか行った」
「おめでたいことなのに嵐のような渡し方ね…」
「あ、僕も結婚するから。卒業した後だけど」
──は?
「おいおいおい!! ユハニ突然すぎない!? おめでとう!? あのス…カーティス先輩か!」
「ありがとう。今ストーカーって言おうとしたでしょ。途中まで確かにストーカーだったからいいけど」
「しつこいのは良くないけど、粘り強いって美点にもなるわね。あ、私も卒業したら結婚しまーす☆」
──は??
「いやいやいや!! アポロちゃんも突然すぎない!? おめでとう!!」
「おめでとうアポロニア」
「ありがとー☆」
まあ珍しい話ではないのだ。学生結婚はそもそも国が推奨してるから。産めよ増やせよって施策だから男女の場合だけだけど。結婚したからって商売だけではなく領地経営があるお家でも、いきなり引き継ぎしたりはしない。徐々にお家の財産を守る方法と生業を続ける方法を親たちから学ぶのだ。だから王族とかじゃない人が、早くに婚約、結婚しても問題はない。
しかしどうした先輩。彼がいきなり行動するのはよくあることだが、いきなり速度を上げて間に合うものなのだろうか。間に合わせそうだけど。
「多分、王宮に入って半年くらい経ってから、一年は会えなくなるからじゃないかな。今大規模遠征の準備中だから。新人でも後方で支援に回される」
「初耳なんだけど!? だからあんな忙しいの!?」
「あと、うちのカーティス先輩とたまに話してるから結婚の話を聞いて、じゃあ自分もって思ったんじゃない?」
「あり得る…あり得る過ぎる…」
「大変ね、イレネオのとこは…」
このあと、前情報が殆どなかったアポロニアの結婚相手の話になり、俺の話は流れていった。
学生のうちはみんな寮暮らしだから変わらないとして、卒業したらどうなるんだろう。先輩ん家に住むのか、俺ん家に住むのか。別に家を用意するのか。持参金はいくらって話になるのか。そもそも俺はお嫁さん扱いなのか。うちが出して、返礼品を頂くことになるのか。
最初は仕事に慣れるのに時間がかかるから、上手くやれるか。使用人さんは雇うのか。募集した方がいいのか。両家から誰かついて来て貰うのか。うちの使用人さんと先輩ん家の使用人さん、ノリが違い過ぎて合わないんじゃないのか。
お金の話は親が勝手にやっちゃうだろうが、細かいことで話したいことはいっぱいある。でも相手が不在。大丈夫かなー。この結婚。
この学園に入った者には特典がある。無理やり入学させた者へのフォローのつもりでもあるのか、卒業後の進路への道が舗装されていて就職率が高い。基本的に推薦か、スカウトが来るようになっているのだ。
先輩はレースをきっかけに、色々と自分を売り込んだという。全部事後報告だったが、王宮勤めになるそうだ。あなた隠れ王族なのにいいんですか、と突っ込んだが、『もしバレてもそれまでに実績を積めば、誰も何も言えなくなるだろうよ』と悪い顔をして言っていた。
卒業後、スムーズに働けるように何度か訪問したり、制服を作るための計測をしたりの細々としたことがあるのであまり会えなくなった。もう既に寂しい。俺はというと来年は試験対策に大いに時間を使わないとならないので、それから意識を逸らすために先輩と遊びたいって下心もあるが。
「ネオくん、いるー?」
「あっ、いるいる、いまーす!」
…などと考え込んでいたら先輩が来た。噂をすれば。
「暑いねこの部屋! 僕急ぐからはい、これ読んでおいて。予算は特になし。自由に注文つけて。場所はもう確保してあるからね! じゃ、よろしく!」
なんか超分厚くて重いものを渡され、呆気に取られていたらキスされ、走ってきたらしい先輩はまた走って去っていった。なんだ。どうしたんだ。
紙袋に入っていたのは本だった。なんか豪華な装丁の…………ん?
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前世では、鈍器になる結婚準備用雑誌が存在することだけは知っていた。しかし結婚したい人もいないし、そもそも大してモテない俺は本屋さんに行っても手に取ったこともなかった。なんかよくわからない付録がついているときだけ、こんなのあるんだと目に入れていただけな気がする。
今、俺の目の前にはそれらしきものがある。六法全書再び。何人か殺してもまだ使えそうな、あの結婚準備用雑誌よりも丈夫そうな代物である。つまりはそういうこと。
……もう! いつもいきなり!!
とりあえず開いてみる。うわ、目次だけで何ページ割いてるんだこれ。中々本題に入らない。ウエディングドレス…? いや着ない着ない。何故笑いを取りに行かねばならない。
ブライダルエステのメニュー…? お姫様が毎日メイドさんにあれこれしてもらうやつか? 俺マッサージ駄目なんだよな、くすぐったくて笑っちゃうから。ちょっと耐えられないかもしれない。
最近流行のお祝いの品…? あ、引き出物的な? え、たっか!! 一人にプレゼントするならわりと無理して出せる額だけど、これを人数分? おいおいどこのセレブだよ。王族価格じゃんかよ。祝い事だからってぼったくってない? うちにそんなお金はないよ。
常識とすれ違いの解消…。『ご結婚が決まり、おめでとうございます。今あなたは悩まれていらっしゃるのではないでしょうか。お家同士の家格差、持参金の金額、その内訳、領地経営の有無、現在のお仕事をどのように継続するかなどの結婚後の生活イメージを────』俺らに必要なのってこれじゃね?
この付箋が貼ってあるページはなにが書いてあるんだろう。パッと捲ると『王城ウエディング』とか書かれててへーって思った。知らなかった、貸し出ししてるんだ。でも式場関連の付箋ってここしか……
あ、もうやめよ。考えるのは。きっと意味がない上に精神衛生上、良くない。
──────
「つーことでゼク…じゃない、結婚準備事典だけ置いて先輩はどっか行った」
「おめでたいことなのに嵐のような渡し方ね…」
「あ、僕も結婚するから。卒業した後だけど」
──は?
「おいおいおい!! ユハニ突然すぎない!? おめでとう!? あのス…カーティス先輩か!」
「ありがとう。今ストーカーって言おうとしたでしょ。途中まで確かにストーカーだったからいいけど」
「しつこいのは良くないけど、粘り強いって美点にもなるわね。あ、私も卒業したら結婚しまーす☆」
──は??
「いやいやいや!! アポロちゃんも突然すぎない!? おめでとう!!」
「おめでとうアポロニア」
「ありがとー☆」
まあ珍しい話ではないのだ。学生結婚はそもそも国が推奨してるから。産めよ増やせよって施策だから男女の場合だけだけど。結婚したからって商売だけではなく領地経営があるお家でも、いきなり引き継ぎしたりはしない。徐々にお家の財産を守る方法と生業を続ける方法を親たちから学ぶのだ。だから王族とかじゃない人が、早くに婚約、結婚しても問題はない。
しかしどうした先輩。彼がいきなり行動するのはよくあることだが、いきなり速度を上げて間に合うものなのだろうか。間に合わせそうだけど。
「多分、王宮に入って半年くらい経ってから、一年は会えなくなるからじゃないかな。今大規模遠征の準備中だから。新人でも後方で支援に回される」
「初耳なんだけど!? だからあんな忙しいの!?」
「あと、うちのカーティス先輩とたまに話してるから結婚の話を聞いて、じゃあ自分もって思ったんじゃない?」
「あり得る…あり得る過ぎる…」
「大変ね、イレネオのとこは…」
このあと、前情報が殆どなかったアポロニアの結婚相手の話になり、俺の話は流れていった。
学生のうちはみんな寮暮らしだから変わらないとして、卒業したらどうなるんだろう。先輩ん家に住むのか、俺ん家に住むのか。別に家を用意するのか。持参金はいくらって話になるのか。そもそも俺はお嫁さん扱いなのか。うちが出して、返礼品を頂くことになるのか。
最初は仕事に慣れるのに時間がかかるから、上手くやれるか。使用人さんは雇うのか。募集した方がいいのか。両家から誰かついて来て貰うのか。うちの使用人さんと先輩ん家の使用人さん、ノリが違い過ぎて合わないんじゃないのか。
お金の話は親が勝手にやっちゃうだろうが、細かいことで話したいことはいっぱいある。でも相手が不在。大丈夫かなー。この結婚。
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