体育会系の魔法使いは呪文が覚えられない~暴死するか先輩と寝るかの二択です~

清田いい鳥

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私の業績の中で最も輝かしいことは、 妻を説得して私との結婚に同意させたことである

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 結婚式当日の朝は早い。

 メイドさんがだーっと雪崩込んできたと思ったら、もう一人では何もさせて貰えなかった。

 朝食の後に優雅な朝風呂である。堂々と入って来られてあちこち磨かれたと思ったら、今度は台に乗せられまたあちこち剃られたり塗られたり揉まれたりする。

 手技のテクニックが半端ない。俺、マッサージとかダメなはずだったのに。これ結構気持ちいいなーと思った瞬間、眠らされていた。さっき起きたばっかりなのに。

 なんか顔とか髪にも色々塗られ、作り変えられてゆく自分を黙って見守るしかできなかった。どんどん顔が高画質化する。8K画質になってゆく。

 顔面のポテンシャルが高くなった俺に、メイドさんもとい凄腕美容家集団は、以前さんざっぱら試着を繰り返させられやっと決まった衣装をテキパキ着せてくれる。



 出来ましたよー、とメイドさんがブルーノ先輩を連れてきた。

 彼は口に人差し指を当て目を見開き、一時停止した後、会心の笑みを浮かべた。

「…これはこれは。脱がすのが大変そうだなー。下着ってレースのやつ?」
「今その冗談に付き合う余裕がないであります」

 手を繋いで歩きながら、今世紀一番格好いい姿をして、甘くて低く響く声で残念な発言をする先輩を適当にあしらっている内に到着した。



 ──────



 シックなネイビーと金刺繍の絨毯ドーン。高い天井バーン。からの祭壇ズドーン。

 そう、ここは王城内の教会。街の教会じゃない。 

『王子を袖にした男として盛大に祝ってあげるよ』と、気を利かせた、否、公開処刑を企んだニコラウス王子から、ほぼほぼ命令としてこの教会が提供されたのだ。式場はこちらが押さえたのではなく、使えよ、と押し付けられたのが本当のところだ。

 家格が高ければ使うこともある、左右がきっちり揃ったデザインの巨大ステンドグラスが典麗なこの教会。それなりに知名度がある先輩の家と、誰? みたいな俺の家。

 絶対要らないのに、無駄に護衛の騎士さんと兵士さんがビシッと並んで壮観だ。何から俺たちを守ってくれようとしているのか。壇上には、微笑み王子と大司教さんがいる。

 堅苦しいのが超絶苦手な俺の性格を見抜かれている。やるじゃねえか王子。父王の指摘に参ってたあの人が、自由にやるようになってきた。

 自由には責任が伴うけど、自由ってのは面白いんだ。それをたんまり味わうがいいさ。気まずくなりながら、堅苦しい儀式に耐えるこの俺を見て笑うがよい。

 事前に練習しまくった、ガチガチに決められたお堅い手順をどうにかこなし、最後は俺と先輩、大司教さん、王子様のサインが入った、絶対そこまでしなくて良かった大御所揃いの、世界一大袈裟な結婚証明書を作成。

 お決まりのキスをして、生オーケストラでの贅沢な賛美歌を歌って、みんなに出迎えて貰う。



 は────、やり切った。
 礼の角度まで決められてるってどういうことだよ。

 神に誓って、更に王家に誓って。長い文言フル暗記したけど緊張して飛んじゃって、カンペがないから何度も先輩に囁いて貰った。

 ビデオとかの記録装置がなくて良かったよ。写真だけでいい。その写真も撮られ慣れてない。どんな顔が収められてんだろ。見返すのが怖い。

 先輩に手を取られ、美しい音楽と共に扉が開いた。



 ──────



 王家お抱えの魔術師様が、水でできたシャボン玉らしきものを飛ばしたと思ったら、それが魚に変わり、鳥に変わり、極めつけには三重の虹を出してくれた。

 今は羽根の生えた人魚みたいなのが、虹の間を何匹もくるくると飛んでいる。カラフルな花吹雪が優雅かつ、規則正しく舞っている。あれだ、一万一千回転キッチリ回すやつ。

 技術が。プロの技術が凄すぎる。



 みんなが、すごいー!  キャー!  とひとしきり拍手をして感嘆の声を上げた後、おめでとー!と、次々に声をかけてくれた。

 そんな中で誰かが呻いているなと目線を向けると、兄貴が膝から崩れ落ちて泣いていた。
 えええええ!?  兄貴どうした!!


 親父も凶悪な顔して泣いてるし。横で母様がヨシヨシしてる。
 逆じゃない!?


 先輩のお父様とお母様は、ちょっとホロリという感じで、上品な仕草で目元にハンカチを当てている。
 うん、これくらいが丁度いいと思う。


 ユハニは目を真っ赤にして、ユハニの婚約者のカーティス先輩とアポロニアがわんわん泣いている。ありがとな。カーティス先輩、あんま関係ないのに。感激屋だな。
 劇場でもみんなで感動して、泣いちゃったことが懐かしい。

 先輩の友達もいい感じに涙腺崩壊してるわ。あっ、薔薇持って先輩の部屋に行ったとき、ダッシュで出てきた人達だ。あの頃が懐かしい。

 サンタの学園長、スピード狂のレイブン先生、魔獣王のカイ先生、担任のエタン先生が後ろの方にいる。

 アサシン家庭教師のキール先生もいる。笑顔で拍手してくれている。


 他にも近所の友達や、クラスメイトや親戚など、いっぱい参列者がいるのだが、来てくれてんのに誰が誰だか思い出せない人も中にはいる。俺の脳みそメモリなど、そんなもんだ。

 はー、みんな本当にありがとう。俺、超感動したわ。超貰い泣きしそう。

 ねー先輩、俺も泣きそう、と話しかけようとして隣を向いて、二度見した。



 号泣してた。先輩が。



 豪華な花弁の雨の中、目の辺りを真っ赤にして顔をしかめ、閉じた瞼のどこから出てくるんだか分からない量の水がぼたぼたと流れ出て、衣装や床に落ちてゆく。

 大きい手で顔を覆いながら、身体がフラフラ傾いちゃって、もう今にも倒れそう。俺はブーケを握りしめながら、慌てて手を回して支えた。

 俺に強くしがみつき、俺の頭に顔をぐいぐい押し付けて、でっかい男が子供みたいに声を上げて泣いている。

 頭と肩が濡れてきた。濡らして大丈夫かなこの衣装。

 何度もしゃくり上げて、ぎゅうぎゅう抱き付いてくるから息が苦しいし、俺も倒れそうなんだけど、腰を入れて頑張って支えた。

 それでも全然泣き止まなくて、貰い泣きが落ち着いた後のみんなに笑顔で背中をさすられ、ハンカチを渡された先輩が、立って歩けるまで支え続けた。

 大変だな奥様! 愛されてんな奥様! と、俺だけめちゃくちゃからかわれた。



 式の後はどこの国も大体宴会になる。奥さんになる人の家でのホームパーティだ。邸と家族と使用人との、おめでたいお別れという意味合いがある。

 オシャレな白い鞍と金色のアクセサリーをめいっぱい着けて、着飾った飛馬ちょうばのジュリア号が曳く馬車に乗り、俺の実家へ先乗りする。

 花の絨毯の上で、騎士さん達と兵士さん達が、一糸乱れぬ敬礼を見せた。



 ──────



 先輩は泣きはらした目を眠そうに伏せて、鼻声を震わせて言った。

「ごめんね。オレ、泣くつもりじゃなかっ…………」

 もー。また泣いてんじゃねえか。よしよし。



 可愛いじゃん。俺の旦那さん。

   

 挙式、やってよかったな。こんな良いもんだとは知らなかった。無事に終われて良かったな。

 しっかし先輩、重かったー。着痩せしてるけど筋肉多いからな。

 飛馬に乗って、鈍った筋肉を少しは取り戻しといて良かった。思わぬところで役に立ったぞ。

 こっそりと、心の中でそう思った。


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