趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

文字の大きさ
51 / 74

路地裏

しおりを挟む
 ラグナルの声がまだ背後で響いている中、俺は焼き鳥を片手に、そっと人混みから抜け出した。

(……こういう時に動かないと、絶対誰かに捕まる)

 言い訳はちゃんとある。
 リゼットへのお土産だ。
 いつも留守を任せてばかりだし、何か形に残るものを買って帰らなきゃ後が怖い。
 下手をすれば、「それでは、シン様をお土産としていただきます」とか言いかねない。本気でやるからな。
 通りの喧騒を避け、ひっそりとした裏路地へと入る。
 人混みから解放されただけで、胸の奥がすっと軽くなる。
 軒を連ねるのは、小さな雑貨屋ばかり。
 木の棚や縄に吊るされた品々は、どれも観光客向けの手工芸品で、通りの大通りよりも落ち着いた空気を漂わせていた。
 籠細工に小さなランプ、魔除けと称されたお守り。
 金属細工の指輪やペンダントは手作りらしい歪みがあって、逆に味になっている。
 俺の視線が止まったのは――細い銀糸で編まれた髪飾りだ。
 澄んだ青のガラス玉が中央に嵌め込まれていて、落ちかけている夕陽の残滓を透かして淡く光り、小さな水晶の雫のように見える。
 リゼットが身につける姿は想像できない。
 ただ、机の引き出しに大事そうにしまって、時々そっと取り出して眺めたりする。
 そんな姿は、妙に容易く思い浮かんでしまう。
 
「お客さん、良い目してるねぇ」
 
 店の婆さんが、にやりと笑って声をかけてきた。
 
「これはね、恋人への贈り物にぴったりさ。幸せを呼ぶ色だって言われてんだよ」
「いや、恋人とかじゃなくて……」
 
 慌てて否定するが――。
 
「どうだい、包んどこうか?」
「……お願いします」

 婆さんが器用に小箱へ髪飾りを収め、柔らかな布で包む。
 俺はそれを受け取り、上着の内ポケットにしまい込むと、胸の内で小さくガッツポーズをした。

(よし、これで土産問題はクリアだ……!)
 
 あとは人知れず戻れば完璧だ――そう思った矢先。

「……ッ、やめろ! 誰か助け――!」

 裏路地の奥から、掠れた悲鳴が響いた。
 十中八九、盗賊の仕業だろう。
 現地のいざこざに首を突っ込みたくないが、見過ごすのも寝覚めが悪い。
 
「……はぁ」

 諦めのようなため息を一つ。
 さっき手に入れた髪飾りの小箱を上着の内ポケットに押し込み、肩を回す。
 戦う準備なんてしてきていないのに、身体はもう勝手に動くモードに入っていた。
 音のする方へ足を踏み入れると、薄闇の中で光る刃が見えた。
 二人組の盗賊が、観光客らしい男を壁際に押し付けている。
 片方は肩で男を押さえ込み、もう片方が短剣をちらつかせ、財布をもぎ取ろうとしていた。

「離せっ! 助けて……っ!」

 必死に抵抗する男。
 だが、刃先が喉元をかすめた瞬間、その声が恐怖に詰まる。
 下手をすれば財布どころか、命まで奪われかねない。
 俺は、足を止めずに声をかけた。

「――おい」

 盗賊達の肩がピクリと揺れる。
 振り返った顔には、狩りを邪魔された獣のような苛立ちが浮かんでいた。

「なんだテメェ」
「観光客か? こっち見なかったことにして帰んな」

 短剣を構える盗賊の腕が、わずかに震えていた。
 威嚇のつもりなんだろうが、あの構えじゃ素人同然だ。

「観光客じゃない。ギルド仕事で来てるんだよ」

 俺はそう告げ、念のために持っておいた腰の木剣を抜いた。
 金属の剣じゃないから舐められるかもしれないが、別に構わない。

「悪いが、その財布は置いてけ」

 静かに告げた俺の言葉に、盗賊の顔が真っ赤に染まる。「ふざけんな!」と怒声を張り上げ、勢い任せに飛びかかってきた。
 振り下ろされた短剣。けれど、踏み込みは浅い。
 恐怖を紛らわせようとして吠えた結果、力が空回りしている。
 俺は半歩だけ身体をずらし、木剣の柄尻を鳩尾に叩き込んだ。
 ぐえっ、と呻いて倒れ込む盗賊。
 その様子にもう一人が狼狽し、反射的に短剣を突き出してきた。
 だが、狙いは雑だ。突き出された腕をすり抜けるように身をひねり、空いた胴へ、木剣を横薙ぎに叩きつける。
 鈍い音と共に、そいつも壁にぶつかって崩れ落ちた。
 
「……弱いやつでよかった」

 思わず安堵の息が漏れる。
 この程度なら、ただの街のゴロツキだ。
 木剣を振るい直し、観光客の男に手を伸ばそうとした、その時――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

処理中です...