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2.作戦会議
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「そういう事情なのですけれど、何かよい手立てはないかしら?」
リリアナは貴族学校時代からの唯一の親友、フラビアに問いかけた。ひょんなことから同じ恋愛小説を読んでいたことが判明して仲良くなったフラビアは、卒業後は自ら志願してリリアナの侍女となってくれた。そして今も泣きながらリリアナの思いに共感を示し、一緒に方法を考えると請け負ってくれる。
「イノセンシオ様も春に貴族学校をご卒業なさいましたから、おふたりのご結婚まであまり時間がありません。早急に手を打つ必要があります」
そう。ふたりの結婚に向けての準備は着々と進んでいる。リリアナは全寮制の貴族学校を卒業して以降は城に部屋を与えられ、結婚式こそまだだがほぼイノセンシオの妃として扱われている状態なのだ。
「……本当はあまり使いたくない手段なのですが、魔女の力を借りるよりありませんね」
「魔女」
リリアナはフラビアの言葉を繰り返した。
「我が領は薬草がよく採れるので魔女との結びつきが強いのです。魔女に頼んでイノセンシオ様の真のお気持ち、真の姿をさらけ出す薬を作らせましょう。知り合いの魔女は我々の同士ですから快く引き受けてくれるはずです」
フラビアがそう言ってリリアナを見つめる。リリアナが王子妃でなくなればフラビアも職を失うことになるのに、と思うと胸が痛む。
「わたしのわがままに付き合わせてごめんなさい、フラビア」
フラビアは心得たように笑う。
「わたしはずっと、リリアナ様のそばにいますから」
たとえイノセンシオ様と離れ、モンテニエに戻ることになったとしても。
フラビアの言葉の意味を正しく理解して、リリアナは黙ったまま微笑んだ。
薬は自白薬を応用したのですぐに調達できた。軍に卸している一番強力な自白薬が使えればよかったのだがイノセンシオは訓練でそれを飲んだことがある。一生忘れられそうにないくらい不味かったと苦笑しながら話してくれたことをリリアナはよく覚えていた。
リリアナからその情報を得た魔女は、イノセンシオに気づかれないような無味無臭の自白薬を用意した。
「ただ、薬そのものの効果はそれほど高くありません。それを補うためにこれを用意しています」
魔女が蝋燭を取り出してリリアナに示す。
「蝋燭に薬の効果を増幅させる香りをつけています。これが点いている間は、鋼の自制心を持つ男と名高いイノセンシオ様でも真の姿をリリアナ様に見せてくださることでしょう」
薬だけではダメで、蝋燭の光をきっかけに効果が出るようにしてくれたらしい。イノセンシオが所かまわず愛する人の名を口走ってしまうといけないという魔女なりの気遣いなのだそうだ。細やかな配慮にリリアナは心から礼を述べた。
リリアナ以外にイノセンシオの真の姿を見られないようにすること、蝋燭を使うことというふたつの条件を考えると決行は夜が望ましい。魔女が転移魔法でリリアナをイノセンシオの寝所に送り込み、フラビアはイノセンシオの侍従の気を引いてリリアナがいることを悟られないようにしてくれるのだという。
段取りが決まったところでリリアナはふたりに目配せをし、手を差し出す。
ふたりの手がすぐに重なった。
「イノセンシオ様の幸せのために」
「リリアナ様のお心のままに」
言葉こそ揃わなかったが、イノセンシオの真の姿をさらけ出す、という目的は一致していた。
最大の難関はどうやってイノセンシオに薬を飲ませるか、だったが思わぬところから協力者が現れた。
イノセンシオの侍従、ニコラスだった。
リリアナたちが何かしていると勘づいた優秀な侍従、かつ、フラビアの兄でもあるニコラスは妹を問い詰めて洗いざらい計画を吐かせ、全てを知った上で協力を申し出てきた。
「リリアナ様がそこまで強い覚悟をお持ちならば私も協力いたします。……このままではイノセンシオ様があまりにもお気の毒だ」
ニコラスが就寝前のイノセンシオに薬を混ぜた水を飲ませ、誰か来ないか廊下で見張ると言ってくれたことで難易度が大幅に下がった。
作戦実行日についてもニコラスの意見が大いに役に立った。
「軍での大規模演習があり、イノセンシオ様が疲れてお戻りになる日はいかがでしょうか。そういった時の方が薬の効き目も高いでしょうし、翌日の予定も空けてあるので不測の事態が起きたとしても安心です」
「不測の事態?」
「自白薬を使用した後は起きていられないことはリリアナ様もご存じでしょう?」
そういえば、魔女がそう言っていたような気がする。
「予定がなければ少々寝過ごしたところで誰も困りません。……リリアナ様も疲弊するでしょうから、翌日の予定を空けておくことをおすすめします」
ニコラスのその言葉に、リリアナはそういうものかと納得して頷いたのだった。
リリアナは貴族学校時代からの唯一の親友、フラビアに問いかけた。ひょんなことから同じ恋愛小説を読んでいたことが判明して仲良くなったフラビアは、卒業後は自ら志願してリリアナの侍女となってくれた。そして今も泣きながらリリアナの思いに共感を示し、一緒に方法を考えると請け負ってくれる。
「イノセンシオ様も春に貴族学校をご卒業なさいましたから、おふたりのご結婚まであまり時間がありません。早急に手を打つ必要があります」
そう。ふたりの結婚に向けての準備は着々と進んでいる。リリアナは全寮制の貴族学校を卒業して以降は城に部屋を与えられ、結婚式こそまだだがほぼイノセンシオの妃として扱われている状態なのだ。
「……本当はあまり使いたくない手段なのですが、魔女の力を借りるよりありませんね」
「魔女」
リリアナはフラビアの言葉を繰り返した。
「我が領は薬草がよく採れるので魔女との結びつきが強いのです。魔女に頼んでイノセンシオ様の真のお気持ち、真の姿をさらけ出す薬を作らせましょう。知り合いの魔女は我々の同士ですから快く引き受けてくれるはずです」
フラビアがそう言ってリリアナを見つめる。リリアナが王子妃でなくなればフラビアも職を失うことになるのに、と思うと胸が痛む。
「わたしのわがままに付き合わせてごめんなさい、フラビア」
フラビアは心得たように笑う。
「わたしはずっと、リリアナ様のそばにいますから」
たとえイノセンシオ様と離れ、モンテニエに戻ることになったとしても。
フラビアの言葉の意味を正しく理解して、リリアナは黙ったまま微笑んだ。
薬は自白薬を応用したのですぐに調達できた。軍に卸している一番強力な自白薬が使えればよかったのだがイノセンシオは訓練でそれを飲んだことがある。一生忘れられそうにないくらい不味かったと苦笑しながら話してくれたことをリリアナはよく覚えていた。
リリアナからその情報を得た魔女は、イノセンシオに気づかれないような無味無臭の自白薬を用意した。
「ただ、薬そのものの効果はそれほど高くありません。それを補うためにこれを用意しています」
魔女が蝋燭を取り出してリリアナに示す。
「蝋燭に薬の効果を増幅させる香りをつけています。これが点いている間は、鋼の自制心を持つ男と名高いイノセンシオ様でも真の姿をリリアナ様に見せてくださることでしょう」
薬だけではダメで、蝋燭の光をきっかけに効果が出るようにしてくれたらしい。イノセンシオが所かまわず愛する人の名を口走ってしまうといけないという魔女なりの気遣いなのだそうだ。細やかな配慮にリリアナは心から礼を述べた。
リリアナ以外にイノセンシオの真の姿を見られないようにすること、蝋燭を使うことというふたつの条件を考えると決行は夜が望ましい。魔女が転移魔法でリリアナをイノセンシオの寝所に送り込み、フラビアはイノセンシオの侍従の気を引いてリリアナがいることを悟られないようにしてくれるのだという。
段取りが決まったところでリリアナはふたりに目配せをし、手を差し出す。
ふたりの手がすぐに重なった。
「イノセンシオ様の幸せのために」
「リリアナ様のお心のままに」
言葉こそ揃わなかったが、イノセンシオの真の姿をさらけ出す、という目的は一致していた。
最大の難関はどうやってイノセンシオに薬を飲ませるか、だったが思わぬところから協力者が現れた。
イノセンシオの侍従、ニコラスだった。
リリアナたちが何かしていると勘づいた優秀な侍従、かつ、フラビアの兄でもあるニコラスは妹を問い詰めて洗いざらい計画を吐かせ、全てを知った上で協力を申し出てきた。
「リリアナ様がそこまで強い覚悟をお持ちならば私も協力いたします。……このままではイノセンシオ様があまりにもお気の毒だ」
ニコラスが就寝前のイノセンシオに薬を混ぜた水を飲ませ、誰か来ないか廊下で見張ると言ってくれたことで難易度が大幅に下がった。
作戦実行日についてもニコラスの意見が大いに役に立った。
「軍での大規模演習があり、イノセンシオ様が疲れてお戻りになる日はいかがでしょうか。そういった時の方が薬の効き目も高いでしょうし、翌日の予定も空けてあるので不測の事態が起きたとしても安心です」
「不測の事態?」
「自白薬を使用した後は起きていられないことはリリアナ様もご存じでしょう?」
そういえば、魔女がそう言っていたような気がする。
「予定がなければ少々寝過ごしたところで誰も困りません。……リリアナ様も疲弊するでしょうから、翌日の予定を空けておくことをおすすめします」
ニコラスのその言葉に、リリアナはそういうものかと納得して頷いたのだった。
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