路地裏に捨てられた絶望アルファは希望を知る

爺誤

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4 絶望から

 いくらすばしっこく走れると言っても、足を折られてはどうにもならない。ロゴンはよくわかっていて、最初に俺の足を潰した。
 意地でも声を上げまいと歯を食い縛っていたら、顎を掴んで無理矢理口を開けさせられて、手下の汚いブツを押し込まれた。

「服は汚すなよ。どこで盗んだか知らねえが、良い値で売れそうだ」
「りょーかいっす。ケツは新品みたいだな」
「ヤられてねえなら、オレらがハジメテかよ」
「へぇ、見せろよ」

 尻たぶを掴まれて、誰にも見せたことのないところを露わにされた。オメガじゃあるまいし、そこはただの排泄用の穴だ。
 潰された足が痛すぎて、抵抗もまともにできない。
 四人の大人に押さえつけられていては、仕方がないことだけど。

「じゃあ、オレが最初だな。ネイジェ、おまえのハジメテのオトコはオレだ」

 ロゴンが宣言し、チンコを取り出した。手下のよりもデカいそれに、ゾッとする。子どもの腕ぐらいありそうな凶悪なデカさ。
 ケツから裂かれて死ぬのか。ロゴンのアレで。

 あと少しだったのに。金も貯まって、フルーカなんか気にしないでとっとと街を出たら良かった。最後に荒稼ぎしようとしないで、ケモノ野郎になんか関わらなきゃ良かった。
 生まれて来なければ、苦しむこともなかったのに……

 口中から汚いモノが消え、拘束する腕が減ったのは、ロゴンが妙な気を出して体勢を変えようとしたのだろうと思った。だから、せめて反応して喜ばせないようにしようと、目を閉じてじっとしていたのだが。

 ふわりと布に包まれた。とても温かくて手触りがいい。すごく上等なものだ。
 不思議なことになんの音も聞こえなくて、不思議な気配に包まれていることに気付いた。魔法だ。

 最近、俺の前で魔法を使ったやつは一人だけだ。サナンというケモノ野郎だろうか。俺が死んだら懐中時計の在処がわからないから助けたのだろう。まだ約束の時間には早かったはずだけど。

「もう、大丈夫だよ」

 聞こえた声はサナンじゃなかった。同時に、身体の痛みが引いていく。魔法使いはこの声の主だ。

「サナン、それぐらいでいいよ。あとは法的に裁けばいい」
「こんな子どもに複数で……生かしておく必要はないだろう」

 ぐしゃっと肉ごと骨を砕く音。汚い悲鳴はロゴンのものだ。見えないけれど、サナンがロゴンをボコボコにしているのだとわかる。俺はロゴンに全く敵わなかったのに……獣人の力にゾッとする。

「法的に裁いても余罪がいっぱい出てくるだろうから心配いらないよ。それよりもサナン、これは、半分はサナンが招いた事態だよ」

 布越しに背中を撫でられて、この魔法使いは俺を可哀想に思っているのだとわかる。いつもなら反発するけれど、死を覚悟したからか、嫌な気持ちにならなかった。

「うん。これは僕のやり方が悪かった」
「責任を持って、この子は君が処遇を決めるべきだ」
「それがいいだろう」

 どんな魔法か、痛みがなくなっている。俺は助かったし、ロゴンと手下たちも捕らえられたのだろう。
 意を決して包まれた布から顔を出すと、想像以上にボコボコにされたロゴンたちが転がっていた。

「……すごい」
「あっ、こんな悲惨なとこを見たら良くない」
「慣れてるし。あんたたち、強いんだな。逃げないから、約束したブツを取りに行かせてくれ。取られないように隠したから」

 俺を抱きしめていたのは、淡い金とも銀ともいえる髪に灰色の瞳の弱そうな男だった。潰された足も、血の跡は残っているけれど、痛みはない。

「服は破られてないはずだけど」
「これかな。悪い、踏んでしまった」
「いいよ。これぐらい」

 服の足跡ぐらいよくあることだ。破れていても着られればいい、そんなところで生きてきた。
 サナンが差し出した服をさっと着ると、大きな靴跡がついている。サナンの靴跡だろうが、俺もこんなに大きくなれるだろうか。

 靴跡をまじまじと見ていても仕方がないから、すぐに戻ると伝えて走り出そうとした。だけど、弱そうな魔法使いに腕を掴まれる。
 こいつには助けられているばかりだから、振りほどくわけにはいかない。足を潰されたはずの俺が走れるのもこいつのおかげだ。

「あんたらに敵わないことはわかったから、いるもの持って戻るよ」
「あ、と、元気そうなのは良かった。そんなに急がなくても」
「そんなにしっかり隠してないから、取りに行くのは早い方がいい。必ず戻るから」
「そうじゃなくて、心配なんだ。また、酷い目にあったら」

 それは新鮮な驚きだった。俺が怪我をしようが野垂れ死のうが、誰も気にもしないだろうから。強いて言えばフルーカは気にしていただろうが、それも自分が生きるために俺が必要だったというだけだ。

「俺を捕まえられるのはロゴン……そこにいる奴らと、そこのサナンぐらいだった。だから、もう誰にも捕まらねぇよ」

 怪我も治してもらったし、とその場で足踏みをして見せると、サナンが前に出た。

「僕が一緒に行く。シェンはこいつらを兵士に引き渡しておいて」
「うん。そうしよう」

 弱そうな魔法使いはシェンというらしい。
 サナンが手を上げたから反射的に身体を固くすると、ごめんと言う。

「その、汚れを叩いたらマシになるかと。僕は清浄の魔法は得意じゃないから」
「泥と血が混ざってるから、はたいた程度じゃ取れない。気にしてないし」
「うん。ごめん」

 心なしか耳が少し垂れて、ロゴンたち相手に無双しただろう雰囲気はどこにもなくなった。
 本当に強い奴は、強そうに見えないのか。
 ハリボテの強さを誇っていたロゴンしか知らない俺には、何もかも初めてだった。

「そんなに遠くない」

 懐中時計と、あちこちに隠した金を回収する間、サナンは黙ってついてきていた。
 少しだけ考えて、俺は稼ぎを全てサナンに差し出した。

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