リセット

爺誤

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一章

8 あれは俺のものじゃない

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 家に帰ると、仁王立ちの兄がいた。

(ヒィ……)

「そこに座れ」

 何となく正座する。お説教を甘んじて受けますのポーズだ。少しでも追及が緩むといいんだけれど。

「諒と俺は二人になるなと言ったよな?」
「ハイ……」
「何で連れ込まれてる」

 全然緩くない。俺が兄に媚びたところで無駄なのは分かっていたけどさ。

「あ、連れ込んだの俺。あいつ泣いちゃって、人目が気になって、つい」
「何もなかったのか?」
「う、うん。何もないよ?」

 冷汗が出る。ちょっとこれどうしよう。俺女子高生じゃないけど、朝帰りを見つかって父親に怒られてるみたな状況じゃないか。

「じゃあ首のそれは何だ」
「え?」

 兄が首の一点を指差す。
 諒さんがため息をついて、手鏡を持ってきてくれた。

「虫刺され? 昼メシ、外だったし」

 指で押したような赤いのができていた。いつできたんだろう。

「健吾、それキスマークだよ」
「まじで? 初めて見た」

 鏡をまじまじと確認した。
 あ、祐志が吸い付いてたな。チリっとしたやつ。そうだ。思い出した途端、顔が熱くなる。

 兄と諒さんが顔を見合わせて、険しい顔だ。
 緩い弟でごめんなさい。俺、こんな風じゃなかったはずだけど……。

「あ、でも番なら仕方ない……て、いうか……」

 怖い怖い怖い。
 諒さんが笑顔なんだけど、めっちゃ怖い。
 もう俺、喋らない方が良いと思う。

「番なら仕方ないって言うようなこと、されたの?」

 答えないとやばいと思います!

「い、入れてない! 入れようとしたら、電話、兄さんの電話かかってきたから」

 フェラはノーカンだよね? してもらっただけだし。
 俺の貞操なんて今更だし、相手が祐志ならちゃんと番だし、誰彼構わずって訳でもないし、駄目かな……。

「俺が電話をしなかったら、入れてた訳だな」

 そんなにはっきり言われると恥ずかしいです。身内に下ネタとか、答えられないよ……。

「健吾、僕も和久もあいつが番の立場を利用して、君を体から籠絡するんじゃないか心配してるんだ。僕らオメガは、番相手が優しくしてくれたら嬉しいし、体も反応する。本能みたいなものだ。そこに君の心はあるの?」

 俺の心?
 そんなものとっくに砕けてどこかに行った。
 大事なことが何かも、思い出せないんだ。
 今は、ただ周りに流されて生きてる……。
 俯いていると、アラームが鳴った。

「あ、双子のお迎え」

 俺の希望の光。
 あの子達だけが俺を現実に繋ぎ止めている。

「ふぅ、この話はまた今度な」
 
 兄が終わりを宣言した。

 迎えに行こうとすると、兄が「車を出す」と言って、諒さんが「たまには僕も行こうかな」と言った。
 それなら、俺は行かなくて良いんじゃない?
 だって本当の両親が迎えに来てくれたほうが良いし。

 二人は俺も行くものだと思っているようだ。
 そりゃ迎えに行きたい。

 でも、俺は?
 俺は、ただ二人の好意に甘えて居候してるだけの。
 …………。


 二人が話しながら先を行く、

 
 ふと階段が目に入った。
 エレベーターは何故かモタモタして来ない。
 早く迎えに行ってあげなきゃ。
 下りるだけなら階段でいいじゃないか。


 気付いたら目の前が真っ赤で、諒さんが俺の名前を呼んでいる。
 あれ?
 俺倒れたのかな。
 俺はいいよ。
 双子はまだ小さいんだ。赤ちゃんなんだ。待ってるから。

「お、むか、え、行って、あげて」

 何故かうまく出ない声を絞り出すと、兄が「すぐに行くから大丈夫だ」と言ってくれた。
 俺は少し疲れただけだよ。
 今日は、久しぶりに身内以外と話したからさ。
 眠い。

 起きたら帰って来てるかな。
 最近よく笑うようになって、本当に可愛いんだ。
 俺の。

 …………。



 目が覚めたら兄がいた。 
 めちゃくちゃ久しぶりに見るな。

「にい、さん……」
「起きたか。……健吾、今日が、何月何日かわかるか?」
「ん? きょう? は、四月……十五日?」
「十月十日だ」

 半年も経ってる?
 何か事故にでも巻き込まれたのかな?
 体がうまく動かない。

「色々あってお前はずいぶん長く意識がなかった。色々については、おいおい話す。とりあえず寝ろ」

 いつになく優しい兄が不思議だったけど、逆らうこともできずに意識が消えて行く。
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