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二章
2-2 健吾の会社訪問 2
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祐志が家にスマホを忘れていった。
今朝は朝から重要な会議があるって言っていたから、すぐに必要になるわけじゃないだろうが、落ち着かないから会議が終わったら受け取れるように会社に届けることにした。
祐志の会社は自転車で三十分ほどの場所にある。
電車でも行けるけど、主夫たるもの無駄遣いは禁物だ。移動は徒歩か自転車を使っている。自転車も最近は駐輪場に料金を取られるところがあるから要注意だ。祐志の会社には駐輪場もあったはずだから大丈夫。
家の鍵を閉めて、祐志のスマホをポケットに入れて会社に向かった。
祐志のお父さんが経営する株式会社宮園はそこそこ大きな会社だ。
何かニッチなものを取り扱っているそうで、従業員数はそこまで多くないが業界になくてはならない会社だとか。祐志がいるのは本社だけど、全国各地に工場をいくつも持っているらしい。
会社に着いて、受付の美人に取次ぎを頼もうとしたが、相手にしてもらえない。
スーツでもない、ただのTシャツにチノパンじゃ怪しすぎるよな。しかもサンダルだ。会社の前には愛用のママチャリ。あれも怪しさに拍車をかけているのかも知れない。
「社員の家族の者なんですが、忘れ物を届けに来たんですけど」
「社員からそのような連絡は受けておりません。身分を証明するものはお持ちですか?」
「ごめんなさい、ありません」
財布も持っていないし、自分のスマホも置いてきてしまった。俺はいったい何をしているんだろう。届けに来ても義父に電話して状況を説明してもらうこともできない。
「申し訳ございませんが、アポイントのない方のお取次ぎは原則としてお受けできない決まりとなっております」
「そうですよね。すいません、ご迷惑をおかけしました」
財布ぐらい持って来ればよかった。
免許は持ってないけど、扶養に入っているから健康保険証があれば社員の家族だって一発で分かっただろう。
片道三十分をもう一度来るのは面倒なので、今日は祐志はスマホなしで我慢してもらおう。心配だから、帰ったら家から会社に電話をかけてみよう。
諦めて入り口に向かうと、見覚えのある人がいる。
「あ」
「健吾? 何をしている。そんな格好で」
兄だった。兄と祐志の会社は提携しているらしいけれど、よりによって今日用事があって来ているとは知らなかった。
服装を指摘されて、兄の完璧なスーツ姿との対比のひどさが際立つ。アルファの中のアルファ、なんて経済紙でグラビアみたいに紹介されるような人だから、俺のサンダル姿とは雲泥の差だ。世界が違いすぎる。
ちょっと恥ずかしい。祐志の身内ってばれなくて良かったかも。早く帰ろう。
「えっと、祐志がスマホ忘れて届けに来たんだけど、身分証とか持ってなくて門前払いされたとこ」
「……何で来たんだ?」
「自転車」
兄が眉間を揉みながら、連れの部下らしい人にタクシーを手配させている。秘書さんかな? 出世は順調だって聞いてるし、偉い人なら秘書ぐらいいるよね。
実家の経営するサカキコーポレーションは宮園よりも大きくて、更に兄は後継だ。
「ちょっと待ってよ。自転車だって。タクシーで帰ったら自転車どうするんだよ」
実家の資産を湯水のように使える兄と、一介の主夫である俺の財布事情は違う。
「自転車も運ばせる。どれだけ距離があると思ってるんだ」
「三十分ぐらいだよ」
「事故にあったらどうする」
「大丈夫だったって」
「お前に何かあったら、多大な迷惑がかかるんだ」
「……はーい」
以前迷惑をかけたせいか、兄も祐志も過保護だ。
仕方なく受け入れて、タクシー代は兄持ちだよな、もちろん、と自分を慰める。無駄遣いはしたくない。今月は予定通りの家計で収まっていていい気分だったのに、こんなところで崩れるのは悔しい。
タクシーが来るまで応接室で待てと言われて、立派な応接室に通された。ここは兄さんの会社じゃないはずなのに自由だ。
事務員さんからお茶を貰う。仕事の中断をさせて申し訳ない。
そうこうしていたら、連絡を受けた祐志が来た。
「健吾? どうしたんだ?」
「祐志。ごめん、会議は」
「まだ始まってない。スマホ持ってきてくれたのか。何で受付で止められたんだ?」
「財布忘れて」
「まさか自転車でここまで来たのか?」
「そうだよ」
祐志の顔が険しい。うわ、これやばい?
「やっぱり自転車はやめよう。健吾、免許取りなよ。車の方がまだましだ」
「別に免許なくても自転車で足りるよ。この辺便利だし」
免許取るのにいくらかかると思ってるんだよ。自転車で事足りてるよ。健康にもいいんだよ。
「駄目だ。自転車で事故ったらどうするんだ」
「事故ってないし……」
「事故ってからじゃ遅いんだ。健吾、お願いだ」
祐志が泣きそうな顔で懇願してくる。
これ駄目だ。断れないやつだ。俺、祐志を悲しませるのは嫌なんだ。
「う……これからはタクシー使うよ」
「はぁ、うん、そうしてくれ」
使わないけど。タクシーなんて贅沢の極みだよ。
話していると、タクシーが来たと受付の子が教えに来てくれた。
入り口まで祐志が一緒に来てくれる。
「初めて来たけど、立派な会社だな」
「見学していく? 会議の後なら案内できるよ」
「いいの?」
「もちろん」
結局タクシーはキャンセルして、応接室で時間を潰してて、と祐志のスマホを渡された。
どうせ会議の間は使わないし、電話が来てもとらなくていいから、って。
有り難くネット小説を読んで時間を潰させてもらった。
今朝は朝から重要な会議があるって言っていたから、すぐに必要になるわけじゃないだろうが、落ち着かないから会議が終わったら受け取れるように会社に届けることにした。
祐志の会社は自転車で三十分ほどの場所にある。
電車でも行けるけど、主夫たるもの無駄遣いは禁物だ。移動は徒歩か自転車を使っている。自転車も最近は駐輪場に料金を取られるところがあるから要注意だ。祐志の会社には駐輪場もあったはずだから大丈夫。
家の鍵を閉めて、祐志のスマホをポケットに入れて会社に向かった。
祐志のお父さんが経営する株式会社宮園はそこそこ大きな会社だ。
何かニッチなものを取り扱っているそうで、従業員数はそこまで多くないが業界になくてはならない会社だとか。祐志がいるのは本社だけど、全国各地に工場をいくつも持っているらしい。
会社に着いて、受付の美人に取次ぎを頼もうとしたが、相手にしてもらえない。
スーツでもない、ただのTシャツにチノパンじゃ怪しすぎるよな。しかもサンダルだ。会社の前には愛用のママチャリ。あれも怪しさに拍車をかけているのかも知れない。
「社員の家族の者なんですが、忘れ物を届けに来たんですけど」
「社員からそのような連絡は受けておりません。身分を証明するものはお持ちですか?」
「ごめんなさい、ありません」
財布も持っていないし、自分のスマホも置いてきてしまった。俺はいったい何をしているんだろう。届けに来ても義父に電話して状況を説明してもらうこともできない。
「申し訳ございませんが、アポイントのない方のお取次ぎは原則としてお受けできない決まりとなっております」
「そうですよね。すいません、ご迷惑をおかけしました」
財布ぐらい持って来ればよかった。
免許は持ってないけど、扶養に入っているから健康保険証があれば社員の家族だって一発で分かっただろう。
片道三十分をもう一度来るのは面倒なので、今日は祐志はスマホなしで我慢してもらおう。心配だから、帰ったら家から会社に電話をかけてみよう。
諦めて入り口に向かうと、見覚えのある人がいる。
「あ」
「健吾? 何をしている。そんな格好で」
兄だった。兄と祐志の会社は提携しているらしいけれど、よりによって今日用事があって来ているとは知らなかった。
服装を指摘されて、兄の完璧なスーツ姿との対比のひどさが際立つ。アルファの中のアルファ、なんて経済紙でグラビアみたいに紹介されるような人だから、俺のサンダル姿とは雲泥の差だ。世界が違いすぎる。
ちょっと恥ずかしい。祐志の身内ってばれなくて良かったかも。早く帰ろう。
「えっと、祐志がスマホ忘れて届けに来たんだけど、身分証とか持ってなくて門前払いされたとこ」
「……何で来たんだ?」
「自転車」
兄が眉間を揉みながら、連れの部下らしい人にタクシーを手配させている。秘書さんかな? 出世は順調だって聞いてるし、偉い人なら秘書ぐらいいるよね。
実家の経営するサカキコーポレーションは宮園よりも大きくて、更に兄は後継だ。
「ちょっと待ってよ。自転車だって。タクシーで帰ったら自転車どうするんだよ」
実家の資産を湯水のように使える兄と、一介の主夫である俺の財布事情は違う。
「自転車も運ばせる。どれだけ距離があると思ってるんだ」
「三十分ぐらいだよ」
「事故にあったらどうする」
「大丈夫だったって」
「お前に何かあったら、多大な迷惑がかかるんだ」
「……はーい」
以前迷惑をかけたせいか、兄も祐志も過保護だ。
仕方なく受け入れて、タクシー代は兄持ちだよな、もちろん、と自分を慰める。無駄遣いはしたくない。今月は予定通りの家計で収まっていていい気分だったのに、こんなところで崩れるのは悔しい。
タクシーが来るまで応接室で待てと言われて、立派な応接室に通された。ここは兄さんの会社じゃないはずなのに自由だ。
事務員さんからお茶を貰う。仕事の中断をさせて申し訳ない。
そうこうしていたら、連絡を受けた祐志が来た。
「健吾? どうしたんだ?」
「祐志。ごめん、会議は」
「まだ始まってない。スマホ持ってきてくれたのか。何で受付で止められたんだ?」
「財布忘れて」
「まさか自転車でここまで来たのか?」
「そうだよ」
祐志の顔が険しい。うわ、これやばい?
「やっぱり自転車はやめよう。健吾、免許取りなよ。車の方がまだましだ」
「別に免許なくても自転車で足りるよ。この辺便利だし」
免許取るのにいくらかかると思ってるんだよ。自転車で事足りてるよ。健康にもいいんだよ。
「駄目だ。自転車で事故ったらどうするんだ」
「事故ってないし……」
「事故ってからじゃ遅いんだ。健吾、お願いだ」
祐志が泣きそうな顔で懇願してくる。
これ駄目だ。断れないやつだ。俺、祐志を悲しませるのは嫌なんだ。
「う……これからはタクシー使うよ」
「はぁ、うん、そうしてくれ」
使わないけど。タクシーなんて贅沢の極みだよ。
話していると、タクシーが来たと受付の子が教えに来てくれた。
入り口まで祐志が一緒に来てくれる。
「初めて来たけど、立派な会社だな」
「見学していく? 会議の後なら案内できるよ」
「いいの?」
「もちろん」
結局タクシーはキャンセルして、応接室で時間を潰してて、と祐志のスマホを渡された。
どうせ会議の間は使わないし、電話が来てもとらなくていいから、って。
有り難くネット小説を読んで時間を潰させてもらった。
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