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二章

2-11 二度目の……

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 俺の夫だという宮園祐志は毎朝病院に顔を出して、仕事帰りにも顔を出す。
 緩めの病院だから面会時間はあってないようなもので、短時間ならお目こぼししてもらえるようだ。

「健吾、明日は退院だけど、うちに来て大丈夫?」

「うん……多分。先生もいつも通りにしてたら思い出すかもしれないって言ってたし。ただ、その、祐志、と結婚してるっていうのが実感なくて」

「うん、大丈夫だよ。何も無理強いしないから。家には健吾のつけてた家計簿とか色々あるから、見てみて。子供達はもう自分のことは自分でやれる年だし、健吾はのんびりして」

「ありがと」

 俺と祐志は三十六歳だという。
 実感はないけど、俺の中には、この人と過ごした十五年がどこかにあるはずだ。




 退院して、祐志が当たり前のように俺の肩を抱いた時は驚いた。
 あ、そうか、俺のダンナってこと。
 蕩けるような表情で「早めに退院できて良かった」と笑う祐志に、顔が熱くなる。
 そうか、俺、ちゃんとこの人が好き、みたいだ。

 俺はオメガとして自分が家庭を持つなんて考えたこともなかった。
 一生発情期を抑えて、誰とも深く付き合えないまま終わるのだと思っていた。
 一体何がどうなって、こんな普通の家庭になったんだろう。

 家は真新しい一戸建てだった。
 都会の住宅地に、ちょうどいい大きさで、落ち着いた雰囲気の家だ。

「健吾が節約を頑張ってくれてね、子供達の教育費もある程度貯まったから家を買ったんだよ」
「へ、へえー」

 節約?
 節約は好きだけど、俺、どういう立ち位置にいたんだろう。
 働いてなかったのかな。 

「あの、俺さ、働いてなかったの?」
「ああ、そうだよ。俺が、健吾に外に出て欲しくなくて専業主夫をしてもらってたんだ」
「そうだよね……外に出ないほうがいいよね」

 俺みたいなのが番だなんて恥ずかしいだろう。オメガは綺麗な人が多いのに、どうして俺はこうしょぼくれた感じなんだろう。

「健吾は綺麗だから、番持ちだって分かってても寄ってくる奴がいるから」
「へっ!?」
「記憶がない健吾には負担になるかもしれないけど、俺は健吾が好きだよ。愛してる」

 キラキラと輝きながら語ってくる祐志に、顔を真っ赤にして何も言えなかった。
 やばい、これは何かとんでもないことになってる気がする。
 俺があわあわと答えられないでいると、頬に軽いキスを落として、祐志が家の説明をし始めた。

「ここは健吾の拘りのアイランドキッチンだよ。前に住んでいたとこもアイランドキッチンだったんだけど、作業場所が狭いのが気になってたらしくて、広いのを探して取り付けたんだ」

 嬉しそうにキッチンの説明をする祐志。
 キッチンの裏はパントリーとランドリールームがあり、広いユニットバスがあった。
 ユニットバスが広いのも拘りらしい。

 説明をするたびに、いちいち祐志が色気を振りまいて
 いるような気がしてならない。
 何だろう……。

 子供達には個室があって、そこはもう親は立ち入り禁止らしい。お年頃だな。
 あとは主寝室が一つ。
 祐志は家に仕事は持ち込まないそうで、書斎コーナーは俺が家計簿とかをつけるためのものらしい。

 そこにはいくつかのノートがあって、中を見たら確かに俺の字でレシピやスーパーの食材価格が書いてあった。
 専業主夫……そうだ、やるならこれぐらいはこなすべきだ。自分がここで地に足をつけて生活していたことに納得した。

 主寝室には大きなベッドがどん!と置いてある。
 ここが祐志と俺の部屋ということは、一緒に寝てたんだよな……。
 さらにウォークインクローゼットの奥には、シャワールームがこっそりつけてあった。
 子供たちはこのシャワールームの存在を知らないそうだ。

 生々しい…………。

 どうしよう、何か、祐志と俺は相当ラブラブだったようだ。
 妙な汗が出る。
 そもそも発情期さえまともに経験してないのに、突然結婚十五年とかハードルが高すぎる。


「健吾、一緒に眠るのが不安なら俺は一階で布団を敷いて寝るから。本当は健吾の側にいたいから、この部屋に布団を敷かせて貰えると有難いんだけど、無理強いは絶対にしない」

 なにこのイケメン。
 どうしよう、格好いい。
 俺、すごい。こんな人と結婚してるなんて。
 アルファなんて、とか男なんて、とか全部吹っ飛んだ。
 祐志と俺、一体何があったんだろう。

「えっと、祐志、祐志も疲れてるだろうからベッドで寝て欲しい。申し訳ないんだけど、祐志と結婚してたの忘れちゃったから、その、夫婦、生活的なのはできないけど、それで良ければ……」

 恥ずかしくて顔を見れないでボソボソと伝えた。
 何も言われないので、そっと見上げると祐志が顔を真っ赤にして両手を広げて固まっていた。
 抱きつこうとしたのを我慢しているみたいな。
 ……これ、うん。これぐらいなら。
 俺は祐志の腕の中にそーっと入った。

「ありがとう、健吾」

 ギュッと抱きしめられて、囁かれて頭がクラクラした。

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