おまけの兄さん自立を目指す 番外編集

松沢ナツオ

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ifストーリー エルビス編

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馬車の旅は、正直言って俺には辛かった。当然馬車にはサスペンションがないから、揺れが辛いしケツが痛い…。座面が木で直なんだよ。ケツが4つに割れるかもしれん!

「ジュードちゃん、大丈夫かい?村で休憩時間あるから、うちからクッション持って行きな。」
「えっ!でも悪いです。」
「そんなんじゃ腰もやっちまうよ?エイデンさんが困るだろ?」
「??」

なんで?ふとエルビスの顔を見たら赤かった。あ。

「キリルさん…!」
「はっはっは!」
「でも、正直辛いから、売ってください.!もう俺、痛くてしんどいよ。」
「いやいや、貰ってくれよ。使い古しだけどな。」
「良いのかな…。」

エルビスさんを見上げる。

「せっかくの好意だから頂こうか。」
「うん…。」

町までもう少し。そしたら降りられる!
更に我慢に我慢。魔道具の時計で30分位経って、ようやく着いた。

テッサ着いた!猛ダッシュで降りてストレッチする。
うーおー!伸びるぅ~!

「はっはっは!随分我慢してたんだなぁ。」
「あ、だって、座りっぱなしでさ~。」
「良し、運動がてらウチまで歩くぞ?まぁ近いんだがなぁ。」

馬車から降りて歩くのは気持ち良い。それに、王都を出てから初めて、街を見るんだ。ここはのんびりした感じだけど、そこそこ栄えてる様だ。
王都の様な石造りの重苦しい作りではなく、木造建築も多い。
水路が街のあちこちに張り巡らされているそうで、小さな橋も見かけた。

「ここだ。」

一軒家の前でキリルさんが止まった。へぇ~立派な家だ!

「おーい!帰ったぞ~!お客さんを連れて来たから茶を出してくれ。」
「えっ!?悪いよ!」
「良いって良いって。」

そんな問答をしていたら、赤茶色の髪のお爺さんが手を拭きながら出てきた。

「おかえり、キリル。お客さんか?」
「ああ。馬車で一緒になってな。エイデンさんとシュードちゃんだ。これは、儂の伴侶のバーリンです。
バーリン、旅に慣れてない様だから休憩に寄ってもらったんだ。あと、これな。無事頂けた。様子はどうだ?」
「あまり…。お客さんの前ではやめよう。さ、これを。」

俺達にお茶をくれて、キリルさんが貰ってきたという薬を受け取る。

「すぐに使いたいので、一旦失礼しますね。」

俺達に頭を下げて奥へと下がって行った。

「お孫さん…アレで治るんですね。良かったです。」
「うーん…いやぁ、一時しのぎでな。治癒はしないんだ。」
「えっ!?どういう事?」
「穢れのせい、なのでは?」

穢れ?そういえばそんな話を聞いたな。

「穢れってのは、神官様曰く治癒では完全に消えないそうなんだよ。一時的には良くなるんだけどよぉ。少しずつ残って蓄積すると、もう回復は難しいらしい。神子様が現れたから、早く浄化の巡行ってのが始まれば助かるんだがな。」
「そうなんだ...。キリルさん、飲み水がダメなの?」
「いや、うちのニルバ…孫の名前なんだけどよ。あの子は水遊びしちゃいかんって言われた沼で遊んでたんだ。前は良かったんだが、そこでうっかり飲んじまったらしくてな。溜まり水はダメなんだよ。」

あの歩夢君って子が神子って聞いてたけど、エルビスさんは俺が神子じゃないかって...あの夜言ってた。
でもそんな力感じないし。浄化って水の濾過とかじゃダメなのかなぁ?不純物以外に細菌が混じってるとか?

「キリルさん、炭ってある?」
「炭?」
「薪とかで燃やした、木の燃えカス。」
「ああ、台所にあるが、なんだ?」
「効果があるか分かんないけど、やってみたい事があるんだ。」

入れ物は要らない小ぶりの樽があったのでそれにした。家庭用の酒を量り売りしてるので、それに入れて持ち帰るそうだ。病気になってから酒断ちして祈願してるから使っていいと言われた。
煮沸した布、小石、炭、砂利、また布をギュウギュウに詰め込んだ。多分これで合ってる、よな?最近はこれじゃ殺せないから飲むときは沸かして貰う方が良いだろう。
そんな俺の行動を、エルビスさんもキリルさんも興味深そうにみている。

「これはなんだぁ?」
「見た事ありませんね…。」
「これは浄水器って言って、不純物とかを除去するんだ。でも、細菌は殺せないから一度沸かさないと危ないかな。よっと…こんな感じかなぁ。効果なかったらごめんね。」

街は水道設備がそこそこ進んでいて、なんと蛇口が付いていた!田舎は井戸から汲んでる所が多いらしいけどね。
水道はまだ酷くないらしいけど、汲んできた水を上からドボドボと入れる。

「すぐには出ないから待ってて。」

じわじわと水が浸透して、下からポタリと落ちた水がキラッと光った。

「「光った!」」

2人が叫んだけど、ひかりが当たったからじゃないかな。
ポタリポタリと光りながら落ちて来る。
樽いっぱいまで水をろ過した頃は、もう光らなかった。なんだろ?

「後は沸かして飲めば大分違うんじゃないかなぁ。」
「ジュードちゃんは変わった事知ってるなぁ。賢者様みたいだな。」
「教わっただけだよ。」

なんだかんだしてたら、馬車の出発が迫っていた。またあの馬車に乗るの辛いなぁ。

「ジュードちゃん、エイデンさん、あんた達急ぎの旅かい?良かったら泊まって行かないか?」

クッションを持ってきてくれたキリルさんが、俺の顔色を見たのかそんな事を言ってきた。

「えっ!?」
「しかし、ご迷惑では。」
「うん。それに次の馬車、2日後なんだろ?節約中だから、宿使いたくないし。」
「うちに泊まってれば宿代なんか要らんだろ?あんた達を気に入ったんだ。ジュードちゃんの尻も心配だしな、はっはっは!」

キリルさん!セクハラですよ!
でも正直、尻と腰へのダメージは大きい。
でも、あまり人と接してバレたら…。エルビスを見上げる。悩んでるみたいだな。
俺は辛くても進もうかと思ったが、エルビスの判断はどうだろう。

「ジュード…お言葉に甘えよう。」
「えっ!?本当に?」

先へ急ぎたいのかと思ってた。

「ここまで慣れない馬車で疲れたろう?」
「でも…。」

王都から離れたいんだよね?追われるって言ってた。俺にそんな価値があるのか分からないけど…。
ただ、この2日間夜はほとんど眠れないかった。浅い眠りで何度も起きて、エルビスまで起こした。
2日だけ。俺達がこんな所にいるなんて思わないかも。

「儂が泊まって欲しいんだよ。孫と話して元気を分けてやってくれ。」
「ね?ジュード。こう言ってくれてるし、泊まらせて貰おう。」
「うん…。」

その日と、馬車が来るまでの計3日泊めて貰う事になったのだった。
何もしないで泊まるのは憚られて、俺は夕食にスープを作ってお礼をする事にした。
ここで離宮のキッチンで得たアイデアが役立つなんてな。
ただ、エルビスはちょっと渋った。俺が言った後なので訂正しなかったけど…。後で理由を聞かなくちゃ。

キリルさんの家は、キリルさん夫婦と息子のニトラルさん、奥さんのモルフェさん夫婦と孫のニルバ君という家庭だった。
染物職人だというので、嬉々として仕事を見せて貰った。色とりどりの糸を染めているキリルさん達。黒はなかなか真っ黒にならないし、調合が難しいんだ!と言った。
なるほどなぁ。でもさすが職人さんだ!こういうのは燃えるなぁ。

夕食にチキンベースのスープを作った俺は、ニルバ君の部屋に持って行った。

「じいちゃん、その人達誰?」
「ほら、薬を貰いに行ったろ?そこで友達になったんだよ。スープを作ってくれたんだぞ?飲んでみろ。味見したが、そりゃもう美味いぞ!」

ニルバ君は6歳だという。そりゃ、冒険したい盛りだよなぁ。

「食欲ないんだ。」
「ニルバ君。俺ジュードって言うんだ。試しに一口だけ飲んでみてよ。食べないと元気も出ないよ?
じいちゃん心配してるよ?」
「うーん。わかった…。」

ズズッとスプーンで啜ったニルバ君の顔が変わった。
一口が二口になり、あっと言う間にスープの器は空になった。

「ジュードさん!すごく美味しいし、元気が出たよ!ありがとう。」

良かった。良い笑顔が見れた。いる間は何か作ってあげようかな。
その後息子さん夫婦と一緒に食事をして、借りた部屋に2人で入ったのだが、ダブルベッドでした。
そうですね、恋人設定だもんな!

庶民は毎日入浴しないそうで、湯を貰って清拭をお互いに手伝って…。
ベッドに入る。なんだかドキドキするよ!
いやいや、設定ですから。ね?

「ジュンヤ様、お疲れじゃないですか?馬車は辛いでしょう?」
「まぁ、腰には来るね。でも、歩いてたらいつまでも王都から離れられないしね。」
「あの…。聞かれない様に、お側で話しても?」

俺が頷くと、エルビスがそっと寄り添って来た。逞しい大きな体がすぐ側にいてドキドキする。そんな場合じゃないのに。

「でも、これからは歩きも増やしましょう。追手は後ろから来るとも限りませんし、通信の魔道具のある大きな街には連絡が入っている可能性が高いです。
ですから、こう言った田舎や小さな村で休みながら移動するのも良いかもしれません。」
「そんなのがあるんだな。俺、無知だから任せっぱなしで申し訳ないよ。」
「ジュンヤ様は知らないだけで、これから覚えれば良いんですよ。元々大変な知識をお持ちなんですから。」
「ん…。頑張るから、教えて?」
「はい。」

見つめ合って、なんだか気恥ずかしくて。でもずっとゆっくり話せなかったから話していたい。何か話題はないかと探る。

「そういえば、スープ作る時、止めようとしたよね?なんで?」
「その事ですが…。大事なので覚えて下さい。あなたの作った物、触れた物には浄化の力が宿るのです。きっと、あの子も明日には元気になっているはずです。」
「そんな…。でも離宮ではそんな話聞いてないよ?」

みんな普通に接してたし、そう、殿下だって何も言わなかった。

「彼らはあなたを守る為口を噤む事にしたのでしょう。話し合った訳ではありません。それと、王宮に運ばせられた、料理も同じ理由であなたを利用していたのだと思います。
だから、必ず追っ手は来ます。神子を…取り戻す為に。」

エルビスは俺をぎゅっと抱きしめた。

「都合良く利用させたりしません。お守りします。」
「ありがとう…。でも本当にそんな力が?」
「明日になれば分かります。もしもの時は、徒歩でここから離れる用意を常にしていて下さい。
彼らは善人の様ですが、何があるか分からないので。」
「分かった。」
「さぁ、ジュンヤ様、久しぶりにゆっくり寝ましょう。」

エルビスは額にキスして、抱きしめたままそっと背中をさする。
ふと見つめ合って、どちらともなくキスしていた。久しぶりのキスに、縋り付いて舌を絡め合う。
ちゅっ、ちゅっと繰り返してから、ここから先は人の家で出来ないね、と笑い、互いの欲望を擦り合う事で耐えた。

「ジュンヤ様…。本当に美しいです。早く元の色に戻して差し上げたい。」
「こうしていられるなら、このままでも、良いよ?」
「見たいんです。私が。お慕いしています。」
「エルビス…。俺も、俺もあなたが、好き…。離れないで欲しい。」

ぎゅっと抱き合って、もう一度深い深いキスを交わして。
互いの体温を感じながら眠りについた。
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