守ってあげます、旦那さま!〜筋肉が正義の家系で育った僕が冷徹公爵に嫁ぐことになりました〜

松沢ナツオ

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1章

いざ、皇都へ

 広大な草原を抜けると、果樹園や青々とした作物が実っている。少し南に来ただけで、これほど気温が違うのだと実感している。
 あのあと、先行して皇都に行くと告げ翌朝出発して三日経過している。野営で昼食をとって、ついに皇都が肉眼で見るところまで近づいていた。
 実は、あの後ジョナサン兄さんにも報告したけど、あれもこれも持って行けと言われて大変だった。現地調達できるものまで持っていたら大荷物になってしまう。義姉のマルゴ姉さんが宥めてくれ、どうにか断ることができた。
 義姉さんは現在第一子を妊娠中で、両親は初孫の誕生を心待ちにしているのだ。ジョナサン兄さんにって彼女のいうことは絶対なので、説得がありがたかった。
 馬車の揺られうんざりしていた僕は、待ちきれず窓から顔を出した。

「オリヴィン様、お気をつけくださいませ。そろそろ、かつらをかぶってくださらないと正体がバレます。この町で銀の小櫛は目立ちすぎますからね」
「分かってるって」

 渋々かつらを被る。目が隠れるように前髪を長くしたボウルカットだ。刈り上げはかつらではできないので、襟足は長め。この辺りにいる銀髪はナモリス国からの移住者か商人のみ。見ず知らずのナモリス人は注目を浴び、街を自由に見られないだろうと思って提案した。
 つけてみたら蒸し暑いしあまり好きではないが、自分で決めたことなので我慢だ。自由度が高い情報収集のため、一週間耐え切ってみせる。

「それにしても大きな町だな……」 

 リカマイトの三倍は人口がいると聞いていたものの、目にすると度肝を抜かれた。

「城の城壁を囲むように町が発展し、今でもまだ拡大し続けているのですよ。さて坊ちゃん。区域分けは覚えておられますか」

 カミュめ、抜き打ちテストか。

「一番近い地域は一等区、次が二等区で、貴族階級が住んでいる。市民が住んでいるのは三等区や四等区だ。うちのタウンハウスは一等区にある」 
「お見事です」

 学習の成果は伊達じゃない。自信満々で答えると、カミュは満足そうにしている。ただ、階級が明確に分かる名前の付け方があまり好みじゃない。ベニトア領ではリバーサイド、ヒルサイドという呼び方をしているからだ。

 話しているうちに市街地に入った。城壁で守られているのは王城のみで、居を構えたい者たちが勝手に家を建てていき、人口は増加する一方だそうだ。食糧の問題が起きないのか気になった。
 町の中心から離れているところは、木製のほったて小屋がびっしりとひしめいていたものの、進むほどに華やかな建物が増えていく。
 質実剛健な我が領と違い、眩い景色に目を奪われた。店舗にはキラキラした雑貨も並び、道ゆく人々はおしゃれをしている。

「……町の中心部は皆んな裕福そうだね」

 年間を通して温暖な皇都レージュヌは、店先に花や緑が植えられていた。色とりどりの花にように、着ているものも色が多い。素朴な民を見てきた僕には、皆んなが楽天家に見えた。うちの民たちも、こんな風に年中のんびり過ごせたらいいのに。雪と戦う自領の民を思うと複雑な心境だ。

「見えるものが全てではございませんよ。そのために先行してこられたのでしょう?」

 カミュの言葉にはっとした。明るい場所には必ず影がある。浅はかな自分を叱咤する。

「そうだった。カミュがいてくれて本当に良かったよ。他の人じゃそんなふうに注意してくれないだろうから」

 にっこり笑ったカミュが心強い。雑談しているうちに、また街並みが変わり始めた。生命力に溢れた喧騒から、落ち着いた雰囲気になってきた。

「ここからは一等区です。三等区に近い家は家格の低い一代男爵や伯爵などで、城に近づくほど階級が上がります」
「……うん。見れば分かる。ここはそういう場所なんだな」

 建物の作りで、家格がはっきり分かれていた。あまり品がいいと思えないケド。
 これから生馬の目を抜くような生活が始まる。味方は忠実なカミュやゴレゴリー兄さんだけだと思っていた方が良さそうだ。

「そんな顔をなさらないでください。さぁ、お屋敷の門が見えてきましたよ」

 大きな庭が増え、家と家の間隔が広くなった。お互いの建物が見えない距離を保って建てられているのだろう。門衛が出迎えを受け、前庭を進む。白い尖塔が中央に聳え、両脇にも一段低い塔がある。高祖父が戦功を立てた際賜ったという。
 座りっぱなしに飽きた僕は早く中を探検したい気持ちでワクワクしていた。馬車が止まると、玄関では裂ごりー兄さんは待っていてくれた。任務で二年会っていなかったので、懐かしい顔が見れて嬉しい。早く降りたいけれど、子供みたいな真似はできずソワソワと馬車の扉が開くのを待つ。
 カミュが先に降りて開けてくれた瞬間、グレゴリー兄さんの姿が目に入った。

「兄さん! 久しぶり!」
「オリヴィン! よく来たな!」

 分厚い胸板に飛びつくと、鍛え上げられた胸筋に跳ね返されそうだった。兄さんがぎゅっと抱きしめてくれ、再開を喜び合う。

「待っててくれたの? 仕事は? このかつらでも分かってくれて嬉しい」
「可愛い弟が来るんだ、休暇を取ったに決まってるだろ! それに、俺がオリーを見間違うもんか」

 抱きしめる腕に力こもり、少し息苦しい。

「道中長かっただろ? 座りっぱなしはキツイよな!」
「うん。町はすごく活気があるんだね。聞いてはいたけど、思ってたよりずっとすごくてびっくりたよ」
「その分、犯罪や揉め事も多いぞ。ベニトアの三倍は危険だから気をつけろ。おまえに何かあったら俺は死ぬからな」

 兄さんもベニトア家の名物、過保護な家族の一人だ。

「気をつけるって約束するよ。ねぇ、ずっと座っててお尻が痛くなったからから、後で町に行きたいんだけど、案内してくれる?」
「当然そのつもりだった。馬車は飽き飽きしたろ?」
「ありがとう! 兄さん大好き!」
「そうかそうか」

 目尻を下げて笑うグレゴリー兄さんも素敵だ。でも、なぜかまだ独身なのだ。仕事が楽しくて結婚しないのかな。
 
「そうだ。まだ僕がこっちにいるのは知られなくないって手紙、読んでくれた?」
「ああ。手抜かりはないか?」

 頷くとニヤリと笑った。

「お支度は私がいたします」

 カミュが請け負い、侍女にとある鞄を運ぶよう指示した。

「よし、おまえの部屋に行くぞ。眺めのいい部屋だ。そこで別人になるところを見せてくれ。あ、ただ目には注意しろ。紫なんて俺たち以外滅多にいないからな。すぐ関係者だとバレちまう」

 グレゴリー兄さんもちょっとした悪戯が大好きなのだ。僕は、まるでスパイみたいだとワクワクしていた。

 
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