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「ではまず先ほどレイドリー男爵がおっしゃった慰謝料の額が大きいということについてですが、あれはメリエッダが受けた精神的苦痛とは別に、娘を小間使いとして働かせた日々の労働に対しての賃金も含まれております」

「あ、あれは、そいつが勝手にやったことだ!」

 とダズが声を荒らげますが、すかさず父も反論します。

「その理屈は通りませんな。レイドリー男爵にはちゃんと正当な小間使いを雇い入れるだけのお金を与えていたにも関わらず、それらはすべて自らの懐に収められていました。そのせいで我が娘が十分な生活サポートを受けられず、せずともよい家事をすることになったのですから、これは立派な雇用関係となります。ゆえに労働に対する対価として賃金が発生し、それが未払いであれば請求するのは当然でしょう?」

「うぐっ、た、確かにそうかもしれないが……、だが、いくらなんでもあの金額は高すぎるぞ! レイドリー家の財政状況から一括で支払うことが無理なのはそちらも理解しているだろう⁉ だから折衷案として分割払いにさせてもらう!」

 やはり、父はやり手の商人です。
 実際にダズが私用なことにお金を用いていたか分からないというのに、それが事実であることを前提に話を進め、相手にも特に否定させることもありません。
 となればそれは真実なのでしょう。
 その上で納得させるだけの根拠を提示している口の上手さは尊敬に値します。

「ええ、分割払いは構いませんよ。毎月決まった額をお支払いさえしていただければ娘の元婚約者としてのよしみで利子もお取り立てはしません。ただその前に一つだけ、確認しておきたいことがあります」

 さて、どうやら始まるようです。
 父による無慈悲な追い込み、もといぐうの根も出ない正論タイムが。

「レイドリー男爵、貴方はうちの娘と婚約する際にご自身がお書きになられたあの誓約書のことを覚えておいでですか?」

「は? なんだそれは?」

 ああ、思っていた通りでした。
 おおかた私との婚約の許可を取るために適当な気持ちでご用意(正確には父主導のもと言われるままに書かれた)されたから誓約書の存在を彼は覚えてないのでしょう。
 それがいったいどのような結果をもたらすのか理解もせずに。
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