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「では、こちらにそれをお持ちしたのでご自身の目でしっかりと確認してください」

「こんな紙がなんだというのだ」

 ぶつくさとぼやきながらダズは誓約書を父の手から受け取りました。
 応接室に向かう前に私と父が準備していたのも実はこれなのです。

「ふんふんふん……ふんっ⁉」

 途中まで面倒くさそうに読み進めていたダズの目が突如として見開かれます。
 
「どうかされましたかな?」

「どうもこうもあるか! なんだこの内容は! 『この度の婚約により我がレイドリー家はテナス商会から金銭的サポートを受ける代わりに、当方ダズ・レイドリーの不貞やその他信頼関係を欠落させる重篤な裏切り行為によって万が一にも婚約の解消に至った場合、それまでにテナス商会から頂戴した支援金はすみやかに全額返金することを約束し、その証として誓約書これを記す』だと⁉ ――ちょっと待て、これまでいくらもらったと思っているんだ! 今更返せと言われたところでそんな金がどこにある⁉」

 本来ならそれでもダズにとってなんら悪い条件ではなかったはずなので、こちらとしても最大限譲歩している内容でもあります。

 しかしながらまさしくダズの不貞によって今回の婚約破棄が成立したことですから(それも本人から望まれて)、とやかく言われても困るというのが本音でした。

 なにより、誓約書のことを失念していたのは彼の完全な落ち度ですし。

「ひとまずは家財道具一式を売却して返金費用に充てるのが筋でしょうなぁ。足りない分は借金をしてでも返済をお願いいたします。こちらも慈善事業ではないので、このように事前の取り決めがある以上、支援金をそのまま差し上げるという訳にもいきません。そもそもが娘と結婚することを条件とした援助だったのですから、これはそちら側の契約不履行とも言えますな。違約金として、その分も返済額に上乗せしても良いのですよ」

「ふ、ふざけるな、こんな紙切れの存在なんて俺は知らん、覚えてない、だから無効だ!」

 案の定ダズは否認をし始めましたが、父にそのような悪あがきは当然通用しません。

「しかし、そちらにはきちんとレイドリー男爵の署名と紋章が捺印されているではありませんか。それでも渋るなら法廷で争うことになりますが、いくら貴族とはいえ多額の裏金でも積まない限り裁判官の判定は買収できませんよ。しかも裁判に負けたらかかった訴訟費用も全額そちらの負担となりますが、どうされますかな?」
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