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第04話 ある少年との出会い
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「レアーヌさん、あのっ、この魔物にはどう立ち向かえばいいんでしょうか……っ!」
陽の光を反射させて鈍色の光沢を放つ片手剣(ショートソード)を一生懸命に構えながら、戦士の少年——シリルが尋ねてきた。
風に揺れる柔らかな金髪を短くまとめた彼は、初めての本格的な戦闘を前に、小鹿のように全身を強張らせて私を見つめている。
「ご、ご指示を! 僕、頭が真っ白になっちゃって……。レアーヌさんの言う通りに動きますから、僕が何をすればいいか全部教えてください!」
必死に助けを求める少年の姿に、私は安心させるような穏やかな微笑みを返した。
「大丈夫よ、シリル。落ち着いて。その子は牙の攻撃にさえ気をつければ怖くないわ。獲物を狙うときは必ず首筋へ飛びかかってくる。だから、相手が動く瞬間に合わせて左手のバックラーで『盾殴り(シールドバッシュ)』を放つの。怯んだ隙に剣でトドメを刺せばいいわ」
街外れの平原。私たちはいま、群れからはぐれた一匹の魔物と対峙していた。
『白銀狼(シルバーウルフ)』。危険度は低いが、初陣の少年には十分すぎる脅威だろう。
メイドである私にとっては荷の重い相手だが、彼ならできるはずだ。危なげなく初勝利を収められるよう、私は背中を押す。
「長年に渡って多くの冒険者を見てきた私には分かるわ。貴方なら、絶対にできる」
「は、はい……っ! レアーヌさんがそう言ってくれるなら、僕、やってみます!」
私が泰然と構えているのを見て、シリルも少しずつ呼吸を整え始めた。
そう、それでいい。戦いにおいて最も重要なのは平常心。
「えっと、バックラーで殴ってから、トドメ……。よし、頭に入れました!」
私の指示を反復しながら、シリルは勇気を振り絞って踏み出した。
両足をしっかりと開き、腰を落とす。そして片手剣の柄でバックラーを打ち鳴らした。戦士の基本スキル『挑発(プロヴォーク)』だ。
教えたわけではないが、相手を誘い出す方法を自分で考えたらしい。いい筋をしているわ。
「アオオオオオオンッ!」
じりじりとした睨み合いの末、焦れたシルバーウルフがシリルめがけて弾かれたように駆け出した。
「盾(シ)、シールドバッ——」
「焦らないで! まだ引きつけるのよ!」
「わわっ!?」
恐怖から早まろうとした彼を、鋭い声で制止する。
今打てば回避される。怖いでしょうけれど、あと数歩、我慢よ。
「——今っ!」
「……はいっ!!」
私の声に応え、シリルは渾身の力でバックラーを突き出した。
飛びかかってきた銀狼の顔面に盾が直撃し、衝撃で魔物が地面に叩きつけられる。自慢の牙が血飛沫と共に散り、銀狼は地面でビクビクと痙攣するが、もう起き上がる力はない。
「ふ、ふぅ……上手くいったぁ……」
「安心するのはまだ早い。とどめを刺してないわよ」
「あ、そうだった! よ、よし……えいっ!」
無防備な首筋に、シリルは精一杯の力でショートソードを振り下ろした。
切っ先は少し震えたけれど、その一撃は銀狼の命を断つのに十分な鋭さを持っていた。
「はあ、はあ……」
荒い息をつきながら、シリルは呆然と魔物の遺骸を見つめている。
「おめでとう、シリル。立派な初勝利よ」
後ろから近づき、パチパチと拍手を送る。
そこでようやく彼は自分がやり遂げたことに気づいたようだ。
「や、やりました、レアーヌさん! 僕、一人で魔物を倒せたんだ! すごいや、本当に倒せちゃった!」
パッと顔を輝かせ、少年の純粋な喜びが爆発する。
「全部、レアーヌさんのアドバイスのおかげです。僕、緊張してダメダメだったのに、優しく教えてくれて……ありがとうございます!」
「いいえ、貴方の勇気の結果よ。もっと自分を誇っていいわ。本当によく頑張ったわね」
ねぎらいを込めて少年の頭を撫でると、彼は顔を真っ赤にして、けれどとても幸せそうに「えへへ」と笑った。
その懐いてくるような仕草は、本当に小動物のようで可愛らしい。
「——さあ、今日は初討伐の記念に二人でお祝いをしましょう。私が腕によりをかけてご馳走を作るわ」
「やったあ! レアーヌさんの料理、僕、世界で一番大好きなんです! たくさん動いたら、なんだかすっごくお腹が空いてきちゃった」
「リクエストはあるかしら?」
「じゃあ石鶏の唐揚げにアーリーバッファローのテールスープ、それからヘアリーボアの姿焼きにブロードシープのラムチョップも食べたいです!」
「ふふ、お肉ばっかりじゃない。もっとお野菜も食べないとダメよ?」
呆れる私に、シリルはニコッと無邪気な笑みを向けて言った。
「いいんです、こう見えて僕、肉食男子ですから! 牛さんたちが僕の代わりに草を食べてくれてるから、お肉を食べれば野菜を摂ったのと同じなんです!」
「……そんな理屈、聞いたことないわよ?」
「そういうものなんですー! だからレアーヌさん、今日はいっぱい食べさせてくださいね!」
あどけない少年のわがままに、私は苦笑しながら彼と連れ立って帰路につく。
さて、この可愛らしい少年のために、どんなお祝いの食卓を整えようかしら。
陽の光を反射させて鈍色の光沢を放つ片手剣(ショートソード)を一生懸命に構えながら、戦士の少年——シリルが尋ねてきた。
風に揺れる柔らかな金髪を短くまとめた彼は、初めての本格的な戦闘を前に、小鹿のように全身を強張らせて私を見つめている。
「ご、ご指示を! 僕、頭が真っ白になっちゃって……。レアーヌさんの言う通りに動きますから、僕が何をすればいいか全部教えてください!」
必死に助けを求める少年の姿に、私は安心させるような穏やかな微笑みを返した。
「大丈夫よ、シリル。落ち着いて。その子は牙の攻撃にさえ気をつければ怖くないわ。獲物を狙うときは必ず首筋へ飛びかかってくる。だから、相手が動く瞬間に合わせて左手のバックラーで『盾殴り(シールドバッシュ)』を放つの。怯んだ隙に剣でトドメを刺せばいいわ」
街外れの平原。私たちはいま、群れからはぐれた一匹の魔物と対峙していた。
『白銀狼(シルバーウルフ)』。危険度は低いが、初陣の少年には十分すぎる脅威だろう。
メイドである私にとっては荷の重い相手だが、彼ならできるはずだ。危なげなく初勝利を収められるよう、私は背中を押す。
「長年に渡って多くの冒険者を見てきた私には分かるわ。貴方なら、絶対にできる」
「は、はい……っ! レアーヌさんがそう言ってくれるなら、僕、やってみます!」
私が泰然と構えているのを見て、シリルも少しずつ呼吸を整え始めた。
そう、それでいい。戦いにおいて最も重要なのは平常心。
「えっと、バックラーで殴ってから、トドメ……。よし、頭に入れました!」
私の指示を反復しながら、シリルは勇気を振り絞って踏み出した。
両足をしっかりと開き、腰を落とす。そして片手剣の柄でバックラーを打ち鳴らした。戦士の基本スキル『挑発(プロヴォーク)』だ。
教えたわけではないが、相手を誘い出す方法を自分で考えたらしい。いい筋をしているわ。
「アオオオオオオンッ!」
じりじりとした睨み合いの末、焦れたシルバーウルフがシリルめがけて弾かれたように駆け出した。
「盾(シ)、シールドバッ——」
「焦らないで! まだ引きつけるのよ!」
「わわっ!?」
恐怖から早まろうとした彼を、鋭い声で制止する。
今打てば回避される。怖いでしょうけれど、あと数歩、我慢よ。
「——今っ!」
「……はいっ!!」
私の声に応え、シリルは渾身の力でバックラーを突き出した。
飛びかかってきた銀狼の顔面に盾が直撃し、衝撃で魔物が地面に叩きつけられる。自慢の牙が血飛沫と共に散り、銀狼は地面でビクビクと痙攣するが、もう起き上がる力はない。
「ふ、ふぅ……上手くいったぁ……」
「安心するのはまだ早い。とどめを刺してないわよ」
「あ、そうだった! よ、よし……えいっ!」
無防備な首筋に、シリルは精一杯の力でショートソードを振り下ろした。
切っ先は少し震えたけれど、その一撃は銀狼の命を断つのに十分な鋭さを持っていた。
「はあ、はあ……」
荒い息をつきながら、シリルは呆然と魔物の遺骸を見つめている。
「おめでとう、シリル。立派な初勝利よ」
後ろから近づき、パチパチと拍手を送る。
そこでようやく彼は自分がやり遂げたことに気づいたようだ。
「や、やりました、レアーヌさん! 僕、一人で魔物を倒せたんだ! すごいや、本当に倒せちゃった!」
パッと顔を輝かせ、少年の純粋な喜びが爆発する。
「全部、レアーヌさんのアドバイスのおかげです。僕、緊張してダメダメだったのに、優しく教えてくれて……ありがとうございます!」
「いいえ、貴方の勇気の結果よ。もっと自分を誇っていいわ。本当によく頑張ったわね」
ねぎらいを込めて少年の頭を撫でると、彼は顔を真っ赤にして、けれどとても幸せそうに「えへへ」と笑った。
その懐いてくるような仕草は、本当に小動物のようで可愛らしい。
「——さあ、今日は初討伐の記念に二人でお祝いをしましょう。私が腕によりをかけてご馳走を作るわ」
「やったあ! レアーヌさんの料理、僕、世界で一番大好きなんです! たくさん動いたら、なんだかすっごくお腹が空いてきちゃった」
「リクエストはあるかしら?」
「じゃあ石鶏の唐揚げにアーリーバッファローのテールスープ、それからヘアリーボアの姿焼きにブロードシープのラムチョップも食べたいです!」
「ふふ、お肉ばっかりじゃない。もっとお野菜も食べないとダメよ?」
呆れる私に、シリルはニコッと無邪気な笑みを向けて言った。
「いいんです、こう見えて僕、肉食男子ですから! 牛さんたちが僕の代わりに草を食べてくれてるから、お肉を食べれば野菜を摂ったのと同じなんです!」
「……そんな理屈、聞いたことないわよ?」
「そういうものなんですー! だからレアーヌさん、今日はいっぱい食べさせてくださいね!」
あどけない少年のわがままに、私は苦笑しながら彼と連れ立って帰路につく。
さて、この可愛らしい少年のために、どんなお祝いの食卓を整えようかしら。
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