俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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漣颯斗side







 物心ついた時からずっと退屈だった。








 人より上手く物事をこなすことが出来た。一度見て、新しいことを始めると2度目には出来てしまう。他人が時間を掛けて成し遂げることもずっと短時間で、完璧に達成する。




 両親は凄い、凄いと喜んで僕を持ち上げた。その顔は嬉しくて嬉しくて堪らないといった表情で、二人は純粋に息子の才能を喜んでいた。



 
 だけど。




 











 だけど僕は、つまらなかった。











 だって、どんなこともすぐにできてしまう。分かってしまう。全部作業になる。






箱を開ける前に、中身が分かるようなつまらなさがあった。






 出来たことへの達成感などない。ただ、こんなものか、と。虚しさだけが残る。








 自分には、人として必要な何かが欠けている。






 それは幼稚園に入園した時からぼんやりと分かっていた。





 何をしても楽しくない。面白くない。何を言われても嬉しくない。何をされても悲しくない。




 どうして彼ら、彼女らが笑えるのか、理解できなかった。何がそれほど感情を左右するのか分からなかった。








 何にも、興味がなかった。







 ただ、分かったのは、他と違うことは変で、それを表に出してはいけない、ということ。両親にも、先生にも。誰にも、僕が化け物であることはバレてはならないんだな、と学んだ。





 だからいつも人懐っこい笑みを浮かべた。『やさしい』という言葉に当てはまる行動を取った。






 僕は『やさしい』人間になった。








 たくさんの人が集まってきた。みんなが僕に興味を持った。僕を好いた。










 でも結局、僕は、やっぱり何にも興味がなかった。









 ただ、やはりこれも思い通りになるんだな、とどこか白けたような気になった。









 退屈な日々を過ごしていたある日、幼稚園の校舎の中で、アリを見つけた。






 大きなアリだった。






 けれどそれは誰かに踏まれたのか、既に動きが弱々しかった。くしゃ、となった足で、それでもそのアリはもがいていた。もうすぐ潰えることが決まっているのに、ジタバタと足を動かして歩こうとしていた。





 僕は指を伸ばした。放っておいてもどうせ死ぬだろうと思った。だけど死期が近くなった生き物が、どうしようもない窮地に追い込まれた時にどうなるのか見たかった。





 アリは指に縋るだろう、と僕は予想した。だってもう、息も絶え絶えだ。藁にもすがる思いで、救いを求めるに違いない。





 

 しかし。






 






 がじり。










 鋭く強い痛みが、指先に走った。僕は驚いて手を引っ込めた。








 予想は外れた。








 アリは、僕の指先に渾身の力で噛みついた。指先は赤く腫れ、じんじんと痛みを主張した。





 アリはしばらくして死んだ。それを見て、最期の力を絞って僕の指を噛んだんだと悟った。










 僕は初めて、興味を持った。









 死は、時に予測不可能なことを引き起こす。








 死という苦痛。それに悶える生き物。







 どうやって動くんだろう。







 最期に何を足掻くんだろう。










 全てが未知だった。








 本にも、辞書にも書いていないことだった。









 手始めに小さな生き物から殺してみた。










 まずは原点のアリ。水に浮かべた、潰した、手足を捥いだ。どれも最期までジタバタとしていた。そして死ぬ。






 すぐにアリだけでは満足できなくなり、蝶やバッタ、カマキリ、蜘蛛などでも試した。色んな方法で虫達を殺していく。







 ぞくぞくした。いつだってそれは予測できなかった。










 初めて、『楽しい』と思った。










 先ほどまで命を体に宿し、活き活きとしていたものが、自分の行動一つで死んでしまうのが面白かった。







 僕の中で、生き物を殺すのは息をするのと同じだった。














 ところが、毎日虫を殺したり、『がいちゅうごっこ』と称した殺しの遊びをする僕は幼稚園ですぐに浮いた。







 思い通りに操っていた彼らはまるで魔法が解けたみたいに俺を怖がった。『がいちゅうごっこ』に誘った人間はみんな引っ越し、遠くに行ってしまった。





 みんなが積み木で遊ぶように、みんながままごとで遊ぶように、僕にとっての『楽しい』は、生き物を殺すことなのにな、と僕は思った。






 同時に、僕は分かっていた。これは、みんなが求めている漣颯斗じゃない。







 変なのは、僕だ。






 おかしいのは、僕だ。









 でも僕が求めている僕は、おかしい僕だった。









 しばらくして、僕は擬態することを選んだ。





 また退屈が戻ってくるのは嫌だったが、両親に勘付かれることは避けたかった。バレてしまえば、生き物に接触することが難しくなることが予想されたからだ。









 僕はまた、みんなが求める僕になった。








 今までと同じように振る舞えば、僕がおかしいことなんて、誰にも分からないと思った。











 事実として、それは誰にもバレなかった。

































 ただ一人、要を除いては。
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