俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

文字の大きさ
53 / 127

17

しおりを挟む


***

主人公side






 温かい。





 ぼんやりとした意識が確かにある中、俺はふとそんなことを思った。何か聞こえる。なんだろう。耳を澄ませるけれど、音としてしか捉えられない。



 同時に、ああそうか、俺って刺されたから、これは死後の世界ってやつなのかな、なんて呑気に納得した。なんか思ってたのと違うな、三途の川とか桃源郷もないし、天国も地獄もない。真っ暗なままだ。俺、もう一回前世で死んでるけど、1回目は何にもないまま成瀬要に憑依したんだけど。システムのバグ?天界って意外とブラックなんかな。



 にしても、うーん、起きたくない。こんなにあったかくて気持ちいいのに、誰だよ俺に話しかけてる奴。神様ですか?もっとはっきり言ってくださいお願いします。




 そこまで思ったところで、あれ、と俺は思った。そういえば、温かいのはずっと一部だけだ。例えるなら、そう、手を握られる温かさというか。それも片手。おっかしいな、霊体って感覚ないんじゃないのか?ってか体とか存在してんの?











 これじゃあ、まるでまだ俺が──────



















「……要!!!!!」














 突然大音声で名前を…いや、憑依してからの名前を叫ばれて俺はパチリと目を開けた。真っ白な光がぶわっと溢れ出して、雨のように降り注いでくる。反射的に目を細めると、だんだん光の中に誰かの顔が見えるようになった。







「っぇ」









 カッスカスの音が口から漏れる。見間違えるはずがない。だけどこれはありえない。








 なんで颯斗が、ここに?









 意味が分からなくて、大混乱する。なんで、どうして。俺は死んだはずで、これは死後の世界で。颯斗は、生きてたのに。








「本当に……良かった」










 苦しそうに顔を歪め、まるで血を吐くみたいに颯斗が吐息を吐いた。ぎゅう、と片手に力が入って、握り締めていたのは颯斗だったのかと瞠目する。しかしそんなのはなけなしの理性が読み取ったことで、俺の心は荒れたまま。














 ………まさか。















 瞬間、ある嫌な、いや最悪な仮説が降りてきて、俺は勢いよく飛び起きた。











 もしかして颯斗も俺が死んだ後刺されてっ!?










 ダメだ要、と颯斗が焦ったように制止の声を上げるけど俺は気にせずに体を起こした。くっそ、あのおっさんまだあの場に隠れてたのかよっ、と血の気が引くと同時に猛烈な怒りが湧いた。おいおっさん、颯斗殺すとか聞いてな────









「っっっぅい゛!?!?!?」









 起こした瞬間(正確には起こそうとした瞬間)、臓器握りしめられたんじゃないかってくらいの激痛が腹に襲ってきた。俺氏、大悶絶。いっ、いたいっ、死ぬ死ぬ!!!なんでっ!?!?!?







「要!!だから止めたのに、今ナースコール押すから」









 なーすこーる??????









 あ、ナースコール。ナースコールね、うんうん。知ってる知ってる、病院にあるやつねうん。












…………え?








 そういえば、いつの間にか視界が見えるようになっている。伏したまま首だけ動かすと、なんともそっけないけれどそれは確かに部屋で。すぐそばに点滴のパックが掲げられている。しとしと、と時計の秒針みたいに規則正しく落下した液体が管を通っていた。






 流石にここまでくると俺にも分かる。














 これ、病院じゃね?














 え、俺、




















「…………生きてんの?」
















 掠れた声で呟くと、颯斗がきっと俺の方を睨んだ。








「…どうして、生きるのを諦めてるの」





「ぇっ、あー……颯斗?」




「あの時も、一瞬諦めたよね。もう死んでもいいって、思ってたの?」




「あの……え、と」












 少し俯いた颯斗の表情は、俺を責めるような口調とは裏腹にひどく切なそうな顔で、俺はつい、おろおろと口篭ってしまった。ゆらゆらと、2つの黒水晶みたいな瞳が揺れる。









 正直、颯斗の言ってることは正しい。








 俺はあの時もう死ぬだろうなって思ってたし、実際まだ生きたいとかそんなことも考えてなかった。実は、死にたくないとかも、そんなに思わなかった。









 だって、俺は、颯斗が生きてればそれで良いって思ってたから。









 そりゃ、未練が全くないかといえば大嘘で、今世の母さんにも父さんにも、可愛い弟の棗ともまだまだ一緒にいたいと思う。




 だけど、俺は所詮脇役であって、物語中盤でいなくなる配役なんだ。それはつまり、俺がいなくても、この世界は進んでいくってわけで。死ぬってことはある意味、俺の役割の一つだって思っていた節があった。俺が死んで颯斗が生きるならそれで良い。それが良い。颯斗だって、俺がグイグイ引っ張ってたから付き合ってくれてただけで、別に俺がいつ消えたって構わないはず。










 そう、思ってたのに。








「……ごめん、要。僕のせいで」




「ちが、」




「僕のせいだ。ごめん、僕が、あの場にいたから。だから要が刺されてしまった」




「颯斗、」




「要」







 それは決して大きな声なんかではなかったけれど、俺の呼びかけを切り裂くような鋭さと痛烈さがあった。思わず、口を噤んでしまう。








 なんでだろう。思ってた反応と違う。








 颯斗は俺が死に損なって残念に思ってるはずなのに、俺と繋いだ手は怖がるようにぶるぶる震えていて、ただでさえ白い頬は青白い光を持っていた。目が覚めた時はあんなにしっかり握ってた俺の手は、今はまるで壊れ物でも触るようにそっと、颯斗が包み込んでいる。








「僕は、要が死ぬんじゃないかと、本気で思った」











 息だけで囁くような、そっと誰かに、罪でも告白するようなそんな声で、颯斗は苦しそうに呟いた。唸り声にも近い。










「要が眠っている間、ずっと、ずっと、考えてた。ずっとだ」









 俺が好きな、綺麗な漆黒の目。静かで厳かな夜を小さくしたみたいなその澄んだ瞳が、病室と窓から入ってくる光源から光を受けて、無数の星みたいにキラキラしている。その夜空からは、いつだって感情が読み取れなくて、だから俺は、一生、颯斗がどう思っているかなんて分からない。








「本当は、ずっと前から知ってたよ。僕は化け物だ。何をしても満たされなかった。ずっと退屈だった。何にだって興味は無かった」










 分からなかった。








「なのに、要が僕の世界に現れてから、僕は。僕は気がついたら要がいない世界を想像するのは、難しくなっていて」









 分からない、はず、だった。






「おかしくなりそうだった。何も感じなくて、だけどただ、一つだけ、僕は、やっと、化け物の僕なりに分かったんだ」












僕は。















「要が、大切なんだ」












 その目には何も浮かんでいない。それが常であり全て。








 けれど、この時だけはその真理は覆って、天変地異が起こる。









 正面から、見た。











 颯斗はまた、あの意識が切れる前に見た、泣きそうな顔をしていた。する、と白い指先が頬に滑る。息を呑んだ。


















 俺が、颯斗にとって、大切。










「た、いせつ……?」







「大切で、特別。だから僕は、要に死んで欲しく無かったんだと思う」












 自分のことなのに、他人の状況のようにそう言った颯斗は一番、戸惑っているようで、だからこんなに迷子みたいな顔をしてるんだろう。颯斗の言った『大切』は、まるでたった今生まれた新しい言葉を舌先で転がすような拙さがあった。









 でも、それは確かに颯斗から俺に、贈られた言葉で。










 すとん、と、颯斗の言葉が胸に落ちる。そうか、そうなのか。颯斗も、俺が、大切。












 たい、せつ。














「要……嫌だった?」













 指に乗った雫を見て、颯斗が俺の顔を覗き込む。俺はゆっくり、ゆっくり、首を振った。













「ううん……ううん、ちがう」













 そっか、そっか、そうだったんだ。









 ずっとずっと、俺は颯斗を人間にしようとして努力してきた。全部失敗に終わって、結局は颯斗は原作と同じ性格に育っちゃったから、これは駄目だったんだな、って勝手に思ってた。全部、無駄だったんだなって。









 でも。








 無駄なんかじゃ、なかった。











 確かに、あの日々には、意味があった。










 心配する颯斗に向けて、俺は泣きながら、ふへへ、と笑った。











「すげー、嬉しい」









 俺が颯斗を大切に思ってて、颯斗も俺を大切に思ってる。








 俺も生きてる。








 なんか、まるで奇跡みたいだ。










 颯斗がふわり、と俺の体を抱きしめた。あったかい。心も体もポカポカする。












 嗚呼。









 そうか。










 やっとだ。








 やっとなんだ。











 やっと、










 やっと、

































「俺達幼馴染から親友になったんだよな!!」

























「…え?」



「え?」








 2人して間抜けな声を出して顔を見合わせる。まぁ、颯斗が間抜けだった時なんて一回もないんですけれども。








「…………」






「は、颯斗?」









 痛いくらいの沈黙に耐えきれなくて恐る恐る窺うと、颯斗は唐突ににっこりした。ひえ。












「………要はそういう子だったね」










 心なしか呆れられてるような気がするんだけどなんで?













┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

本人は

要→→→←←颯斗

と思っているが、実際は

要→→→←←(←←←←←←←←←←←)颯斗

みたいな感じなのに何も気が付いていない主人公
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

告白を全部ドッキリだと思って振ったら、三人のアイドルが壊れかけたので彼氏役をすることになりました

海野(サブ)
BL
大人気アイドルヘイロー・プリズムのマネージャーである灯也はある日、その担当アイドル 光留 輝 照真 に告白されるが、ドッキリだと思い、振ってしまう。しかし、アイドル達のメンタルに影響が出始めてしまい… 致してるシーンと受けが彼氏役を引き受けるとこしか書いてませんので悪しからず。

ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」 *** 日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。 疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。 彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界! リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。 しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?! さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……? 執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人 ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー ※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇‍♀️ ※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです ※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます 不定期更新予定に変更させていただきます。 ♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております! 感想も頂けると泣いて喜びます! 第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...