俺を殺す君に!

馬酔木ビシア

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 その後ばたばたしながら看護師さんやお医者さんが入ってきて検査とか色々して、一気に俺の家族が病室に雪崩れ込んだりしてきた。





 父さんは大号泣だし、母さんも涙目で抱き締めてきたし、棗に至ってはもう喋れないくらいしゃくり上げながら抱きついてきた。俺はみんなに抱きしめられながら、ああ、大事にされてるなぁ、なんてしみじみ。やっぱり、死ななくてよかった。




「要兄の馬鹿ぁっ!!!!!馬鹿ばかばか!!!!」



「ごめんなぁ棗……よしよし」



「……ぅうっ、う、お、おれっ、えぐ、要兄が、死ぬんじゃないかって、思ってぇ、ひぐっ」



「………うん、うん。心配かけて、ごめんな」




 涙やら鼻水やらでべしょべしょにした顔は俺が知る小さい頃の棗みたいで、相当心配かけてたんだなぁと罪悪感が少し顔を出した。最近は、昔は棗も泣き虫だったなんて話したら、やめてよ、今はもう泣かないもんなんて返してたのに、これじゃあすっかり泣き虫にしか見えない。泣かせてるの、俺なんだけど。でもまぁ、俺のために泣いてくれてるんだから、俺は相当な幸せ者だよね。

 聞いたところによると俺は一時期ちょっとヤバい状態だったらしいけど、今はもう佳境を乗り越えたので心配することはないらしい。とはいえ、まだ術後なので無理は厳禁だし当分は入院だそう。ぴえん。




「本当に、本当に目が覚めてよかった。要ちゃん……また明日来るからね」




「うう、ふぇええええ、要っ、ぐす、また明日なぁ…」




「父さん泣きすぎ……うん、明日も待ってる。ありがとう、二人とも」



  
 見舞いが終わって帰る前に、母さんと父さんが俺をそっと抱きしめた。まだ号泣している父さんに苦笑いして、小声で二人に、棗にもありがとうって伝えて、と言った。泣き疲れたのか、棗は父さんの背中におんぶされてぐっすりだ。父さんは午後から仕事が入っていて、母さんは寝てしまった棗を連れて家に帰ることになった。母さん曰く、棗は俺が病院に担ぎ込まれてからろくに寝ていないらしい。きっと、めちゃくちゃ不安にしたんだろうなぁ。ごめんと、愛してる、という意味を込めて、俺は棗の額にキスをして別れを告げた。


 3人が帰ると、途端に病室は静かになった。みんなの前では強がったが、正直ファミコンの俺からすると寂しすぎる。颯斗も俺が家族と話してるタイミングで気を遣って帰っちゃったし、正真正銘の独り。孤独は辛いよ。


 やることもないし……テレビでも見るか。リモコンに手を伸ばして、スイッチをつけようと体を起こす。びりりと痺れるような痛みが走った。いてて、そういえば術後の引き攣れとか言ってたっけ。早く治んねぇかなぁ、めんどい。


 ぽちぽちとチャンネルをザッピングしてみる。ニュースと、料理番組、食べ歩き番組。うーん、まだ昼時だし、これと言って面白そうな番組はないなぁ。仕方ない、ニュースでも見るか。



 ラジオ代わりにニュースを選択してベッドに沈み込む。真面目腐った顔で男の人がペラペラ喋ってるのを聞いていると、段々眠たくなってきて、うとうとと瞼が重くなる。









 

ううん……ちょっとだけ……。















 ガララッ!!!












「カッキー!!!!!」





「どぅえっ!?!?!?!?!」





 むにゃむにゃしかけていたら、突然慌ただしい音を立てて病室の扉が開き思わず奇声を上げる。と、同時に何やら懐かしい声が。


 ふわり、と優しく鼻に届いた石鹸のような爽やかな香りに、あ、と思う間もなく人の姿が見える。尋ね人は俺の友人のタッキーだった。急いで来たのか、校則で禁じられているにも拘らず、制服の第二ボタンを開襟した姿で息を切らして立っている。


 色素の薄い目とばちっと目が合う。途端、その目が見開かれた。




 


「………や、やっほー?」



 



 これは違うだろと思いながらベッド上から恐る恐る手を振ると、つかつかと無言でタッキーがこちらに歩み寄って来て、俺の目の前に立った。ぬ、と手を額に翳される。





「ん?」





 どむっ。






「ったぁ!?」






 伸ばされた手に首を傾げていると次の瞬間、変形した指が鈍い音を立てて俺の額を勢いよく弾いた。所謂デコピン。









 え????なんで俺デコピンされてんの??









 ジンジンする額を涙目で抑えると、タッキーがふー、と息を吐いた。





「とりあえず、これで許す。デコピン一発で済ませるほど俺の心情は軽くないけど今は勘弁してやるよ」




 す、と細められたグレーのような薄い瞳が、激情を孕んで静かに燃える。遅れてその言葉の意味を理解して、俺は、何故か少し、目の奥が熱くなるのを感じた。





「……ごめん」





 ぽろり、と涙みたいに自然に言葉が出て、それを聞いたタッキーは一転して笑った。くしゃり、とまるで子供にやるみたいに俺の頭をなでなでする。





「まぁ、カッキーはいつかやらかすと思ってたよ。無事でよかった」




「やらかすってお前ひどいな…俺は真面目に生きてるだけなんですけど」




「なおさらタチ悪い。やらかすと分かってても肝が冷えたけどな」







 それは…うん、本当にごめん。




 だが俺だってまさかこんなことになるとは思ってなかったんだよ。だって、颯斗の闇堕ち阻止しようとしただけで猫連続殺人犯に遭遇して刺されるとは思わんじゃん?原作にない展開だし、マジあのおっさんキモかったし。できればもう思い出したくねぇ。




 ぶるぶる、と背筋を震わせてベッド上で顔を顰めると、タッキーがベッドの端に腰掛けた。



 そういえば、




「タッキーさぁ、学校は?」



「ばっくれた。当たり前のこと聞くなよ」



「そんな気はしてた……ん?お前なんで俺が意識戻ったこと知ってんの?」



「それはまぁ、愛の力だな」



「そんなんで学校サボって来たのかよ」






 適当なことを言って躱すタッキーに諦める。なんだよ愛の力って。普通に照れるし、そんな不確かなもん頼って来るなよ。違ったらどうすんだ。






 そんな軽口を心の中で叩くけれど、なかなかどうして、このやりとりが嬉しくてによによと口角が上がってしまう。






「でも、嬉しいだろ?」






「……………まぁ」






 目ざとくそれを見つけられて、気恥ずかしさからそっぽを向いて答えると、ふは、といつも通りの軽やかな笑いが聞こえる。余裕が滲んでて悔しい。






 くっそぉ、勝てる気がしない……。

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