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しおりを挟む「かなめんさぁ、なんで幽谷来たのー?」
「もういいよ、そのあだ名で……」
あれから何回か呼び名を矯正しようとしたけど、結局夏木は俺のかなめん呼びを変えなかった。めちゃくちゃしつこく訴えたんだけど、こいつ意外と意思固くて俺が先に折れてしまったのである。くそ、チャラ男のクセに初志貫徹とか、男らしさ装備するなよ…しかもちゃっかり馴染んでるし。
んで、なんだっけ、…あー、学園に来た理由か。
「急だなぁ……んー、まぁ、一言で言えば、俺の人生のためだな」
「えー、真面目、つまんねーのっ。将来いい企業に就きたいとかそーゆーやつ?」
「お前が勝手に俺を面白い奴認定してるだけだから!!…いや、それよりももっと直近で……」
食べ終わったパンの袋を丸め、ごくんと黒糖パンを飲み込んで俺は言葉を探す。うーん、なんて言ったらいいんだろう?流石に幼馴染に殺されないためにこの学校来たとか言えないしなぁ…。
「あー…俺にはなんでも出来る完璧な、すっっっごい自慢の一個下の幼馴染の親友がいるんだけどさ。その子は、まだ、この世界が楽しいってことを知らなくて、だから俺は……んー、うまく言えないな。俺は、その子に、本当にこの世界が綺麗だって思えるようにしたくて、その子が志望するこの学校にしたんだよ」
颯斗のことを思い浮かべながら、今頃どうしてるだろうなぁと考えに耽る。颯斗が入学してきたら、俺がしっかり颯斗が幸せになれるように動かないとな。まずは真澄といい雰囲気になるように影から見守って、サポートして、そんで颯斗から恋愛相談とかも、もしかしたら受けたりして……俺には利用価値があるんだってことを証明しなきゃだからな、うんうん。
「……成瀬君は、ほんとにその子のことが大事なんだね」
ほへぇ、と深春が感心したように言う。俺は笑って頷いた。
「ん、親友だから。その子には、俺の全てをかけても幸せになってほしいんだ」
「何それエモすぎじゃね?やっべ沸るわー……俺っちは他人のためにそこまで行動すんのは無理」
「俺だって他人にはそこまで肩入れしねーよ。颯斗が特別なんだって」
夏木にそう返しながら、最推しだし、という言葉は飲み込んでおく。前世では推しだったけど、今世ではもうただの推しじゃなくて親友でもあるからな!最推し兼親友って感じか。
うんうん、と一人満足していると、なんだか教室内が静かなことに気がついた。うん?みんなこっち見てるんだけど、どした?
「え、俺なんかした…?」
心あたりがなさすぎて首を傾げる。すると、深春がちょっと困ったように笑って声を潜めた。
「たぶん、みんな、成瀬君の話が気になって聞いてたんだと思う……その、噂とかこの学校結構広がりやすいから、成瀬君も気をつけてね」
「あーなんだそういうことね。まぁ、俺聞かれて困る話してないし大丈夫っしょ!!」
むしろ颯斗の布教になって俺としては本望である。入学する前から噂が広まるなんて、さすが俺の幼馴染って誇らしくなるし!!
しかし俺がにこにこしながら鷹揚に答えると、深春はすごい勢いでブンブンと首を振った。今まで見たことないくらい目を見開いて、クワッとこっちに身を乗り出してくる。
「成瀬君、甘く見たらダメだよ!!成瀬君の今の話はまるっきり幼馴染の子との一途な思いで関係がすごく萌えるし、成瀬君の一途純情と見せかけて実は幼馴染の子の方が成瀬君に超依存してるかもとか想像できて、腐男子からしたら格好の餌、ネタ中のネタなんだから!!!」
「お、おう……」
え、えと、深春サン?
勢いに押されてちょっとのけぞると、なぜか対面の夏木もうんうんと満足そうな顔で頷いて同じく身を乗り出してきた。
「そうそう!!!!幼馴染、それは古より続く日本人が大好きな激萌え設定……今までずっと一緒にいたからこその葛藤を含む純情、ピュアが王道っちゃ王道だけど、俺っちの中では共依存、ヤンデレ、激重感情なんかも貴重な栄養源!!!!」
「ちょっと落ち着け???」
「幼馴染、美味しい……」
「幼馴染、マジてぇてぇ……」
仏みたいな顔をして似たようなことを二人が呟く。俺はその鏡みたいな光景に、あ、これよく知ってるやつだ、と悟った。
あれだ、こいつら。
腐男子だ。
しかも自爆して腐バレしたことにも気がついていないタイプだこりゃ。
俺はもうこれ以上ないってほどにっこりと笑う。そして、単刀直入に言うけど、と口を開いた。
「お前らも腐男子なの?」
「「……あ。」」
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