笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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龍神side



あれから西連寺と俺は完全にすれ違ってしまい、口も訊かない日々が続いていた。俺はどうしても気まずくて、教室に行く頻度が少なくなった。西連寺と顔を合わせると、あの日のことを思い出してしまって嫌だった。


貸してもらって返せていないジャージは、洗濯後紙袋に入ったままずっと風紀室の机の上に置かれている。俺は椅子に座ってそれを眺めながら、溜息を吐いた。頭がぼーっとする。少し根を詰めすぎたのだろうか。



その時、ガチャッとドアが開いて、数十分前に所用で出て行っていた亘が入ってきた。はっとして思考の鈍りを振り払うと、亘がこちらを見て微笑んだ。





「委員長」





「…ん?」





手に持っていた書類を置いて、亘が俺の隣まで歩み寄ってくる。呼ばれて顔を上げると、亘は手を伸ばして俺の顔に触れてきた。




「最近、すごく遅くまでお仕事なさっていますから…今日はもう、休んでください」




そう言って俺の目にかかっている前髪を耳に掛ける。




「……もう、理由は聞かないんだな」




亘は最初、俺の様子を不審がっていたが、今ではもう何も聞かない。何も言わずにいつも通り俺に接して、いつもと同じコーヒーを淹れてくれる。きっと迷惑を掛けているはずなのに、踏み込んでこない亘の様子がありがたくて、けれど同時に後ろめたくもなって俺は思わずそう返した。




「私は、あなたの嫌がることはしませんから」




その瞳には相変わらず優しげな光が浮かんでいたが、何を考えているのかまでは読み取れなくて困惑した。でも確かに頭があまりはっきりしないし、ここは一度言葉に甘えて帰った方がいいかもしれない。




「そ、うか。じゃあ……その、甘えてもいいか?」




「…はい、残りはお任せください」





ふわりと柔らかく笑って亘は俺の荷物を掴むとドアまで見送ってくれた。去り際に一言、声をかけられる。






「委員長」





「っ、嗚呼、なんだ?」




「…………いえ、なんでもありません。また明日」




それを最後に、音を立ててドアが閉まる。亘が何かを言いかけたように見えたが、結局先の言葉は聞けなかった。



仕事を失うと、俺にはもうやることが残っていない。ここは自室に帰って寝るなりゆっくり過ごすなりして休むべきなのだろうが、どうもそんな気分にはなれなかった。きっと寝てもすぐに目が覚めてしまうだろう。しかし俺には帰ることしか、選択肢がなかった。気乗りしないまま、寮に帰ろうと廊下を歩く。






「…………っ?」






校舎の外に出た時、携帯に着信があった。





西連寺かもしれない。





少しの期待と不安を抱きながら携帯を開いて、思わず目を見開く。見覚えのない相手から通知が来ていた。

名前は、『Sumi』。知り合いにそんな名前のやつはいないと思うのだが……怪訝に思ってメッセージを確認すると、こんなことが書かれていた。







『突然すいません、副会長から連絡先教えてもらいました。この間の件なんですけど、いつ会えますか?俺はいつでも良いんで連絡お願いします!』







その文面と読み取った相手の雰囲気で、俺はやっとぴんと来た。









これを送ったのは、藍野だな。









おそらく『Sumi』は彼の下の名前の『じゅん』を名前読みしたもので、あだ名のようなものだろう。うっかりしていたのか何なのか分からないが本名を書き忘れたらしい。この間の件とは、二人で話せないかという誘いのことだろう。



苦笑しながら返信する。なるほど、気分が優れないところだったから、藍野と会って話すことでいくらか安定するかもしれない。






















『事情はよく分かった。ちょうど仕事を休ませてもらったから、今からでも良いんだがそっちは大丈夫そうか?』




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