ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

カイ・リンデンバウムは全てを見通し指示を出す 5

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「どうしたんじゃ、ヴェロニカ?カイ様からの直々の指示じゃぞ、すぐに動かなくて良いのか?」

 カイからの指示を受けても、ヴェロニカは一向に動こうとはしない。
 それを不審に思ったダミアンが、彼女へと声を掛けていた。 
 勇者抹殺計画自体は彼女とダミアンが立案したものであったが、このダンジョンの操作となればダミアンに出来る事はほとんどない。
 つまり計画の実行に当たっては、ヴェロニカの働きこそが最も重要な立ち位置にあり、彼女が動き出さなければ始まらないといっても、過言ではなかった。
 そんな彼女が一向に動こうとしないのだ、ダミアンでなくとも不審に感じるというものだろう。
 そうしてダミアンに尋ねられたヴェロニカが返してきたのは、意外過ぎる一言であった。

「えぇ、勿論分かっているのよダミアン。でもあまりの事に、身体が震えてしまってうまく動かないの・・・もう少し待ってもらえるかしら?」

 ダミアンからの疑問に、ヴェロニカは感動がこの身を支配してしまっているから、仕方ないのだと弁解している。
 確かに良く見てみれば彼女の身体は細かく打ち震えており、その瞳もうっとり濡れているようだった。
 彼女のその恍惚は、自らの主人が自分たちの事を見捨てずに、ちゃんと考えていてくれた事を知ったからだろうか。
 それにしても激しすぎる彼女のリアクションに、ダミアンは静かに首を振ると呆れたように溜め息を吐いていた。

「まったく、お主は・・・しかしカイ様は、勇者がやってきたと申されておったが・・・その姿はないようじゃ、これは一体どういう―――」

 ヴェロニカの様子に彼女がしばらく使い物にならないと判断したダミアンは、短く苦言を漏らすと先ほどカイが話した事について考えていた。
 彼は確かに勇者がやってきたと話し、計画の開始を告げていた。
 しかしこのダンジョンには今だ、勇者が訪れた兆しはない。
 その相反する事実にダミアンは疑問を感じ、首を捻る。
 しかし、彼もすぐに理解するだろう。
 カイが口にした事は、正しかったという事に。

「なっ、こ、これはなんじゃ!?まさか、これが・・・!?」

 背中に奔った寒気は、このダンジョンに異物が紛れ込んだ事を示すサインだ。
 しかし今やひっきりなしに冒険者が訪れるこのダンジョンに、異物など珍しくもない。
 であれば、これほどの寒気を感じさせる異物とは、一体何なのであろうか。
 決まっている、勇者だ。
 魔を、魔物を、断つ者がこのダンジョンに現れたのだ。

「ふふふ・・・あの御方が仰られる事が、間違っている訳がないでしょう?」

 全身を貫くような寒気に狼狽するダミアンと違い、ヴェロニカはその恍惚を歓喜と変えて余裕の笑みを浮かべて見せていた。
 カイの能力を妄信する彼女からすれば、その言葉を疑う事などありえないことだ。
 そのため彼女は始めから信じていたのだろう、すぐに勇者がやってくると。

「それはその通りじゃが・・・しかしのぅ―――」

 カイの言動を信じ切れなかったダミアンの事を、ヴェロニカは暗に非難している。
 しかしダミアンにも、言い分はあるだろう。
 このダンジョンの相談役でもある彼は、例えカイの言う事でも頭から信じる訳にはいかない。
 そう主張しようとした彼の言葉は、しかし突如響き渡った大声によって最後まで言い切ることは出来なかった。

「はーっはっはっは!!きたぜきたぜぇ!!ついにきたぜぇぇぇぇ!!!」 

 響き渡った大声は、この部屋から発せられたものではない。
 それはこの最奥の間と繋がっている最後の部屋、つまりこのダンジョンの最終ボスの部屋からであった。
 拳を打ちつけて戦意を昂ぶらせている音までもを響かせるのは、そこに君臨する男、セッキだろう。
 彼は大声を上げては勇者の来訪に喜びを示し、その興奮をこの部屋にまで響かせていたのだった。

「やれやれ、あ奴にも困ったものじゃて・・・して、ヴェロニカ。もう準備はよいかの?」
「えぇ、もう大丈夫よダミアン。それでは見てみましょうか、勇者のご尊顔とやらを」

 それなりに距離が離れているにもかかわらず、耳を劈くような叫び声を上げたセッキに、ダミアンは両手で耳を押さえながら渋い表情を見せている。
 彼はその潰れた耳が再びピンと立つのを待つと、ヴェロニカにもう大丈夫かと語りかけていた。
 その言葉を待つ事もなく、ヴェロニカは既に普段の姿を取り戻し、澄ました表情で端末へと指を掛けている。
 いや彼女は決して、普段通りなどではない。
 寧ろその気合はいつも以上に漲っており、それはその綺麗過ぎるほどに真っ直ぐ通った彼女の背筋からも、窺い知る事が出来るだろう。

「ほう、これが今代の勇者か・・・」
「えぇ、間違いないでしょうね」

 手元の端末を素早く操作したヴェロニカは、勇者の姿を捉えているであろう入り口のモニターを拡大し手前へと表示させる。
 そこには今まさにこのダンジョンへと足を踏み入れた、赤毛の少女の姿とお付と思われる神官風の男性の姿が映っていた。
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