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陣触・下
19-2「一度話しただけのお前なんか覚えているもんか」
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「ああん? だから知らねぇって言ってるだろ?」
言いながら技術科の軍曹であるエロワ・ラプラードは後輩であるリィン・ツクバ伍長を小突いていた。
昼時の『つくば』艦内食堂である。リィンとエロワ、そしてライネ・ピエニ軍曹は連れ立って昼食を取っていた。その席でリィンは先日のクロウとのやり取りを思い出し、彼のお陰で先輩二人の分のデックスのプラモデルを入手できた経緯を説明していたのだ。
「なあ、リィンよ。確かにその場にクロウ少尉は居たが、実際には購買部のカエデのお陰じゃないかそれ」
眼鏡の鼻を押し上げながらライネの正論である。リィンは頷くが、言葉を続ける。
「縁ってあると思うんです。あの場でクロウ少尉が話しかけてくれなかったら、先輩たちの分のプラモデルは買えなかった。僕はお礼を言いたいです」
「「律儀か!!」」
エロワとライネは、そんな後輩の言葉に被せてツッコミを入れていた。
「大体考えて見ろ、相手は航空隊のエースの『つくば型』のエース様だぞ、一度話しただけのお前なんか覚えているもんか」
「違いない。技術科だけで261名だぜ? 俺らだって全員の顔と名前が一致しない事がある」
言いながら二人はそれぞれやれやれと言った様子で首を横に振っていた。
「何だお前ら、お前らも昼だったか」
言いながら3人の傍に近寄って来たのはシドである。彼らはシドの直接の部下に当たる。こうして食堂や浴場などで見かければ声を掛ける程度には彼らの仲はよかった。
シドを認めたエロワは、シドにリィンが今言った事を説明する。
「ああ、技術長。言ってやってください。リィンの野郎がクロウ少尉と会ったからお近づきになりたいとか言いやがるんですよ」
「へぇ、結構な事じゃねぇか。それの何処が悪いんだ?」
「いやいや、技術長。相手は英雄様ですよ。それに忘れられてがっかりしているコイツなんか僕たちは見たくないんで」
ライネはシドの返答に対して、エロワの言葉に補足するように続けた。
「エロワ、ライネ。何言ってるんだ? そんなことを言い出したら、俺はその英雄様と同室で、シド先輩なんて呼ばれているんだぜ? あいつだって等身大の人間だ。ここから先、あいつがどんなに有名になっても、あいつは態度を変えるような奴じゃねぇ」
そんな二人に対して、シドはそう言うと、自分の食事のトレーを3人の近くの席に置きリィンの頭にぽんぽんと手を置くとこう続けた。
「リィン、賭けてやるよ。クロウは多分お前の事覚えているぞ。もし忘れてたらこのエビフライをくれてやる。丁度よく航空隊の連中もお出ましだ」
シドの視線を追って三人が食堂の入り口を見ると、丁度航空隊の面々が食堂に入ってくる所だった。
「おーい、クロウ! こっち空いてるぞ!」
食堂に入るなりシドにそう声を掛けられて、クロウはそちらを向く。見ればシドは技術科のクルーたちと一緒に食事を取っていた。
「お、ユキさん。ラッキーですよ。シド先輩がちょうどいい所にいます」
クロウがラッキーだと語るのは先ほどまでブリーフィングルームで話していた航空隊募集の件である。
「本当だね。クロウ君悪いんだけど先にシド達の所に行ってちょっと引き留めておいてもらっていいかな? その間に君の分の食事も私達で持っていくから」
「了解です」
そう言って歩いて行こうとするクロウの背中を見送って、ミツキはエリサに声を掛ける。
「エリサ、貴女の食事は私が持っていくわ。クロウの背中をお願い」
「ええ、お姉さまそれは流石に……」
「いいから。今日は貴女が当番よ」
ミツキの言葉に遠慮しようとするエリサを押し切って、ミツキはエリサの背をクロウの方向へ押す。エリサは渋々頷くとクロウの後を追った。
「ああ、シド先輩。最近全然顔を見ていない気がしていましたよ。お疲れ様です」
クロウは言いながらそのシドの周りの面々を見回して、見知った少年が居る事に気が付いた。
「やあ、リィンだったかな? あの後無事にプラモデルは買えたかい?」
「え、ええ。クロウ少尉。お陰様です!」
それを見たシドはニヤリと笑い、エロワとライネは意外な顔をした。リィンの返答にクロウは「良かった」と返すと再びシドへ話しかける。
「ちょっと航空隊の用事でシド先輩とお話ししたいんですが、食事をご一緒しながら聞いて頂いていいですか? 今ユキさん達も来るので」
「ああ、構わねぇよ。どうせ昼休みだしな。賑やかなのも悪くない」
そのやり取りを聞いていたエロワは、クロウに問いかける。
「それなら俺達は席を外した方が良さそうですね。クロウ少尉達の邪魔になるでしょう?」
「え? いや、君たちさえ良ければ全然構わないよ。君はいつだったか4号機の調整をしてくれた人だね。改めまして、クロウ・ヒガシ少尉です。いつもお世話になっています」
言われて腰を浮かせようとしていたエロワは、クロウの顔を凝視して固まる。彼はそう言ってニッコリと笑うのだ。彼らが想像していた英雄像はそこにはない。目の前で微笑む少年は、エロワにとってもライネにとっても等身大の人間だった。
「クロウ様、立ち話も何ですから、私達も席についてお待ちしましょう」
言いながらクロウの背中から現れたエリサが、クロウの近くの椅子を引く。それを見てクロウは肩をすくめるのだ。
「エリサ。なんだか分からないけれど、そういう事はしなくていい。僕自身最近自分の戦略的価値について考える事もあるけれど、僕だってただの人間さ。女の子にそんなことをさせてると思えば恐縮もするし緊張もする」
「申し訳ありません!」
クロウの一言に身をすくませながら謝る少女に、クロウは優しくその頭に手をのせて続ける。
「だから、いいんだ。ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でもただの先輩として接してくれると僕もありがたい」
そのやり取りを眺めていたシドは後輩たちに向かって言うのだ。
「な? 普通の奴だろう?」
その一声を聞いてライネは、ズレた眼鏡を直しながらツッコミを入れた。
「いや、逆の意味で普通じゃないです」
それを聞いたシドは豪快に笑うと、クロウに向きながら言う。
「がはは、聞いたかクロウ? お前は変な奴だとさ」
今まさに椅子に座ったクロウはムッとしながらシドを睨んだ。
「とても失礼な話ですね。少なくとも僕は仮面で素顔を隠したりしていませんよ」
自分で言ってから、クロウは辺りをぐるりと見まわして、タイラーの姿がない事を確認して胸を撫でおろしていた。
「と、いう訳で、シド。協力をお願いできないかな?」
そんなやり取りの後、航空隊の面々も食事を持ってシドとクロウの周りに集まって来た。クロウの席の横からユキがこれまでの経緯をシドに説明していた。
「成程な。ライネ、今朝の進捗はどんなもんだった? 確か1号から4号までの改修はほぼ終わってたよな?」
「ええ、技術長。やはり予算があると違います。『こうべ』は途中で出港してしまいましたが、『けいはんな』の技術科クルーは未だに人員として使用できるので、武装や換装パーツの準備も含めて今のペースを維持すれば出港までには余裕で間に合う計算になりますね」
ライネは自身のリスコンを確認しながらシドに報告する。
「だな。今更数人抜けてもこっちとしては問題ない。エロワ、リィン。デックスMk-IIのVRデータとライトニングとウインドのデータの準備はどうだ?」
「はい。デックスMk-IIの訓練用VRデータ各種は昨日の段階で僕とルピナス情報長が。ライトニングとウインドのデータは、エロワパイセンが、それぞれ準備して訓練端末にインストール済みです」
シドの問いにエロワに代わってリィンが答えていた。
「ま、流石にまだ改修が終わっていない機があるのでコックピットを使用してのVR訓練は無理ですが、VR訓練室からの訓練ならもう実施できるようにはしてありますよ」
続けてエロワが補足していた。
「完璧だな。タスク通りのいい仕事だ。エロワ、ライネ、リィン。お前らには休暇をやってもいいくらいだ」
言いながらシドは隣に座っていたリィンの頭をガシガシと乱暴に撫ぜる。リィンは慌ててぐしゃぐしゃにされてしまったその銀髪を手櫛で整えていた。
「ったく、ユキよー わかってると思うが、技術科のクルーでMAAに一番乗りたいのは俺だ。だが、今俺が作業から抜けるとルピナスが泣く。それはもう間違いなく『シドにぃのバカぁあああ!!』とか言いながら泣く。流石にそれは可哀そうだから俺には出来ん」
シドはルピナスの声真似も交えながらそう言って両肩を上げて見せた。
「だから、このエロワ、ライネ、リィンを連れていけ。丁度3人だ。そっちとしても都合がいいだろう? こいつらは馬鹿だし、少しばかり悪ふざけもするが、整備の腕は俺が太鼓判を押すし、戦闘訓練もそこらの戦術科に負けない程度にさせている俺の秘蔵っ子だ。ついこの間保安科に囲まれてボコボコにされていたが、逆に言えば保安科の連中も囲まないとボコボコに出来ない相手ってこった」
そのシドのセリフを聞いたリィンはその両掌を組んで、目を輝かせる。
「えっ! 良いんですかシド技術長!? 僕は作業の負担になると思って航空隊の隊員募集に応募できないでいたんです!」
そのリィンの歓声を聞いたシドは、自身の刈り上げた頭をぼりぼりと掻くと「変な遠慮しやがって」とぼやいた。
「まあ、お前みたいな奴も技術科には何人か居そうだ。ユキ、悪いんだが、隊員募集のポスター余ってたら何枚か貰っていいか? 格納庫の作業掲示板に張っておいてやるよ。俺が貼れば安心して何人か応募するだろう」
ユキはシドのその答えを聞いて逆にシドに問いかける。
「私達としては願ってもない事だけど、彼ら的には問題無いの? 知っての通り航空隊の損耗率は他の比では無いよ?」
「はっ! どうせ遅かれ早かれ、みんなMAAには乗る事になると思うぜ。多分、事が落ち着いたら乗組員全員に操縦訓練させるんじゃねぇかな? 艦長は。航空隊のお前らはまだ実感が湧かないだろうが、お前らはこの前の実戦で戦争の在り方自体を変えた。それはかつて航空機が戦場に登場した時と同じようにな。この間の戦闘は公にはならないだろうが、次の戦闘は確実に後々の教科書に載るだろうぜ」
シドはそう言うと、自分の食事のトレーを持ちながら席を立つ。
「エロワ、ライネ、リィン。今日の午後は休暇を与える。所属の件は艦長に報告しておく。指示が出るまでは待機だ。多分明日にも航空隊所属になるだろう」
言いながら技術科の軍曹であるエロワ・ラプラードは後輩であるリィン・ツクバ伍長を小突いていた。
昼時の『つくば』艦内食堂である。リィンとエロワ、そしてライネ・ピエニ軍曹は連れ立って昼食を取っていた。その席でリィンは先日のクロウとのやり取りを思い出し、彼のお陰で先輩二人の分のデックスのプラモデルを入手できた経緯を説明していたのだ。
「なあ、リィンよ。確かにその場にクロウ少尉は居たが、実際には購買部のカエデのお陰じゃないかそれ」
眼鏡の鼻を押し上げながらライネの正論である。リィンは頷くが、言葉を続ける。
「縁ってあると思うんです。あの場でクロウ少尉が話しかけてくれなかったら、先輩たちの分のプラモデルは買えなかった。僕はお礼を言いたいです」
「「律儀か!!」」
エロワとライネは、そんな後輩の言葉に被せてツッコミを入れていた。
「大体考えて見ろ、相手は航空隊のエースの『つくば型』のエース様だぞ、一度話しただけのお前なんか覚えているもんか」
「違いない。技術科だけで261名だぜ? 俺らだって全員の顔と名前が一致しない事がある」
言いながら二人はそれぞれやれやれと言った様子で首を横に振っていた。
「何だお前ら、お前らも昼だったか」
言いながら3人の傍に近寄って来たのはシドである。彼らはシドの直接の部下に当たる。こうして食堂や浴場などで見かければ声を掛ける程度には彼らの仲はよかった。
シドを認めたエロワは、シドにリィンが今言った事を説明する。
「ああ、技術長。言ってやってください。リィンの野郎がクロウ少尉と会ったからお近づきになりたいとか言いやがるんですよ」
「へぇ、結構な事じゃねぇか。それの何処が悪いんだ?」
「いやいや、技術長。相手は英雄様ですよ。それに忘れられてがっかりしているコイツなんか僕たちは見たくないんで」
ライネはシドの返答に対して、エロワの言葉に補足するように続けた。
「エロワ、ライネ。何言ってるんだ? そんなことを言い出したら、俺はその英雄様と同室で、シド先輩なんて呼ばれているんだぜ? あいつだって等身大の人間だ。ここから先、あいつがどんなに有名になっても、あいつは態度を変えるような奴じゃねぇ」
そんな二人に対して、シドはそう言うと、自分の食事のトレーを3人の近くの席に置きリィンの頭にぽんぽんと手を置くとこう続けた。
「リィン、賭けてやるよ。クロウは多分お前の事覚えているぞ。もし忘れてたらこのエビフライをくれてやる。丁度よく航空隊の連中もお出ましだ」
シドの視線を追って三人が食堂の入り口を見ると、丁度航空隊の面々が食堂に入ってくる所だった。
「おーい、クロウ! こっち空いてるぞ!」
食堂に入るなりシドにそう声を掛けられて、クロウはそちらを向く。見ればシドは技術科のクルーたちと一緒に食事を取っていた。
「お、ユキさん。ラッキーですよ。シド先輩がちょうどいい所にいます」
クロウがラッキーだと語るのは先ほどまでブリーフィングルームで話していた航空隊募集の件である。
「本当だね。クロウ君悪いんだけど先にシド達の所に行ってちょっと引き留めておいてもらっていいかな? その間に君の分の食事も私達で持っていくから」
「了解です」
そう言って歩いて行こうとするクロウの背中を見送って、ミツキはエリサに声を掛ける。
「エリサ、貴女の食事は私が持っていくわ。クロウの背中をお願い」
「ええ、お姉さまそれは流石に……」
「いいから。今日は貴女が当番よ」
ミツキの言葉に遠慮しようとするエリサを押し切って、ミツキはエリサの背をクロウの方向へ押す。エリサは渋々頷くとクロウの後を追った。
「ああ、シド先輩。最近全然顔を見ていない気がしていましたよ。お疲れ様です」
クロウは言いながらそのシドの周りの面々を見回して、見知った少年が居る事に気が付いた。
「やあ、リィンだったかな? あの後無事にプラモデルは買えたかい?」
「え、ええ。クロウ少尉。お陰様です!」
それを見たシドはニヤリと笑い、エロワとライネは意外な顔をした。リィンの返答にクロウは「良かった」と返すと再びシドへ話しかける。
「ちょっと航空隊の用事でシド先輩とお話ししたいんですが、食事をご一緒しながら聞いて頂いていいですか? 今ユキさん達も来るので」
「ああ、構わねぇよ。どうせ昼休みだしな。賑やかなのも悪くない」
そのやり取りを聞いていたエロワは、クロウに問いかける。
「それなら俺達は席を外した方が良さそうですね。クロウ少尉達の邪魔になるでしょう?」
「え? いや、君たちさえ良ければ全然構わないよ。君はいつだったか4号機の調整をしてくれた人だね。改めまして、クロウ・ヒガシ少尉です。いつもお世話になっています」
言われて腰を浮かせようとしていたエロワは、クロウの顔を凝視して固まる。彼はそう言ってニッコリと笑うのだ。彼らが想像していた英雄像はそこにはない。目の前で微笑む少年は、エロワにとってもライネにとっても等身大の人間だった。
「クロウ様、立ち話も何ですから、私達も席についてお待ちしましょう」
言いながらクロウの背中から現れたエリサが、クロウの近くの椅子を引く。それを見てクロウは肩をすくめるのだ。
「エリサ。なんだか分からないけれど、そういう事はしなくていい。僕自身最近自分の戦略的価値について考える事もあるけれど、僕だってただの人間さ。女の子にそんなことをさせてると思えば恐縮もするし緊張もする」
「申し訳ありません!」
クロウの一言に身をすくませながら謝る少女に、クロウは優しくその頭に手をのせて続ける。
「だから、いいんだ。ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でもただの先輩として接してくれると僕もありがたい」
そのやり取りを眺めていたシドは後輩たちに向かって言うのだ。
「な? 普通の奴だろう?」
その一声を聞いてライネは、ズレた眼鏡を直しながらツッコミを入れた。
「いや、逆の意味で普通じゃないです」
それを聞いたシドは豪快に笑うと、クロウに向きながら言う。
「がはは、聞いたかクロウ? お前は変な奴だとさ」
今まさに椅子に座ったクロウはムッとしながらシドを睨んだ。
「とても失礼な話ですね。少なくとも僕は仮面で素顔を隠したりしていませんよ」
自分で言ってから、クロウは辺りをぐるりと見まわして、タイラーの姿がない事を確認して胸を撫でおろしていた。
「と、いう訳で、シド。協力をお願いできないかな?」
そんなやり取りの後、航空隊の面々も食事を持ってシドとクロウの周りに集まって来た。クロウの席の横からユキがこれまでの経緯をシドに説明していた。
「成程な。ライネ、今朝の進捗はどんなもんだった? 確か1号から4号までの改修はほぼ終わってたよな?」
「ええ、技術長。やはり予算があると違います。『こうべ』は途中で出港してしまいましたが、『けいはんな』の技術科クルーは未だに人員として使用できるので、武装や換装パーツの準備も含めて今のペースを維持すれば出港までには余裕で間に合う計算になりますね」
ライネは自身のリスコンを確認しながらシドに報告する。
「だな。今更数人抜けてもこっちとしては問題ない。エロワ、リィン。デックスMk-IIのVRデータとライトニングとウインドのデータの準備はどうだ?」
「はい。デックスMk-IIの訓練用VRデータ各種は昨日の段階で僕とルピナス情報長が。ライトニングとウインドのデータは、エロワパイセンが、それぞれ準備して訓練端末にインストール済みです」
シドの問いにエロワに代わってリィンが答えていた。
「ま、流石にまだ改修が終わっていない機があるのでコックピットを使用してのVR訓練は無理ですが、VR訓練室からの訓練ならもう実施できるようにはしてありますよ」
続けてエロワが補足していた。
「完璧だな。タスク通りのいい仕事だ。エロワ、ライネ、リィン。お前らには休暇をやってもいいくらいだ」
言いながらシドは隣に座っていたリィンの頭をガシガシと乱暴に撫ぜる。リィンは慌ててぐしゃぐしゃにされてしまったその銀髪を手櫛で整えていた。
「ったく、ユキよー わかってると思うが、技術科のクルーでMAAに一番乗りたいのは俺だ。だが、今俺が作業から抜けるとルピナスが泣く。それはもう間違いなく『シドにぃのバカぁあああ!!』とか言いながら泣く。流石にそれは可哀そうだから俺には出来ん」
シドはルピナスの声真似も交えながらそう言って両肩を上げて見せた。
「だから、このエロワ、ライネ、リィンを連れていけ。丁度3人だ。そっちとしても都合がいいだろう? こいつらは馬鹿だし、少しばかり悪ふざけもするが、整備の腕は俺が太鼓判を押すし、戦闘訓練もそこらの戦術科に負けない程度にさせている俺の秘蔵っ子だ。ついこの間保安科に囲まれてボコボコにされていたが、逆に言えば保安科の連中も囲まないとボコボコに出来ない相手ってこった」
そのシドのセリフを聞いたリィンはその両掌を組んで、目を輝かせる。
「えっ! 良いんですかシド技術長!? 僕は作業の負担になると思って航空隊の隊員募集に応募できないでいたんです!」
そのリィンの歓声を聞いたシドは、自身の刈り上げた頭をぼりぼりと掻くと「変な遠慮しやがって」とぼやいた。
「まあ、お前みたいな奴も技術科には何人か居そうだ。ユキ、悪いんだが、隊員募集のポスター余ってたら何枚か貰っていいか? 格納庫の作業掲示板に張っておいてやるよ。俺が貼れば安心して何人か応募するだろう」
ユキはシドのその答えを聞いて逆にシドに問いかける。
「私達としては願ってもない事だけど、彼ら的には問題無いの? 知っての通り航空隊の損耗率は他の比では無いよ?」
「はっ! どうせ遅かれ早かれ、みんなMAAには乗る事になると思うぜ。多分、事が落ち着いたら乗組員全員に操縦訓練させるんじゃねぇかな? 艦長は。航空隊のお前らはまだ実感が湧かないだろうが、お前らはこの前の実戦で戦争の在り方自体を変えた。それはかつて航空機が戦場に登場した時と同じようにな。この間の戦闘は公にはならないだろうが、次の戦闘は確実に後々の教科書に載るだろうぜ」
シドはそう言うと、自分の食事のトレーを持ちながら席を立つ。
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