強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

第１話

　事故に合った私の走馬灯は、知らない人の１４年間だった。

　その人の名前はシンディ・リーイス――彼女はリーイス伯爵家の令嬢で、侯爵令息オリドスの元婚約者。

　シンディは半月ほど前に魔法学園の成績が悪すぎるからとオリドスから婚約破棄を受けたようで、それ以前にも酷い扱いを受けていた。
　
（魔法が使える世界の令嬢……シンディは、強すぎる魔力を隠していたようね）

　私はシンディの１４年間、記憶を確認している最中に考える。
　考えていると記憶から映像と音が頭に伝わり、シンディが魔法の才能を隠していた理由を知ることができた。

　魔法学園に入学したばかりのシンディは、急激に強くなっていく魔力を制御できるのか不安になったらしい。

　目立ちたくなくて、魔力を抑えることができなければ危険視されてしまう。

　そして膨大な魔力を持っていることを知られたら、今までシンディに酷い扱いをしてきたオリドスが利用しようと目論みそう。

　それなら力を隠していた方がいいと判断したようだけど……私からすると、気にしすぎだと思ってしまう。

　シンディは膨大な魔力を隠して生活した結果、婚約破棄を言い渡されていた。

　私はシンディが婚約破棄を受けてから現在までの半月間を知って――転生した理由を知る。　

　オリドスと婚約者になる前から仲がよかった友人、グノーア伯爵家の令息ヨハンは、婚約破棄を受けたシンディを励ましていた。

　そのことを知って不快になったオリドスは、ヨハンに嫌がらせを行うようになる。
　どうやらオリドスとしては、婚約破棄を受けて傷心しているシンディを眺めているのが楽しくて、邪魔をしたヨハンが許せなかったようだ。

（それでもヨハンはシンディを気遣い、気に入らないオリドスの嫌がらせが激しくなる）

　そして……シンディは自分が消えれば、ヨハンに迷惑がかからないと思ったようだ。

　強すぎる力を隠し苦悩していたシンディは、魔法で自らの命を絶つことに成功する。

（シンディが耐え切れなくなって、魔法で自害した結果――私は転生したということね）

　どうやらシンディは魔力が強すぎるから、どんなことをしても自らの命を絶つことができなかったようだ。

　それでも諦めず行動した結果、自害する為に新たな魔法を作り出したらしい。

　別世界の魂を入れることで、シンディは自らの命を絶つことに成功した。

　現状を理解して、私は魔法についてもかなり把握することができている。

　これはシンディの記憶によるもので、彼女の１４年間を把握した私は呟く。

「ヨハンの為に命を絶つなんて……それならこの力で、守ればよかったのよ」

　シンディは普通とは違うことを拒んだようだけど、私は違う。
　魔力が強すぎるのは才能だと思うし、問題が起きてもその力で解決すればいいだけだ。

　周囲を見渡すと――私が今いる場所は屋敷の外れにある小屋で、魔法を試すことができるようだ。

　壁はかなりの強度があって防音で、魔法を試す場所として昔からあるらしい。

　シンディの記憶から、魔法の使い方も把握している。

　私は様々な魔法を使い――壁を壊さないように調整することができていた。
　これでもまだ全然シンディの力を引き出していないけど、魔法学園なら余裕で主席になれるほどの実力だ。

　私は魔法が使えているという事実に驚きながら、決めたことがある。

「シンディは苦悩して命を絶ち、私は転生することができた――こうなったら、私は私の好きにするわ」
　
　シンディの１４年間を知ったから、力になりたいと思っている。

　オリドスは不愉快だからやり返すし、シンディを想ってくれたヨハンは守ってみせる。

　そう決意して――私の、シンディ・リーイスの新しい人生がはじまった。