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6 プリの正体
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(ちっちゃな頃からカッシーさんだけが、いつも同じ場所でプリを待っていてくれました)
「――そりゃ木だから動けないだろう」
(何をしても怒らず、そよそよと穏やかに受け入れてくれました)
「――そりゃ木だから受け入れるしかないだろう」
(たまに不機嫌になるとドングリを頭に落とされました)
「……それは覚えてないし」
(とても美味しかったです)
「……食ったのか」
(でもある日、いなくなってしまいました)
「伐採――されたからな」
(プリはあの時、大切なカッシーさんを守りきれませんでした。ごめんなさい)
「バカ言うな、それこそ仕方のないことだ」
(違うの。プリがお父様の後を継げるほどの力が無かったから――あのおうちもプリの居場所もなくなってしまいました。カッシーさんの居場所を奪ったのもプリです)
「そんな大袈裟な話ではないだろう?」
(ううん、本当にそうなの。だからカッシーさんを探す旅に出ました。そして見つけました。これからいつも一緒です。それがプリのただ一つのお願いでした。神様、叶えてくれてありがとうございました)
詳しい説明は一切なかったが、嘘を言っているようには感じられない。
俺の視線の先の空に浮かぶ神様が、鷹揚にうなずいたように見えた。
(結局、盾になっていたカッシーさんは、木の時のように話し掛けて来てはくれませんでしたが、プリヘのお返事はいつも聞こえていました。それがとても嬉しかったです)
はかなげに微笑むプリのイメージに、俺の胸から込み上げるものとは逆に落ちて止まらない熱い液体がある。
木だった頃は水分を吸い上げていたはずだが、これはどんどん下へと流れて、俺の意思ではどうしようもない。
(私のために泣いてくれるのですね。カッシーさんが涙を流すなんて初めて知りました……ううん、涙を流しているのは私です。でも悲しいからじゃないです。ありがとう、カッシーさん。プリを忘れないで――)
「え、あ、プリ? 冗談はやめろ、おいっ、プリーっ‼」
胸の裡から柔らかく温かい感覚が消え始め、ぽっかりと穴が開いたような喪失感と虚脱感が俺を襲う。
誰も何も見えないにもかかわらず、求めるように俺は手を伸ばすが、欲しい手応えはもう存在しない。
神様も白い長衣を翻し、無言で姿を薄れさせた。
流れ落ちる温かいものを手のひらで受けた俺は、久し振りに泣くということを思い出した。
忘れないでなどと言われなくても、俺に生きる意志を与えたお前のことを忘れられるわけがない。
今の姿を見るたびに、小さいけれど皮の厚くなった手を握るたびに、俺はお前のことをいつも想うと約束する。
それがお前の気持ちに応えることになるのなら。
涙で顔中をグシャグシャにした俺を上から覗き込む少女がいた。心配そうなその顔には見覚えがある。
「えっと、あの、プリちゃん? どうしましたか? 水を飲んで苦しいですか?」
「スーか……」
「あれ、プリちゃんじゃない――ひよっとして、カッシーさん?」
「ああ」
この子もプリと一緒に俺へ話し掛けていた一人だ。あまり驚く様子がないのはプリが色々聞かせていたからだろう。
「プリちゃんは?」
ゆっくりと体を起こした俺に不思議そうな顔をしたスーが問い掛ける。
どう答えるのが正しいのだろうか。
単純に溺れて命を落としたか? いや、その言葉はプリが望んでいない――俺もだ。
ならば、
「一緒になった」
「ふぇ、えぇ――っ⁉」
「素っ頓狂な声を上げるな‼」
「だ、だって それって、け、結婚⁉」
「バ、バカを言うな‼」
「どうした、目が覚めたら前にも増して言葉使いが男っぽくなったな。頭でも打ったか? 心配だから触診をしてやろう」
急に大声を上げた俺達の様子見をしていたおっさんが近寄ってくると、手癖の悪さをまた出して胸を触りにきた。 俺はプリに教えられたとおり再びサラッと弾いてやった。
「うおっ! 今日はえらく痛いじゃないか! 大事にしていた盾を川底で失くしてすっかりご機嫌が悪くなったみたいだな。じゃあ、スーちゃんで」
「てめえっ、スーから離れろ!」
スーには必要ないかもしれないが、何となく嫌だった俺は更に力を込めておっさんの手を弾き飛ばした。少しおかしな方に指が曲がっていたので、骨が折れているかもしれないが自業自得だ。
周りは俺が溺れ死にかけて気が立っていると判断したらしく、その後は完全放置状態だった。
その夜、俺が寝床の準備をしていると何故かスーが体を寄せて来る。
「一緒に寝ようよ、プリちゃん」
「いやいやいや、ダメだろう‼ 俺はカッシーだ!」
「だって、女の子同士で安心できるからって、いつもこうしてたよ?」
「う、ぐっ」
「さっきは庇ってくれたのにダメ――なの?」
そんな切ない目で見ないでくれ!
生まれてこの方、女の子にこんな近づいたこともない。ましていきなり一緒に寝るなんて‼
だが拒否するなんてこともできそうにない。
「――そりゃ木だから動けないだろう」
(何をしても怒らず、そよそよと穏やかに受け入れてくれました)
「――そりゃ木だから受け入れるしかないだろう」
(たまに不機嫌になるとドングリを頭に落とされました)
「……それは覚えてないし」
(とても美味しかったです)
「……食ったのか」
(でもある日、いなくなってしまいました)
「伐採――されたからな」
(プリはあの時、大切なカッシーさんを守りきれませんでした。ごめんなさい)
「バカ言うな、それこそ仕方のないことだ」
(違うの。プリがお父様の後を継げるほどの力が無かったから――あのおうちもプリの居場所もなくなってしまいました。カッシーさんの居場所を奪ったのもプリです)
「そんな大袈裟な話ではないだろう?」
(ううん、本当にそうなの。だからカッシーさんを探す旅に出ました。そして見つけました。これからいつも一緒です。それがプリのただ一つのお願いでした。神様、叶えてくれてありがとうございました)
詳しい説明は一切なかったが、嘘を言っているようには感じられない。
俺の視線の先の空に浮かぶ神様が、鷹揚にうなずいたように見えた。
(結局、盾になっていたカッシーさんは、木の時のように話し掛けて来てはくれませんでしたが、プリヘのお返事はいつも聞こえていました。それがとても嬉しかったです)
はかなげに微笑むプリのイメージに、俺の胸から込み上げるものとは逆に落ちて止まらない熱い液体がある。
木だった頃は水分を吸い上げていたはずだが、これはどんどん下へと流れて、俺の意思ではどうしようもない。
(私のために泣いてくれるのですね。カッシーさんが涙を流すなんて初めて知りました……ううん、涙を流しているのは私です。でも悲しいからじゃないです。ありがとう、カッシーさん。プリを忘れないで――)
「え、あ、プリ? 冗談はやめろ、おいっ、プリーっ‼」
胸の裡から柔らかく温かい感覚が消え始め、ぽっかりと穴が開いたような喪失感と虚脱感が俺を襲う。
誰も何も見えないにもかかわらず、求めるように俺は手を伸ばすが、欲しい手応えはもう存在しない。
神様も白い長衣を翻し、無言で姿を薄れさせた。
流れ落ちる温かいものを手のひらで受けた俺は、久し振りに泣くということを思い出した。
忘れないでなどと言われなくても、俺に生きる意志を与えたお前のことを忘れられるわけがない。
今の姿を見るたびに、小さいけれど皮の厚くなった手を握るたびに、俺はお前のことをいつも想うと約束する。
それがお前の気持ちに応えることになるのなら。
涙で顔中をグシャグシャにした俺を上から覗き込む少女がいた。心配そうなその顔には見覚えがある。
「えっと、あの、プリちゃん? どうしましたか? 水を飲んで苦しいですか?」
「スーか……」
「あれ、プリちゃんじゃない――ひよっとして、カッシーさん?」
「ああ」
この子もプリと一緒に俺へ話し掛けていた一人だ。あまり驚く様子がないのはプリが色々聞かせていたからだろう。
「プリちゃんは?」
ゆっくりと体を起こした俺に不思議そうな顔をしたスーが問い掛ける。
どう答えるのが正しいのだろうか。
単純に溺れて命を落としたか? いや、その言葉はプリが望んでいない――俺もだ。
ならば、
「一緒になった」
「ふぇ、えぇ――っ⁉」
「素っ頓狂な声を上げるな‼」
「だ、だって それって、け、結婚⁉」
「バ、バカを言うな‼」
「どうした、目が覚めたら前にも増して言葉使いが男っぽくなったな。頭でも打ったか? 心配だから触診をしてやろう」
急に大声を上げた俺達の様子見をしていたおっさんが近寄ってくると、手癖の悪さをまた出して胸を触りにきた。 俺はプリに教えられたとおり再びサラッと弾いてやった。
「うおっ! 今日はえらく痛いじゃないか! 大事にしていた盾を川底で失くしてすっかりご機嫌が悪くなったみたいだな。じゃあ、スーちゃんで」
「てめえっ、スーから離れろ!」
スーには必要ないかもしれないが、何となく嫌だった俺は更に力を込めておっさんの手を弾き飛ばした。少しおかしな方に指が曲がっていたので、骨が折れているかもしれないが自業自得だ。
周りは俺が溺れ死にかけて気が立っていると判断したらしく、その後は完全放置状態だった。
その夜、俺が寝床の準備をしていると何故かスーが体を寄せて来る。
「一緒に寝ようよ、プリちゃん」
「いやいやいや、ダメだろう‼ 俺はカッシーだ!」
「だって、女の子同士で安心できるからって、いつもこうしてたよ?」
「う、ぐっ」
「さっきは庇ってくれたのにダメ――なの?」
そんな切ない目で見ないでくれ!
生まれてこの方、女の子にこんな近づいたこともない。ましていきなり一緒に寝るなんて‼
だが拒否するなんてこともできそうにない。
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