俺が少女プリーストに転生したのは神様のお役所仕事のせい――だけではないかもしれない

ナギノセン

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10 イチヨ騒ぎ

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 フォートレスでは、明後日から開催される祭を待ちきれない者達で宿屋は埋まっており、割高なところしか空いていなかった。俺は祭なんて全然知らなかったが、スーは宿屋の言葉に笑顔で頷いていたので、いわゆる足元を見られたとかではないと思う。
 宿で出された夕食は値段に相応して量も多く美味しかったが、俺はもともと生きる意欲も低い人間だったので食にも大して執着はなく、最後に出されたデザートのフルーツまでは手が回らなかった。

 スーは、おいしいおいしいを連呼しながら完食し、俺の分まで頬張っていた。何種類も盛られたフルーツの中で宿屋が特に勧めてきたのは、拳大くらいの実を真っ二つに割って、皿の中心に飾られたイチヨと言うものだった。 
 フォートレスで最近はやり始めたものらしく、色はきれいなピンク色だった。果肉にはキウィのような小さな黒い種が一杯入っていて、味はとても甘酸っぱかったらしい。

 クエストに出ていると、このように贅沢な食事にはそうそうありつけないので、俺達は大満足をして部屋へ戻った。明後日から祭があるなら、見物をしてから次の依頼を受けるかなどと次の予定を二人で話しながら、神様にこの体へされて始めた日記を書いていると、突然スーが腹を抱えて隣の寝台から転げ落ちた。

「おい! スー‼」
「カ、カッシーさん、熱いですぅ」

 普段は決して俺をカッシーとは呼ばない。意識が混濁しているのか、とても切迫した事態と考えられる。俺は慌ててスーを寝台へ戻し、おでこに触れると尋常ではない熱さだった。
 それから数日、スーの熱は引かず、俺はひたすら看護をすることになった。

 町の至るところ、特に病気やけがの治療を行う主な組織である教会には、似たような患者であふれかえっていた。
 フォートレス界隈で一斉に流行しているようで祭も中止になってしまった。治療ができる者が全然いないらしい。冒険者ギルドの情報では、フォレスト伯爵が仕えるシルビ公爵へ援助を要請をしたが、まだ到着していないとのことだった。

 俺は、スーのために何かできないかと彼女の状態が落ち着いている時を見計らって町へ出た。しかしこの町でもよそ者で、見知った顔などいない俺が得られる情報は、冒険者ギルドで手に入る程度の当たり障りのないものばかりだった。徒労に終わった外出に疲れた俺が宿に向かって歩き出したところ、後ろから肩を叩かれた。

「ちよっといいか?」
「あんたは――お嬢様の先生」
「マットと呼ぶように言っただろう」

 振り返ったそこには以前の紳士然とした姿ではなく、真っ黒な衣装に身を包んだオッサンがいた。

「今日は一人か?」
「スーは流行の熱で寝込んでるよ」
「何だと? お前はそれで何ともないのか?」
「ご覧のとおりさ」

 マットは俺をジロジロ見ると、スーのところへ案内しろと言った。
 顔見知りだが、おいそれと抵抗力のない女の子のところへ野郎を連れて行けるはずがないので、あっさりと拒否をさせてもらった。
 今は依頼主でもないし、丁寧な対応も必要ない。すると俺の心を読んだのだろうか、一言、熱を治す当てがあるとマットが静かに口にした。

「本当か?」
「十中、八、九な」
「どうしてそんなことができる?」
 俺はあからさまに疑いの目を向けた。
 これだけ町中が苦しんでいるということは、もともとの治療法がないということだ。それなのに知っているなんて、俺を騙そうとしていると考えるのが自然だろう。

「ずっと調べていてほぼ原因を突き止めたが、まだ確証が得られない。そこにお前とあのスカウトの話を聞いてピンと来るものがあった」
「俺達の?」
「そうだ。別にあの娘のところへ案内するのが嫌なら、話だけ聞かせてくれればいい」

 マットは近くにある食堂へ行こうとしたが、俺はスーを置いて来ているので心配だった。そこで部屋までは入れないが、俺の宿の下の食堂へ連れて行くことにした。
 マットを下で待たせて部屋へ戻り、スーの様子を確認すると顔を赤くして浅い呼吸で苦しげに眠っている。熱を測ろうと額に手を当てると、起きてもいないのに両手を添えて来て、少しだけ険しい表情が緩んだ。しばらくそうしているとスーの呼吸が落ち着いたので、俺は一度下へ降りてから、意を決してマットにスーを診せた。
 マットはスーの額や首筋へ手の甲を当てながら、この町へ来た夜について俺へ質問を始めた。

 どこで食事をして何を食べたのか。
 俺とスーで何が違ったのか。

 結果、量はともかく最後に出されたデザートを食べたか食べないかくらいの違いしか見当たらない。これを聞いたマットは満足そうにうなずくと何処かへ出かけて、再び戻って来たその手にはフォートレスで流行しているイチヨが数個持たれていた。
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