俺が少女プリーストに転生したのは神様のお役所仕事のせい――だけではないかもしれない

ナギノセン

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 山賊たちは徐々に落ち着きを取り戻し始め、俺を前後に挟んで息のあった攻撃を仕掛け始めた。よほど長い間、この腐れ稼業をやっているのだろう。
 前からの攻撃をする二人のうち一人は、他の男に比べれば鈍い。よく見たら最初に下卑た笑みで俺の体をまさぐり、散々蹴倒してくれたクソヤロウだった。
 攻撃を主に肩口や背中で受け、時には剣で返しながら、焚火の残りかすが正面になったところで立ち止まる。

 前面の二人は、まだ火と鍋が残っているので、飛び越えるか蹴り倒すか躊躇いを見せる。後ろの二人は、俺が逆に逃げ場を失ったと考えて左右から挟撃してきた。
 前後の攻撃連携を崩せた今の敵は実質二人。
 俺は右へと体を捻って一人は背中で受け、もう一人へは剣を横へ向けて真っ直ぐに突き出す。反った刃は敵の攻撃を受け流すのには向いている。交差した敵の剣がこちらの刃沿いに軌道を外され、勢いそのままに空を切った。

 目の前の相手とは距離がある。だが後ろは背中へ剣を叩きつけている真っ最中。俺は体を半回転させて、強く握った剣を叩き込む。
 しかし相手との距離は予想より遥かに近かった。刃ではなく握り付近が鈍い音をさせる。ほぼ裏拳を相手の胸に打ち込む形になってしまった。

 マズい、倒し切れなかった。

 俺はよろめく男を追いかけ、腹ヘ蹴りを入れて転倒させる。そのまま首元へ剣を突き立てて、もう一人に備えるべく態勢を整えた。
 相手は、焚き火を越えて来た二人と合流して三人に戻ってしまった。
 直ぐに対応できるよう目を凝らすが、なかなか攻撃を仕掛けて来ない。
 俺に一番最初に蹴りを入れたクソヤロウは、驚愕と怒りと憎しみで顔中が歪んでいる。さっき拳と踵でぶっ壊したお仲間と、どちらが醜いかと聞かれたら困ってしまうほどだ。

 相手の動きの中にこれまでなかった躊躇いが出始めている。
 この体の頑丈ぶりは期待以上としか言いようがない。正面の敵には何の役にも立たないことは、まだ気づいていないだろう。再び背中を見せて誘いを掛けることも考えたがやらなかった。
 八人いた山賊が三人になり、俺には攻撃が効いていないと思い込んでいる。背を向けた瞬間に逃走される可能性が出始めた。うっかり逃がして仲間に合流されたら、極めて厄介なことになってしまう。

 この睨み合いを打開する手が思いつかない。ジリジリとした気持ちに無意識で息も浅くなる。緊張に耐えられなくなった敵の一人が、なりふり構わず逃げ出した。残りの二人は驚いて顔を見合わせる。
 俺はこの機と誰一人逃がすまいと剣を振りかぶり、一番手前の男を力一杯叩き切った。残ったもう一人には目もくれず、逃げた賊を追い掛ける。
 残った一人は、無防備に横を通り過ぎようとした俺の背中へ切り掛かった。
 狙ったわけではないが、この山賊のほうが先に倒せそうだ。
 背中に剣が再び降ろされた瞬間に、俺の方からも刃を避けずに押し返す。
 想定もしない反発で山賊の剣先が思わぬ方向へ向いた。俺は慣れた動作で体を半回転させて、今後は上手く刃で胴を薙ぎ払えた。

 最後の一人。
 俺が再び駆け出そうとした目の前にスーが突然姿を現し、抱き着いてきた。

「プリちゃん‼」
「まだ敵が残ってる!」
「終わったのです」
「何?」

 スーの指差した地面には、俺の腹へ蹴り入れたクソヤロウが横たわっている。首筋には、投てき用のナイフがきれいに刺さっていた。

「――助かったよ」
「プリちゃんプリちゃんプリちゃん‼」

 大泣きのスーが俺へ体を預けたので、力を抜いてそのまま倒れ込んだ。
 さすがに疲れた。
 辺りには下衆共の血の匂いやら、決して芳しくない悪臭が立ち込めているが、今はどうでもいい。
 少し休ませて欲しい。

「大丈夫だったか?」

 俺は、まだマシな左手でスーの頭をなでてやる。スーは声が出せないようで、ただ何度も首を動かしてうなずく。
 この温もりを守れて本当によかった。しかしこのままだとまた寝てしまいそうだ。
 俺はスーを先に座らせてから、体を起こして背中の調子を確認した。
 いくら背中が強化をされていても少しは痛いし、皮膚はそこそこ切れてもいる。手の平にべっとりと血が着くが、さわるために動かした腕も肩も、骨にはさしたる痛みは感じない。

「多少の打撲と大きな切り傷が三か所か」
「もうこんなことやっちゃダメなのです‼ カッシーさんでもプリちゃんなのですっ!」

 スーが今度は背中から抱き着いてきた。

「わかったから、少し離れてくれ。血が着いて汚れるぞ」
「嫌です嫌です嫌なのですっ!」

 あー、痛い。スーの涙が傷にしみる。本当に痛い。
 体の前へ回された手に俺の手を重ねる。顔をぐしゃぐしゃにした女の子が落ち着くのを、場違いな幸福感を感じながら待ち続けた。
 東の空が徐々に白み始めている。時間は俺たちに味方をしてくれた。
 これが真夜中の出来事なら、徘徊するモンスターがやってきてもおかしくないくらい血の匂いが立ち込めていた。
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