万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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3 そんなつもりじゃなかった

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 冒険者ギルドは所属する冒険者の能力や経験に応じて職業やクラス分けをしている。依頼内容の難易度によって割り振る作業の効率化と達成率を上げるために必要な措置である。

 職業とは言うならば得意分野になる。剣が強ければ剣士、魔法に長けていれば魔法使いといったくらいの大まかなものだ。変更をしたければ多少の例外を除いていつでも可能ではあるけれど経験も積み直しになる。
 クラスはFクラスに始まって最上位はSSSになる。

 ガイルもミシェルも剣士のAクラス。いわゆる中堅と呼ばれるところにあって、ミシェルが目指しているS以上が一流と評される。
 BクラスとAクラス、AクラスとSクラス。どちらも形式上は1ランクの差ではあるが、実際は隔絶の違いがある。
 そのため上のクラスへ上がることを通常は昇級と言うが、AクラスからSクラスの場合だけ昇格と言われている。
 S以上はギルドでの待遇も変わって完全に別格扱いにもなる。

 ミシェルはSクラスになりたい。ガイルはなりたくないし、ならないように細心の注意を払ってきた。
 ミシェルが見せる怒りの原因がそこにあることをガイルは知っているのであまり強く出る気もない。それ以外に後輩の前で気の緩みがあったことを自覚して気まずさも多少あった。

 ガイルはゆっくりと右足を一歩踏み出して机の横へ体を移す。ミシェルの顔が見る見る引き攣った。先程まではそこに男二人が立っていた。
 一瞬で無力化したものの気の緩みがあったと自らを評したのはこの店での位置取りのこと。
 大した剣ではないが履いているのは左腰。万が一、言い掛かりをつけて来た男達が剣を抜いた場合、ガイルは即座に剣での対応ができなかった。
 デニスが見ていたら即説教部屋行きの大失態である。
 しばらく無言のままガイルとミシェルは向き合ったがミシェルにはガイルと争うつもりは最初からなく、ガイルも別の意図からそのつもりだった。

「ここで寝られたら酒場の迷惑になる。お仲間なら最後まで責任をもって連れて帰ってやれよ」

 ガイルは脳震盪で動かなくなった男を面倒臭そうに見た。
 もともと流れ者や荒くれ者の多い冒険者相手の酒場なので揉め事は珍しくはない。このまま放っておいてもきっと亭主が何とかするだろうけれど、二階に宿を取っているガイルとしては少し肩身が狭い。事後処理ができるに越したことはなかった。
 ミシェルは気まずそうに周囲を見回してから、気を失った仲間を肩に抱え酒場を後にした。

「すっかり気が逸れてしまったな。パメラ、さっきの話の続きはまた今度と言うことで――」

 野次馬と化していた酒場の他の客もそれぞれの席に戻っていった。すっかり一仕事を終えた気になったガイルは、腰に手を当てながら首を回して話し掛ける。
 彼の視線の先には、顔を真っ赤にして焦点の定まらない酔っ払いエルフが出来上がっていた。

 パメラが酒を飲んでいた記憶はない。ひょっとして彼の席へ来る前まで飲んでいたのかもしれないけれど、話をしている間には一切酔っている素振りはなかった。

 眉をしかめた彼は、机の上に転がる割れた酒瓶の欠片に少しだけ光る液体を発見する。
 この瓶を言い掛かりをつけた男の頭で盛大に割った時、彼女の悲鳴を聞いたような気がした。よく見たら彼女の顔も髪も少し濡れて、紅潮した頬や形の整った唇から何とも言えない色気が醸し出されている。

 飲み干したと思って机へ転がした酒瓶に酒がまだ残っていたらしい。
 彼女が異常に酒に弱いであろうことと、酔っ払わせた原因ははっきりした。
 このまま酒場に彼女を置いて部屋へ帰る選択は、彼にはとてもできなかった。

「あのー、パメラさん、今夜のお宿はどちらですか?」
「・・・・・・」
「聞こえていますか?」
「――ない」

 聞こえていないと言いたいのか、宿がないと言いたいのか。どちらか不明だけど答えに期待できないことだけはハッキリした。
 いつもはキツイほど上がっているパメラの目尻はすっかり下がり、明るい碧の瞳も焦点があっていない。体が不規則に揺れ始めていると思ったらそのまま椅子から転げ落ちそうになった。
 ガイルは慌ててパメラの体を支える。彼女は小さな寝息を立てていた。
 周囲から妙にまとわりつく視線が痛い。騒ぎが終わったと言っても、まだまだ注目の的なのは間違いなかった。
 困惑しきりの彼のもとへ料理人のような白い服を着ていながら、ガッチリした体格の男が近づいた。

「生憎二人用の部屋は一杯だ。お前さんの部屋へ連れ込むなら追加料金を頼むぜ」

 酒場兼宿屋の主人の言葉にガイルは力なく頷く。空いた左手で懐から銀貨二枚を取り出した。
 まるで酔わせてよからぬことをするような言い方には文句をつけたかったけれど、追い出されるともっと困ったことになる。それこそ気を失った美しすぎるエルフを連れて、この時間から新たな宿を見つけるために町をうろつくなんて考えたくもない。

 今借りている部屋にはベッドが一つ。
 もしパメラを泊めるとしたら彼女を床に寝かすことはできない。久しぶりのまともな宿なので、ガイルもできればベッドで寝たかったけれど叶いそうになかった。
 
 羨望と嫉妬と怨嗟が激しく混じる視線に背中がとても痛い。そんないいものじゃないとの言葉を呑み込んだガイルは、パメラを抱えて酒場から二階の階段を昇った。

 優れたレンジャーだった師の教えを固く守っている彼は、泊まる階で一番手前の部屋を取るようにしている。
 何とか取り出した鍵で開けた部屋は、当たり前のことに出た時のまま散らかり放題だった。整理がなっていない状況からも、気が抜けきっていることを彼は改めて感じさせられる。
 これまでの旅では荷物の整理整頓は必ず行っていたし、後輩にもその様に指導をしてきた。

 ガイルは、パメラをベッドの少し空いたところへ下ろしてから荷物整理を始める。とは言ってもベッドにも荷物を拡げているので、彼女の足や背中の下には彼の衣類や日用品が下敷きになってしまっていた
 そちらは後回しにして、床へ落ちた物を拾おうしてたガイルは、背負ったままのものがあったこと思い出した。

 旅の途中の野営の時には周囲の目もあるのでほとんど手入れはできないが、使うこともないので汚れも発生しない。宿屋や自分の家にいる時は手入れを怠ったことはない。
 丁寧に布袋から取り出した細身の剣を彼はじっくりと眺める。鞘は出来あいの簡素な黒檀で妙に温かく感じる。ずっと背負っていたからだろうかと、不思議に思いながらゆっくりと抜き放った片刃の刀身は、見たことのない青白さで光っていた。

「な、何が起こっている?」

 慣れない事態に一瞬だけ面食らったものの、生来の冷静さをすぐに取り戻したガイルは目を少し細めた。刀身から湯気のようなわずかに白い筋が伸びている。その行きついた先は―――パメラだった。

 得体のしれない何かに怯えたようにガイルはあわてて剣を鞘にしまった。力の加減ができなかったため、ことのほか大きな音が鳴る。パメラが身じろぎをして目を覚ましてしまった。
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