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第十一話 帰ってこんかぁい
しおりを挟む◇第三者視点
白金、颯馬、トロルさんが王都にて貴族荒らしをしていた時、王はそれを機に、反対派の貴族を一掃しようとした。
悪事は『貴族潰し』が資料として全てほうこくしてきた。それに、金持貴族として成り立っていた者達は貴族潰しが金や金目のものすべてを盗んでいったので、没落は確定していた。
「・・・宰相よ、『貴族潰し』はこちら側の人間だろうか」
王は幼い頃から共に研磨してきた宰相にそう聞きながら、執務室の椅子に座りって窓からム・ちゃでぶ伯爵家を見る。
怪物が暴れ周り、狂人を狙っていた魔法の痕跡が残っている。屋敷もボロボロになってしまっており、元金持貴族が住んでいた屋敷には思えない。
王の隣で白金が手に入れた貴族達の悪行を示した資料に目を通している宰相。
「どちらとも言えませんね。この資料だけを見ればこちら側ですが、白金貨や宝石、魔石何かはすべて盗まれていますから」
幾つもの貴族。それも資料も襲われたのも反対派ばかりだ。王族史上として仕えている者の仲間だと信じたいところだ。
「狂人の方は、かの騎士団長が敗北したとも聞いています。敵だった場合、かなり厄介ですね」
「王国最強を倒すか・・・勇者三人であいてどれるか?」
「・・・今は無理でしょう。勇者の早い成長と、狂人がこれ以上強くならなければ・・・」
「まだ敵でないだけマシだと捉えるか・・・」
「素性さえわかればいいんですけどね」
「味方に入れば、あの『巨王』も手に入るからな~なんとかならんかね」
「次きた時に、コンタクトをとれれば・・・」
颯馬とトロルさんの変装は完璧だ。白金の力と魔道具が合わさり、完全に別人となっていたので、バレることは絶対にない。王国に颯馬とトロルさんを討ちやぶるほどの強さがあり、鑑定の力があれば話は別だが。
「あと、あいつはどうした。宮廷魔導師筆頭は」
「未だ行方をくらましております」
「やつさえ帰ってきてくれれば帝国との戦いにも終止符が打てるんだがな~」
「他の宮廷魔導師の嫌がらせが酷かったですし・・・帰っては来ないと思います」
「はぁぁぁ、なぜもっと早くあいつらをクビにしなかったんだ・・・」
頭を抱え、嘆く国王。宰相も同意見だった。筆頭と、勇者、狂人が自陣の戦力に加えられれば、確実に帝国を滅ぼせる。それは確信していた。長きにわたる帝国との因縁に終止符を打つ。
筆頭か狂人か。片方手に入るだけでも戦況は傾くだろう。筆頭が筆頭であるうちにふっかけ無かったことを今後悔している。彼女はずっと宮廷魔導師筆頭であると思っていたから、準備期間としていたが、まさか宮廷魔導師を辞めると言い出すとは思ってもいなかった。
「魔導兵器の方はどうだ?」
「筆頭ほどの天才ならば起動できますが、他の宮廷魔導師では命を落とすでしょうね」
「勇者ではどうだ?」
「扱いきれないでしょう。まだ修行が足りません」
彼らの奥の手である魔導兵器は大量の魔力を使うため、余程のものでなければ扱えない。そういう意味でもやはり、筆頭はこの国の命なのだ。
「帝国の暴君にやらかされる前に何とかしたいな」
「ですね」
敵国である帝国は人間至上主義で、誘拐奴隷なんかもよく出回っている。強い騎士は人質をとって仲間に引き入れているとも聞く。ひどい国である。
「はぁぁぁ・・・。剣聖に始まり、挙句は筆頭までいなくなるとはなぁ・・・」
「戻ってきませんかねぇ」
「冒険者ギルドに人探しを頼んでみるか?」
「誰のです?」
「そりゃ、剣聖、筆頭、狂人の三組だよ」
「・・・やるだけやってみます。一人でも引っかかれば・・・」
御の字であると。
二人はすぐさま動き出し、国王は彼直属の裏組織を動かし、宰相は表から三人の強者たちを探し出す。せめて面会の機会を。それだけを願って・・・。
三人の強者を頭で思っていたのは国王と宰相だけでは無かった。
「はっ!はっ!」
騎士団の修練場で、他の団員が寮に戻った後も、ひたすらに素振りを続けるものが一人。この国の防衛におけるたった一人の要である騎士団長であった。十年も経たないうちに要である人間が二人も去ってしまった。国王は悩んだ末に勇者を呼び出したが、それもひとえに、彼の実力が及ばなかったから。二人の穴を埋められなかったのだ。
一心不乱に剣を振るう団長を心配するものも少なくない。
「団長!それ以上は体に触ります!今は休憩を――」
「いらんッ!賊一人に負けてなにが防衛の要かッ!」
今日、貴族潰しと呼ばれる『狂人』と『巨王』。そのうちの狂人に手も足も出ず、脇腹を一撃で持っていかれた。黒田家の当主、それも異世界に来てさらに強くなったのだ。彼に勝てるものがそう簡単に見つかるとは思えないが、彼はそれを知らない。彼は悔しくて仕方がなかった。剣聖と宮廷魔導師筆頭がこの国を去ってから、一人で国を守れるように研磨してきたつもりだった。それなのに―――
「俺は負けたッ!次は負けんッ!絶対にッ!」
一振り一振りに命を賭けているように見える。それは、命を削っているのではないかと思ってしまうほどの気迫、熱を感じる。
「待っていろ『貴族潰し』!次は手加減なんぞさせんぞッ!」
彼の放った一撃はあろうことか、生身である狂人の腕に阻まれ、目にも留まらぬ速さでき脇を素手で吹き飛ばされた。赤い瞳には自分はどう写っていたのだろうか。自分は『騎士団長』として見られていたのだろうか。それとも雑多の一人だったのだろうか。それが気になってしまう。脇腹を抉られた程度で眠っていてはいけない。そんな余裕はないのだ。
必死に剣を振るう。
他の団員からは彼の狂気は『狂人』よりも強くみえた。今までは怪物だと思っていたが、今は強すぎる化け物だ。
彼の変化はそれだけではない。
今日の敗北を皮切りに、王城の宝物庫から王に許可を得て戴いた『大剣』を使うようになったのだ。今までは盾なしの片手剣だった。のだが、今は、過去の勇者以外持つことさえ出来なかった超重の大剣を振るっている。もちろん昨日までの団長では持てなかったものだ。それを今は軽々と。
「帝国だろうが、貴族潰しだろうが・・・!王国の敵は俺が潰すッ!必ずッ!」
この騎士団長の変貌は国に仕えてる者には一瞬で広まった。
今まで辛く厳しかった騎士団の修練も、今は殆どが自由鍛錬。騎士団長は自分の修行しかしていないのだ。
だが、団員が怠けることは無い。騎士団長の気迫が凄まじいからだ。強く、逞しい騎士団に憧れ、入団した彼らはむしろ、強い団長に追いつくため、同じく剣を振るった。騎士団長と同じ修練を同じだけ行う。それが彼らにとって最もハードな修練。それを毎日続けたのだ。
騎士団全体のレベルが凄まじい勢いで上がっていったことは語るに及ばないだろう。
「はぁ・・・剣聖に、宮廷魔導師筆頭・・・それから貴族潰しの狂人か・・・」
冒険者ギルドを束ねる長。
王都のギルドマスターは大陸の中で、最も権力あるギルドマスターである。屈強な男で、元SSランク冒険者でもある。
冒険者ギルドは、国と同等の力を持っている。ゆえに、彼は一国の王に歯向かうことのできる数少ない人員でもある。
そんな彼が見ているのは一枚の上等な紙。
「人探しねぇ・・・。こんな大物がいまさら見つかるとは思えねぇんだが・・・」
何年も前に旅立ったと聞いている剣聖と筆頭。そして最新の民間の英雄である『貴族潰し』の狂人。
剣聖と筆頭が消えたのはだいぶ前だ。今では他の国に行ってるか、山篭りでもしてるだろう。あのふたりは束縛を嫌うと言われている・・・。
狂人に至っては完全に化物だ。本人は煙のように消えるって言うし、気付かぬうちに腕が飛ばされてるとかってのも聞く。それに、彼の見立てでは貴族潰しは三人以上いる。狂人、巨王、それともう1人はいるはすだ。暗殺系の力を持っている。狂人と巨王が暴れている間に貴族の屋敷はもぬけの殻。誰にも気付かれずに、中を荒らしてる人間がいるはずなんだ。・・・そんなことが可能なのかは分からないようだが。
「化物か・・・はっ・・・やってらんねぇな・・・」
たまには彼も前線で戦いたい。その想いが、貴族潰しの話を聞いてからどんどんどんどんと膨れ上がってくる。彼とて元SSランクの冒険者。やはり、強者との一戦は胸高鳴るものなのだ。
「戦いてぇ・・・こんな執務作業なんてやってられっかよ・・・」
ここ数年、雑魚しかいない冒険者ギルドは舐められてきた。SSSランクの冒険者がいないことは無いが、彼らは自由すぎる。アテにすることの方が間違ってると言われるほどだ。
雑魚ばっかりのおかげで、最近は戦闘意欲はわかなかったが、『貴族潰し』、彼らならば自分の欲を満たせそうだと思った。その欲は日を追うごとに、高まっていく。
それを後押しするのがもう一つ。
彼は一ヶ月ほど前だっただろうか、ギルド内で騒ぎを起こしたパーティーのことを思い出す。たった一人で上位パーティーをひねり潰し、あろうことか、自分にまで殺気を送ってきた男だ。殺気を向けられた瞬間に、本能的死を感じた。平伏して、すぐにでも逃げ帰りたいほどの強さだった。
その者と次こそは勝負を挑みたい。
そして、完膚なきまでに叩きのめされたかった。増長した自分にもう一度戦場というものを感じさせてくれる気がしたからだ。
「最近は騎士団長もやばくなったって聞くし・・・楽しぃねぇ・・・王国は最強になりつつあるぜ・・・」
不敵な笑みをこぼす。
まだ見ぬ強敵たち、顔見知りの化物たちを頭の中で思い浮かべ、一人笑う。戦闘狂としての1面がはっきりと見えた。
「そうと決まれば、早速修行だ。なまった体を叩き起こそうッ!」
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