鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する8(過去編①)

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正太郎は、朱丸はおそらくその逃げた子鬼の孫くらいなのだろうと思った。鬼は長寿だと聞く。
もし、本当に朱丸が鬼なら、角や牙があるはず。今のところ見かけたことはないが。
まだ子鬼であるがゆえに、角も牙も小さく見えにくいだけの可能性もある。

 会合からの帰り、正太郎は、小太郎と遊ぶ朱丸を見かけた。
「ちょっと便所行ってくる」
小太郎が離れ、一人きりになった朱丸を、後ろから羽交い締めにした。
「お、おじちゃん?」
朱丸が暴れると、正太郎は朱丸の口を塞ぎ、人気のない方へと引っ張っていった。
「な、何するの?」
頭の手ぬぐいを取り、頭を撫で回す。
「や、やめてよ」
朱丸は、正太郎がふざけているのだと思った。
「角…あるな…」
正太郎がポツリと呟くと、朱丸は目を大きく見開き、両手で頭を押さえて蹲った。
その行動で、朱丸が鬼であると確信した。
「まだ小さい。だから隠せていたんだな。それから…」
正太郎は朱丸の口を無理矢理開くと、牙を見る。
「小さいが、牙もあるな。ああ、よく見ると、耳も尖っている」
「あ…ああ…」
顔をあちこち触っていた正太郎が気がつくと、朱丸は涙を流しながら、絶望したような声を出した。
正太郎は、今さらながら小さな子どもに何をしているんだと、自分を恥じた。
「すまん。怖がらせてしまったな」
「オ、オイラ、人間を食べたりしないよ? おじちゃん、オイラが人間に悪さしないか心配だったんでしょ?」
朱丸が震えながら言った。
「母ちゃんたちだって、人間に悪さしたことなんかない。今はオイラ達は、静かに暮らしているんだ」
それから、朱丸は、申し訳なさそうに呟く。
「ただ、オイラは、小太郎と遊びたかっただけで…」
正太郎は「そうか」と言うと、朱丸の頭を優しく撫でた。

そこに小太郎がやってきた。
「父ちゃん? 朱丸?」
朱丸の涙と、落ちている手ぬぐい。乱れた髪。
小太郎は頭に血が昇った。
「何したんだ? 朱丸になにしたんだよ⁉︎」
朱丸の体を抱きしめて、父を睨む。
「小太郎…」
「なんだよ⁉︎」
「その子は鬼だろう? もう会わない方がいい。父ちゃん、朱丸が鬼だったって誰にも言わないから、朱丸は今まで通り、自分の村で静かに暮らしなさい」
「…そっか…バレちゃったんだ…」
小太郎は寂しそうに呟いた。
「村長が疑っている。村のみんなを守りたいなら、山から出ないことだ」
父の言葉に小太郎は頷く。朱丸も、わかったと小さく呟いた。
自分のわがままで、村のみんなを危険に晒すわけにいかない。
それはわかっているが、朱丸は、小太郎と離れるのがいやだった。
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