鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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少年は桃太郎と対峙する9(過去編①)

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朱丸を村の結界の近くまで送った小太郎。
「じゃあな…」
帰ろうと背を向けると、朱丸が背中に抱きついてきた。
「朱丸?」
「イヤ…だ…小太郎…。お別れ…したくない…」
涙混じりの声で話す朱丸。
「オイラ、小太郎が大好き。ずっと一緒にいたい」
小太郎はため息をついた。
「あのさ」
小太郎は朱丸の目を見た。
「もう村には来ない方がいいけど、オレがこの森に遊びに来ればいい」
「え?」
「父ちゃんにはもう会うなって言われたけど、そんなのイヤだ。だから、これからはオレが会いにくる」
朱丸はパアッと笑顔になり、小太郎に抱きついた。

 朱丸が自分の村へ帰り、母に小太郎の父にバレた事、それでも朱丸の事を黙っておくと約束してくれた事を話した。
「もう村へ行ってはダメ。これからは結界の中で過ごしなさい」
「わかった。村へは行かない。でも、山の中で遊ぶのは許してよ」
「何を言っているの? 近いうちにここを捨てて、よそへ移るのよ。人間にバレてしまったのだから」
「でも、小太郎の父ちゃん言わないって…」
母は悲しそうに朱丸を抱きしめた。
「母ちゃん?」
「人間はね。平気でウソをつくの…」
「そんな…」
朱丸は、前に祖父から、母が昔、人間に恋をして、裏切られた事があったと聞いたのを思い出した。その後、朱丸の父と結婚して朱丸を産んだと。
「でもね、母ちゃん。オイラ、離れたくない子がいる。その子の事好きなんだ。約束したんだ、山の中で一緒に遊ぶって」
母は複雑そうな表情をして、息を吐いた。
「その子人間なのよね?」
「うん」
朱丸は、母が心配する理由が、一つではない事に気づいていた。
桃太郎の子孫が探しにくるかもしれない事。朱丸がその人間に裏切られて傷つくのではないかと言う事。

鬼は基本同じ種族と結婚する。だが、人間と結婚した鬼もいた。
鬼は愛した者に情が深く、好きになると一途にその者だけを追い求める。それゆえに、鬼の一族は兄弟が多い。ただ朱丸の父は、朱丸が産まれて間もなく、食料調達に行った後亡くなった。おそらく、桃太郎一族にやられたのだと、その傷を見た祖父は言った。
だから、朱丸は一人っ子だった。

「その子と過ごさせてあげなさい。愛した者と別れることは、鬼にとって角を折られるくらい辛いことじゃ。そのオナゴがよほど好きなのじゃな…」
祖父が言った。
(女の子じゃないんだけど。それにオイラは恋とか愛とかまだよくわからない。ただ、小太郎が一番好きって事だけ…)
「しかし、来週にはここを移るぞ」
朱丸は頷いた。
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