鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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旅立ち9(過去編②)

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「う…」
小太郎が目を覚ました場所は、牢屋の中だった。
《小太郎大丈夫?》
『朱丸』
朱丸が話しかけてきた。小太郎は頭の中で会話する。
「ぐっ!」
胸の辺りに痛みが走る。
「痛って…」
《破鬼の剣で斬られたんだ。小太郎はまだ鬼と人間の中間だって。心臓を狙ってきたけど、オイラが位置をずらしたから、即死は免れたよ》
『そんな器用な事できるんだ?』
《オイラもできると思わなかったけど、切羽詰まって動いたらできた》
「ハアッ…ハアッ…」
小太郎は胸を押さえて、蹲った。
《小太郎…》
『気絶してる間に、怪我を治してたみたいだ。まだ完全には塞がってないけど』
《どうりで、苦しいと思ったよ。妖力が減ってるんだ》
「苦し…心臓痛い…うっ…く」
小太郎は床の上に倒れ震えた。
「どうした? 大丈夫か?」
牢屋を見張る兵士が覗きこんだ。
「痛い…う…あ…助けて…」
苦しそうに呻く小太郎を、兵士は見過ごせず、カギを開けた。
兵士は小太郎を抱きかかえるとオロオロしだした。
「どうしよう」
小太郎が首に手を置く。首輪に気づいた兵士はそれを外した。
鬼は外せなくても、人間なら外せるようだ。
「大丈夫?」
「苦し…うう…」
朱丸は兵士が腕に少し傷を負っていて包帯から軽く血が滲んでいるのに気づく。
《小太郎…その兵士の血を…少し舐めて》
『え?でも…』
人間の血を舐めるなんて、抵抗があった。
「ゲホゲホッ…ぐっ!」
《限界だよ…このままじゃ…ハアッ…妖力切れで死ぬよ》
小太郎は兵士の血を舐めた。
すると力がみなぎり、思わず兵士の腕を噛んでしまった。
「痛い‼︎」
気がつくと、兵士は腕を押さえてこちらを睨んでいた。
無意識に腕を噛んだことに、小太郎は動揺した。
「ごめんなさい…オレ…」
「鬼…」
「え?」
「やっぱり鬼なんだな。桃寿郎様が言った通り…牙が刺さった」
「オレに牙?」
自分の口を触ると牙らしいものがあった。
「オレ…」
《小太郎。ショック受けてるとこ悪いけど、逃げないと》
小太郎は兵士の腹を殴って、彼が怯んだ隙に逃げ出した。
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