鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

文字の大きさ
上 下
41 / 59

旅立ち12(過去編②)

しおりを挟む
気がつくと、また牢屋にいた。
「あれ?オレ…」
《小太郎。惜しかったね。もう少しで、桃太郎の子孫も部下たちも、いっぺんにやっつけられたのに》
『え? 何があった?』
《覚えてないの? 小太郎あのおじさんの血舐めて、襲い掛かったら、角も生えて鬼化してさ。強かったよ》
「え? オレが…」
《小太郎…?》
「う…オレ…そんな…。人を傷つけて…鬼になったなんて」
《小太郎…今さら…》
「う…グスッ…ごめんなさい。ごめんなさい…」
《……》
小太郎は涙を流して、ひたすら謝罪の言葉を口にした。
《いつまで泣いてるのさ》
小太郎が泣き止まないので、朱丸は呆れていた。
『だって…』
《ここから早く逃げようよ》
『…いやだ。オレ、もういい。もう…桃寿郎に討伐される』
《はあ!?》
朱丸は小太郎の言葉に怒った。
《何言ってんの?》
『だって、オレ人を襲うなんて…。それだけは絶対しないようにしようと思っていたのに。鬼になっても人間の心だけは失くさないでいたかったのに』
《小太郎…》
「オレ…う…グスッ…」
そこに、先程犬養と呼ばれていた少年が、牢屋の外から声をかけてきた。
「子鬼くん。破鬼の剣のお清めが終わるまで、約3日。その間、最後にしたいことあれば叶えてあげよう」
「いいです。ほって置いてください。う…グス」
「…子鬼くん…名前なんていうの?」
「う…名前なんて知って、どうするんですか?」
「君と仲良くなりたいなって…」
「どうせ死ぬのに…」
「……」
犬養は悲しそうに息を吐く。小太郎は辛そうに呟いた。
「あの…一つだけ教えてください…」
「なに?」
「オレが攻撃しちゃった人、大丈夫ですか?」
「ああ…。熱を出して苦しそうだったけど、薬を飲ませたから大丈夫そうだよ。君が噛んだ傷は治るのかな?」
「…人を噛んだりしたの、初めてだから」
「そっか。まあ死にはしないだろうって、軍医も言ってたし」
「…そう…ですか」
小太郎は少し安堵した表情を見せた。
「…敵を心配するんだ? 君って鬼らしくないね」
「…優しい鬼だって…います」
「そう…かもね」
小太郎は犬養に背中を向けた。
「もういいでしょ? 行ってくださいよ」
「子鬼くん。僕ね、弟がいたんだ」
「……そうですか」
「7歳で死んじゃったんだよ。胸の病気で」
「……」
「君…何歳?」
「7歳…」
「そっか。やっぱり、同じくらいの歳かなって思ってさ。弟と重ねて見ちゃったんだ。君がもし人間だったら…」
小太郎は犬養を見た。少し涙を溜めた目をしていた。
「これから死ぬ人間…いや鬼に、同情なんかしないでください」
小太郎は布団にくるまった。
朱丸が頭の中で話しかけてきた。
《小太郎。あのね、オイラ…生きたいよ。小太郎と一緒に生きたいんだ。お願いだから、生きる方を選んで…》
『朱丸』
《小太郎の中から出れなくても、一緒にいたいんだ。小太郎の心臓が止まった時願った。小太郎と生きること…。オイラのたった一つの願い、叶えてよ》
『…朱丸…。うん。そうだよな。ごめんな…。オレが死んだら、朱丸も死ぬんだよな…』
小太郎は涙を流した。
しおりを挟む

処理中です...