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3話:ぼくが運命に抗う理由
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「アオ、もういい加減認めて? これが運命だってーー」
「は……る……」
どうしてそんな台詞が、こんなにもサマになるんだろう。
もしぼくが同じ台詞を吐いてしまったら、絶対に相手は吹き出してしまうような言葉。
なのに、息が詰まりそうになるくらいドキドキさせられてしまっている。
「去年告白したとき、どうしていいかわかんないって言ってたよね。俺、嫌われるのも覚悟してたから、それだけでも嬉しかった」
「……嫌いになんか……。だってーーハルは」
「親友、だから?」
去年の七夕。
ハルイチに告白されてから、ずっと”ある疑問”がぼくの中で渦巻いている。
(よりによって、なんで……”ぼく”なんだよ)
だって、ハルイチは本当にすごいやつなのだ。
さっき家族が言ってくれたことなんて、ぼくが世界の誰よりも一番わかってる。
イケメンな上に、イケボだし、背も高くて、笑顔がかっこよくて、勉強できて、2年で陸上部のエースになるくらいスポーツできて、その上で性格もよくて、優しくて、世話好きで、料理もできて、お菓子も作れて、毎朝起こしてくれて、他の同級生からも、先生からも信頼されて、次期生徒会長最有力だなんて持て囃されて、女の子からもモテモテで……まさに欠点がないことが逆に欠点としか言いようがないやつで……並べてたらムカついてきたけど……小学生の頃から、何度ハルイチ目当ての女の子に仲介係を頼まれてきたことか。
そのたびに羨んできたけど、一向にハルイチは誰かと付き合おうとする気配がなくて、謎すぎるとは思っていた。
選び放題すぎて理想が高いのかな、だとすればそれが唯一の欠点だなーーなんて間抜けなことを思っていた。
だけど、違った。
そんな完璧な人間の、唯一とも思える欠点が「ぼく」だったんだーーぼくなんかを、好きになってしまったことだ。
親友としてとなりを歩いているときには、そんなことを意識したことはなかった。
一緒にいて楽しくて、居心地が良くて、隣でばかみたいな話題で笑いあえて、ハルイチも同じように思ってくれているのが言葉にしなくても伝わって、思い出をほか人の何十倍も共有してる自慢の親友ーーその相手がハルイチで、誇らしい気持ちしかなかった。
なのに、あの日の告白で、すべてがガラリと変わってしまった。
『い、いつからだよ……ぼくのことそんなふうに』
『生まれたときから』
『……はぁ?』
『嘘じゃない。アオのこと好きになったのは、運命でしかないと思う。最初から、そうなるようにできてたとしか思えないんだよ。遺伝子レベルで』
あの日の言葉が、脳裏にリフレインする。
それに応えるように、ぼくはどうにか眼の前のハルイチに向かって言葉を紡いだ。
「ぼくは……運命に支配されたくない。ハルのそれは恋じゃなくて、刷り込みなんだよ」
だってぼくは、生まれてからずっとハルイチの隣で生きてきただけなのにーーハルイチから、そんなふうに思ってもらえる資格がどこにあるというのか。
「ハルイチの好意」そのものを疑っているわけじゃない。
ただハルイチは生まれたときから隣にいすぎて、それを恋心なのだと「勘違い」しているだけだ。
信じられないのは、ハルイチじゃない。
ぼく自身のほうだ。
「……先週、北園さんから告られてたらしいじゃん。付き合ってみた方がいいって。もったいないよ。あんな学校で一番かわいいーー」
「俺は、アオ以外なにもいらない」
きっぱりと言い放つ淀みのない声が、いやじゃない自分が、いちばんいやだ。
いつものハルイチのはずなのに、ハルイチじゃない存在みたいに思えてくる。
(卑怯だろ……そんなん)
ハルイチが、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「アオが、本当に俺のこと無理なら……気持ち悪いなら、諦めようって思ってた。それなら、はっきり言って。俺はアオの前から消えるから」
「……聞き方ずりぃぞ……この策士」
ぼくがそんなふうに思ってないって、もうわかってくるくせに。
「……ごめん。でも俺も……必死だから」
ハルイチが、自分の日常からいなくなる。
そんなことを想像するだけで喉の奥が震えて泣きだしそうになってしまう自分が、心底いやだ。
(このまま、受け入れたら……この気持ちは楽になる?)
でも、違う。
ぼくは、ほしいおもちゃをひとつに選べず、棚の前で延々と迷っているだけの、子どもと同じだ。
きっと違うんだ。そんなものはーー恋じゃない。
もし、二人のあいだに運命めいた縁があるとしても、ハルイチには、ハルイチがもっているたくさんの魅力で、それよりもっとたくさんの可能性に巡り会えるはずなのだ。
「アオ……」
本当にもう少しで、唇が触れ合ってしまいそうな距離にハルイチの顔があった。
ヤバい。ヤバい。ヤバいーー!
「ーーーーっ!!」
ゴッッ
「あ……っっ」
「……いって」
どうしていいか、わからなくなりすぎてしまった。
反射的に起き上がろうとした勢いで、ぼくはハルイチに頭突きをかましてしまっていた。
鈍い音がして、ぼくもおでこを押さえながら涙目になる。
見ると、ハルイチの唇から、うっすら血が滲んでいる。
ああ、やってしまったーーと思った刹那、ハルイチが唇の血を舐め取った。その仕草が、なぜかやけに艶っぽく見えてしまって、ぼくの鼓動がドキンと強く早鐘を打ち始め、ぐっと締めつけられる。
「……い、イケメン使ってなし崩しにしようとすんじゃねー!」
こうなると、そんな感情をごまかすためにも虚勢を張るしかない。
「あ、謝らないからな! 悪いのはハルだから」
「ううん、アオがかわいすぎるのが悪い」
なにがそんなに嬉しいのか、迷いも怒りもない爽やかな笑みをにこりと浮かべる。
悪いと言いながら、責めるような調子は一切ない。
「ん……んなわけあるかぁっ!」
ぼくはベッドからしゃかしゃかと這い降りると、ドアの前でハルイチに向かってぴっと指さした。
「今年の願い事変える! ぼくは……153センチのかわいい彼女つかまえてやるからな!」
いーっと捨て台詞を吐いて、ぼくはそのままハルイチの部屋を飛び出した。
「は……る……」
どうしてそんな台詞が、こんなにもサマになるんだろう。
もしぼくが同じ台詞を吐いてしまったら、絶対に相手は吹き出してしまうような言葉。
なのに、息が詰まりそうになるくらいドキドキさせられてしまっている。
「去年告白したとき、どうしていいかわかんないって言ってたよね。俺、嫌われるのも覚悟してたから、それだけでも嬉しかった」
「……嫌いになんか……。だってーーハルは」
「親友、だから?」
去年の七夕。
ハルイチに告白されてから、ずっと”ある疑問”がぼくの中で渦巻いている。
(よりによって、なんで……”ぼく”なんだよ)
だって、ハルイチは本当にすごいやつなのだ。
さっき家族が言ってくれたことなんて、ぼくが世界の誰よりも一番わかってる。
イケメンな上に、イケボだし、背も高くて、笑顔がかっこよくて、勉強できて、2年で陸上部のエースになるくらいスポーツできて、その上で性格もよくて、優しくて、世話好きで、料理もできて、お菓子も作れて、毎朝起こしてくれて、他の同級生からも、先生からも信頼されて、次期生徒会長最有力だなんて持て囃されて、女の子からもモテモテで……まさに欠点がないことが逆に欠点としか言いようがないやつで……並べてたらムカついてきたけど……小学生の頃から、何度ハルイチ目当ての女の子に仲介係を頼まれてきたことか。
そのたびに羨んできたけど、一向にハルイチは誰かと付き合おうとする気配がなくて、謎すぎるとは思っていた。
選び放題すぎて理想が高いのかな、だとすればそれが唯一の欠点だなーーなんて間抜けなことを思っていた。
だけど、違った。
そんな完璧な人間の、唯一とも思える欠点が「ぼく」だったんだーーぼくなんかを、好きになってしまったことだ。
親友としてとなりを歩いているときには、そんなことを意識したことはなかった。
一緒にいて楽しくて、居心地が良くて、隣でばかみたいな話題で笑いあえて、ハルイチも同じように思ってくれているのが言葉にしなくても伝わって、思い出をほか人の何十倍も共有してる自慢の親友ーーその相手がハルイチで、誇らしい気持ちしかなかった。
なのに、あの日の告白で、すべてがガラリと変わってしまった。
『い、いつからだよ……ぼくのことそんなふうに』
『生まれたときから』
『……はぁ?』
『嘘じゃない。アオのこと好きになったのは、運命でしかないと思う。最初から、そうなるようにできてたとしか思えないんだよ。遺伝子レベルで』
あの日の言葉が、脳裏にリフレインする。
それに応えるように、ぼくはどうにか眼の前のハルイチに向かって言葉を紡いだ。
「ぼくは……運命に支配されたくない。ハルのそれは恋じゃなくて、刷り込みなんだよ」
だってぼくは、生まれてからずっとハルイチの隣で生きてきただけなのにーーハルイチから、そんなふうに思ってもらえる資格がどこにあるというのか。
「ハルイチの好意」そのものを疑っているわけじゃない。
ただハルイチは生まれたときから隣にいすぎて、それを恋心なのだと「勘違い」しているだけだ。
信じられないのは、ハルイチじゃない。
ぼく自身のほうだ。
「……先週、北園さんから告られてたらしいじゃん。付き合ってみた方がいいって。もったいないよ。あんな学校で一番かわいいーー」
「俺は、アオ以外なにもいらない」
きっぱりと言い放つ淀みのない声が、いやじゃない自分が、いちばんいやだ。
いつものハルイチのはずなのに、ハルイチじゃない存在みたいに思えてくる。
(卑怯だろ……そんなん)
ハルイチが、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「アオが、本当に俺のこと無理なら……気持ち悪いなら、諦めようって思ってた。それなら、はっきり言って。俺はアオの前から消えるから」
「……聞き方ずりぃぞ……この策士」
ぼくがそんなふうに思ってないって、もうわかってくるくせに。
「……ごめん。でも俺も……必死だから」
ハルイチが、自分の日常からいなくなる。
そんなことを想像するだけで喉の奥が震えて泣きだしそうになってしまう自分が、心底いやだ。
(このまま、受け入れたら……この気持ちは楽になる?)
でも、違う。
ぼくは、ほしいおもちゃをひとつに選べず、棚の前で延々と迷っているだけの、子どもと同じだ。
きっと違うんだ。そんなものはーー恋じゃない。
もし、二人のあいだに運命めいた縁があるとしても、ハルイチには、ハルイチがもっているたくさんの魅力で、それよりもっとたくさんの可能性に巡り会えるはずなのだ。
「アオ……」
本当にもう少しで、唇が触れ合ってしまいそうな距離にハルイチの顔があった。
ヤバい。ヤバい。ヤバいーー!
「ーーーーっ!!」
ゴッッ
「あ……っっ」
「……いって」
どうしていいか、わからなくなりすぎてしまった。
反射的に起き上がろうとした勢いで、ぼくはハルイチに頭突きをかましてしまっていた。
鈍い音がして、ぼくもおでこを押さえながら涙目になる。
見ると、ハルイチの唇から、うっすら血が滲んでいる。
ああ、やってしまったーーと思った刹那、ハルイチが唇の血を舐め取った。その仕草が、なぜかやけに艶っぽく見えてしまって、ぼくの鼓動がドキンと強く早鐘を打ち始め、ぐっと締めつけられる。
「……い、イケメン使ってなし崩しにしようとすんじゃねー!」
こうなると、そんな感情をごまかすためにも虚勢を張るしかない。
「あ、謝らないからな! 悪いのはハルだから」
「ううん、アオがかわいすぎるのが悪い」
なにがそんなに嬉しいのか、迷いも怒りもない爽やかな笑みをにこりと浮かべる。
悪いと言いながら、責めるような調子は一切ない。
「ん……んなわけあるかぁっ!」
ぼくはベッドからしゃかしゃかと這い降りると、ドアの前でハルイチに向かってぴっと指さした。
「今年の願い事変える! ぼくは……153センチのかわいい彼女つかまえてやるからな!」
いーっと捨て台詞を吐いて、ぼくはそのままハルイチの部屋を飛び出した。
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