桜の窓辺で。

ましゅまろくっきー

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第1話 『教室と病室のあいだで』伊織side

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伊織が教室に顔を出すのは、約2週間ぶりだった。
病院に外出届を出して、午後の授業だけ出る。そういう「顔見せ登校」は、もう何度目だろう。

咲希が付き添いで送ってくれた道すがら、伊織はずっと窓の外を見ていた。

「学校、緊張する?」

咲希が運転しながら聞く。

「うん……でも、ちょっと楽しみ」

「うん、伊織ちゃんらしいね。……ちゃんと、〝具合わるい〟って言ってもいいんだよ?」

「大丈夫だよ。……たぶん」

その〝たぶん〟に、咲希は小さくため息をついた。


校門の前で、咲希はそっと手を振った。

「じゃ、無理しないでね」

「ありがとう、咲希さん」

伊織は、少しだけ心細そうに校舎を見上げた。


教室のドアを開けると、黒板の前で話していた美城先生が伊織に気付いた。

「……伊織ちゃん!きてくれたんだね」

「あ、はい……午後からだけ」

クラスに何人かが振り返る。
でも、その視線は、どこか気まずそうだったり、遠慮がちだったりする。
伊織は慣れていた。悪気がないのも分かっている。でも、それでも少しだけ、心が静かに沈んだ。
美城先生が笑顔で席まで案内してくれる。

「今日はね、無理しないで。疲れたらすぐ言ってね。……うちの保健室より、桜病院のほうがサービスいいかもしれないけど」

「ふふ……はい」

それだけで、伊織の肩の力が少し抜けた。


放課後、家のリビングには、母の姿があった。

「今日は……学校行ってきたの?」

「うん。午後だけ学校に行ってきた」

「……あのね、伊織」

母はふと、テレビっを消してこちらを向いた。

「最近、本当にちょっと元気そうに見えるの。だからそろそろ、普通に通えるように考えてもいいんじゃないかって……」

「……無理だよ」

伊織の声は小さかったけれど、はっきりしていた。

「朝から通うのも、体育も、通学路を歩くのも……無理なの。……たぶん、できない」

母はわたしの病気を理解してない。

「……〝たぶん〟じゃなくて。無理って決めつけるの、良くないよ」

「ちがう。私が……〝ちょっと元気そう〟に見えるのは、無理してるからだよ」

伊織は言ったあと、はっとして口を閉じた。
自分の声が、少し怒っていたことに気づいた。

母は少し黙ってから、立ち上がった。

「無理しないでよ」

足音が遠ざかっていく。

リビングに一人残った伊織は、テーブルのうえにあった小さなメモに目をやった。

《おかえり!おねえちゃんが学校いったってきいたよ!すごいね!こはねより》

可愛いシールが貼ってあって、字がつたない。しかも、〝ね〟の文字逆になってるし…笑
小羽音だけは、何も求めず、ただ「がんばったね」って言ってくれる。
伊織はそっと笑って病院に戻った。


夜。病室のカーテンの向こうから、美羽の声がした。

「学校、どうだった?」

「……まぁまぁ。美城先生が笑ってくれたから、助かった」

「そっか。……それだけでも、今日は花マルでしょ」

伊織は黙って、窓に目をやった。

桜の花はまだ咲かない。

でもいつか咲くと、信じている。
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