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第2話『わたしが笑う理由』美羽side
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朝。
いつもと同じ天井を見上げながら、私は少しだけ体を横に向けた。
向かいのベッドは、空になっている。
今日も伊織は学校に行ったのだ。
「……真面目だなぁ、伊織は」
そう呟いて、ふっと笑う。
私は今日、少し熱が高かった。
行こうと思えば行けたかもしれない。でも、無理に動く気にはなれなかった。
理由は、めんどくさいからーーー
なんて言ったら、きっと咲希に怒られる。
「体調管理は自己責任だぞーってね」
ひとりごとを言って、ベッド横のノートに手を伸ばした。
美羽のノートには、日記のようなことが書いてある。
でみ、それは自分のためというより、たぶん未来の〝誰か〟のため。
《今日も伊織は学校へ。
えらいなぁ、あの子は。ちゃんと笑って、ちゃんと我慢して。
……たまには我慢しなくていいのにね》
ノートにそう書きかけて、手を止める。
わたしも、我慢してないわけじゃない。
でも、わたしの「大丈夫」よりも、伊織の「平気だよ」はたぶん、少しだけ嘘が濃い。
昼過ぎ、咲希が部屋にやってきた。
「美羽ちゃん、ちょっと熱下がってきたよ。午後、院内学級行ってみる?」
「んー、どうしようかな……。だるいし、めんどくさいし、あと5分あまやかして」
「しょうがないなぁ」
咲希は笑って、美羽の額に冷たいタオルをそっと置いた。
「伊織ちゃん、今日も頑張ってたよ。美城先生のとこに顔出しに行くって」
「……あの子、ほんと無理してるんじゃないかな。平気なふりするの上手だから」
咲希は少しだけ黙って、美羽の手を取った。
「……ねぇ、咲希さん」
「ん?」
「もし……もしだよ。わたしとか伊織がさ、ずっとこのままだったら、どう思う?」
「このままって?」
「退院できないまま、ずっと病院で過ごすみたいな」
その言葉に、咲希の目がほんの少し揺れた。
「……それでも、〝その子の一日が笑って終わるなら〟って私は思うよ。
退院しても、しなくても、生きてる今日が大事でしょ?」
「それ、泣いちゃいそうなんだけど」
美羽は笑った。
いつも通り、ふざけた口調で。
でも、その胸の奥には静かな恐れがあった。
いつまで笑っていられるか。
いつまで伊織と、同じ時間を過ごせるか。
夕方。
伊織が戻ってくると、美羽は布団の中から声をかけた。
「おかえり。今日も〝戦ってきた〟顔してる」
「そんな顔してる?」
「うん。でもまあ、似合ってる。あんた、がんばりすぎ」
「……美羽こそ。今日、ちょっと顔色悪かったって、咲希さん言ってたよ?」
「バレたかぁ」
二人は笑った。
ほんとうは、明日がどうなるかなんて、誰にもわからない。
でもーーー
「伊織。桜、咲くかな、今年」
「うん。……絶対、咲くよ」
その声だけで、私の中にある不安が、少し溶けていった。
いつもと同じ天井を見上げながら、私は少しだけ体を横に向けた。
向かいのベッドは、空になっている。
今日も伊織は学校に行ったのだ。
「……真面目だなぁ、伊織は」
そう呟いて、ふっと笑う。
私は今日、少し熱が高かった。
行こうと思えば行けたかもしれない。でも、無理に動く気にはなれなかった。
理由は、めんどくさいからーーー
なんて言ったら、きっと咲希に怒られる。
「体調管理は自己責任だぞーってね」
ひとりごとを言って、ベッド横のノートに手を伸ばした。
美羽のノートには、日記のようなことが書いてある。
でみ、それは自分のためというより、たぶん未来の〝誰か〟のため。
《今日も伊織は学校へ。
えらいなぁ、あの子は。ちゃんと笑って、ちゃんと我慢して。
……たまには我慢しなくていいのにね》
ノートにそう書きかけて、手を止める。
わたしも、我慢してないわけじゃない。
でも、わたしの「大丈夫」よりも、伊織の「平気だよ」はたぶん、少しだけ嘘が濃い。
昼過ぎ、咲希が部屋にやってきた。
「美羽ちゃん、ちょっと熱下がってきたよ。午後、院内学級行ってみる?」
「んー、どうしようかな……。だるいし、めんどくさいし、あと5分あまやかして」
「しょうがないなぁ」
咲希は笑って、美羽の額に冷たいタオルをそっと置いた。
「伊織ちゃん、今日も頑張ってたよ。美城先生のとこに顔出しに行くって」
「……あの子、ほんと無理してるんじゃないかな。平気なふりするの上手だから」
咲希は少しだけ黙って、美羽の手を取った。
「……ねぇ、咲希さん」
「ん?」
「もし……もしだよ。わたしとか伊織がさ、ずっとこのままだったら、どう思う?」
「このままって?」
「退院できないまま、ずっと病院で過ごすみたいな」
その言葉に、咲希の目がほんの少し揺れた。
「……それでも、〝その子の一日が笑って終わるなら〟って私は思うよ。
退院しても、しなくても、生きてる今日が大事でしょ?」
「それ、泣いちゃいそうなんだけど」
美羽は笑った。
いつも通り、ふざけた口調で。
でも、その胸の奥には静かな恐れがあった。
いつまで笑っていられるか。
いつまで伊織と、同じ時間を過ごせるか。
夕方。
伊織が戻ってくると、美羽は布団の中から声をかけた。
「おかえり。今日も〝戦ってきた〟顔してる」
「そんな顔してる?」
「うん。でもまあ、似合ってる。あんた、がんばりすぎ」
「……美羽こそ。今日、ちょっと顔色悪かったって、咲希さん言ってたよ?」
「バレたかぁ」
二人は笑った。
ほんとうは、明日がどうなるかなんて、誰にもわからない。
でもーーー
「伊織。桜、咲くかな、今年」
「うん。……絶対、咲くよ」
その声だけで、私の中にある不安が、少し溶けていった。
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