『私』の願いとその代償。

ブー横丁

文字の大きさ
2 / 13

0回目〈1〉side Y

しおりを挟む
 私はずっと、村永 晃人くんが大好きだった。
 
◇◇◇

 2010年9月3日。小学校5年生の秋。大好きなママが切迫早産で入院した。1ヶ月の入院は確定だそうだ。寂しいけれど、ママもお腹の中の弟も頑張っているから、私も頑張らなくちゃいけない。

 その日は土曜日でパパとママと3人で車で病院まで行って、ママが入院するのを見届けた。

 私がママに、大好きなニンジンのパウンドケーキをあげたら、ママは私にビーズで作ったキラキラしたクマさんのキーホルダーをくれた。

「結(ゆい)、ママ、こんなことになっちゃってごめんなさい。弟くんが生まれるまで寂しい思いをさせてしまうかもしれないけれど、このクマちゃんがそばにいてくれるからね。」

2年半前にこの『みらいなか市』近くにパパの転勤で引っ越してきた。

 だからママが入院中、頼れる親戚もいなくて平日の夜ご飯はお惣菜かインスタントラーメンか出前かレトルトだった。でも土日はパパと一緒にお料理するのが密かに楽しみだった。

 9月13日火曜日。クラスの女子の中心の神宮寺 万理華(じんぐうじ まりか)ちゃんの誕生日だ。

 家が大地主で、駅前のファッションビルは万理華ちゃんのお爺さんの持ち物らしい。お父さんはどこかの大病院の院長で、一族皆がお金持ちという噂だ。
 万理華ちゃんはとてもオシャレな女の子だ。普段話しかけられることなんて殆どないのに、なぜかその日は急に話しかけてきた。

「結ちゃん!それ何?!いいなー。キラキラしてとっても可愛い!」

 万理華ちゃんが指を指したのはランドセルにつけたママが作ってくれたクマさんだった。

 すると、周りの女の子達が騒ぎ出す。
「今日万理華ちゃんの誕生日なんだから、結ちゃんそれ、あげれば?!」
「そうだよ!あげなよ!丁度いいじゃん!」
「オシャレな万理華ちゃんが気に入ってくれるなんてすごいしー。」
でも、勇気を出して断った。

「ごめん、このクマさん、お店に売っているものじゃないんだ。ママが作ってくれたもので。だから、ごめんね。」
だって、この子がいてくれたらママが見守ってくれているような気がしていたから。

 でも次の日から、待っていたのは地獄だった。

 クラスの女子が誰も口を聞いてくれなくなったのだ。優しいと思っていた同じグループの子達も申し訳なさそうに目を逸らすだけ。そっか、私と口を聞いたら次は自分がターゲットになっちゃうもんね。

 授業中、先生に当てられて国語の教科書を読んだだけでクスクス笑われる。

 毎日自分だけ外されて折り紙のメッセージが女子同士で回される。

 一回チラッと見えた時は『週末、ゆいちゃん抜きでクレープパーティーしよう。』って書かれてた。多分その会で、すごい私の悪口言うんだろうな。

 体育で誰かと組まなきゃいけない時は常に先生とペアになってしまった。

 落としたプリントをわざと上履きで踏まれて、全然悪く思ってなさそうな感じで『ごめーん!』って言われたり。

 昼休みには、女子がこちらを向いてわざと聞こえるようにコソコソ話をする。

 給食では、わざとデザートが崩れているお皿が回される。
 家庭科の授業では、何品かあるうちの主菜のハンバーグとデザートのロールケーキは勝手に外されて、どうでもいいワカメスープと皿洗いを押し付けられる。いいもん、週末、パパと一緒にハンバーグ作るから。

 口を聞いてくれるのは男子だけだから、たまに話をしていたら、
「結ちゃんて、女子と全然話さないくせに男子とは話して、超男好きじゃん!」
と聞こえるように言われた。
 ニヤニヤ。ヒソヒソ。
 女子と話さないんじゃなくて、無視しているのは向こうなのに。だけど、誰かと話すとまた悪口を言われてしまう。だからほとんど誰とも話さなくなった。

 漫画であるような水をかけられたり、教科書を破いたり、黒板消しを落としてくる嫌がらせはされていない。
 
 毎日嘲笑うかのような目を向けられて、教室の中で呼吸するのがひどく苦しいだけ。

 小テストに書く、松川 結(まつかわ ゆい)っていう自分の名前がたまに酷く歪んで見えるだけ。

 ただ、それだけだ。

 9月29日木曜日。学校からの帰り道で突然息が苦しくなって、まっすぐのはずの道がデコボコに見えた。

 うずくまって、息が吸えなくなって、もう死んじゃうかもって思ったとき、たまたま心配して声をかけてくれたのが村永くんだった。

 村永くんはサッカー少年団だけど色白で、綺麗な顔をしているから結構目立つ子だった。本人曰く、黒くならないで赤くなるタイプらしい。

 彼はすぐに近くを小さな子供とお散歩してた女性に助けを求めてくれて。運良く、その女性は看護師だった。
 ビニール袋を口に当てられて、すーはーすーはー息を吐いたらやっと呼吸ができるようになった。

 あとで知ったけれど、過呼吸っていうらしい。ストレスが溜まると大人もたまになるんだって。

 村永くんはうずくまって涙目でひいひい言っている私に引きもせず、ただただ優しく背中をさすってくれた。
 その手があったかくて、なんだかホッとしたのを覚えている。でも、醜態を見せてしまったのが恥ずかしくて、その日の夜はベッドでジタバタしてしまった。

 次の日から村永くんは何かあったらさりげなく守ってくれるようになった。
 
 給食でボロボロのデザートが回されたら自分のとこっそり変えてくれたり。

「先生ー!女子が授業中に変な紙、まわしてまーす!」
ってチクってくれたり。

 いつも一番後ろの席から、村永くんのちょっと天パ気味の頭と、昼休みにサッカーして少し汚れた背中を見ていた。たまに目があったら笑ってくれた。
 村永くんを見ていたら、だんだん教室で普通に呼吸出来るようになってきた。
 もうその頃から彼は私の『特別』だった。

 10月13日、木曜日。
 没収された私の悪口が書かれていた紙が先生に見られて、虐められていたのがバレてしまった。
 そして、先生が連絡をしたのか慌てた様子でパパが学校に迎えにきた。
 
 家に帰る間、パパは車の中で無言だった。

 玄関のドアを開けるとギュッと抱きしめられて、何度も何度も
「ごめんな。ごめんな。」
って謝られた。パパはなにも悪くないのに。

 パパが泣いているのを見たのは初めてだった。パパを見ていたらなんだか私まで泣けてきて、二人でわんわん泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...