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3章

第5話Side北風真美

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「北風先輩、抜け駆けは良くないと思います」

「な、なんの事かな~…?」

少し後ろを歩いていたのにいつの間にか来た陽菜ちゃんに捕まって今は横で言われのない追求を受けていた。

「私は今年受験って言うこともあって心の中では色んな不安があったりしていると言うのに先輩はなんの気兼ねもなくアピールするのはどうかと思います。大人げないです!」

「…恋愛に大人げないとか関係ないんじゃないかな?」

いつの間にか私と陽菜ちゃんの議論は白熱して、そしていつの間にか荒木くんとの思い出話を語り合っていた。

「それでねー、その後──」
「なんてう、羨ましい!でも私だって──」
「え!?いいなぁ!!」

そうしてたまに荒木くんの良いところや愚痴でも言い合いながら、歩いていた。こうやって誰かと好きな人のことを語り合うのは初めてで結構楽しい!

「あれ?神楽どこいった?」

参拝のするために人の流れに乗っていたら不意に川野くんが荒木くんにいないことに気がついた。

tukiさんが荒木くんの携帯に電話をかけてみたけど……

「ダメね。出ないわ」

携帯に充電がないのかもしれないし、気づいていないのかも。結構な人混みだし、電話に気づかなくてもおかしくはないけど……。

「私、探してきます」

心配になって私は荒木くんを探しに行くことにした。

「あ!なら、私も!」

「この人混みじゃ2人も探しに行ったらこっちが迷子になるから陽菜は待とうな」

「えぇー!?オニィの馬鹿!大っ嫌い!」

「なんで俺が!?」

陽菜ちゃんも行こうとしていたけれど、川野くんに止められていた。陽菜ちゃんからの視線が痛いけれど今はスルーだ。だって純粋に心配なだけだもん。……ホントだよ?うん、ちょっとだけしかチャンスとか思ってないよ?

列から離れて私はゆっくりと人の流れに逆らうようにして荒木くんを探す。今日の服装は分かっているし、荒木くんは身長も高いからよく探せばすぐに見つかるはずだ!

多分荒木くんなら出店を回ってるはず…。何となくそんな気がする。こういう時に焦ったり困ったりするタイプの人じゃない。むしろこういうことに慣れているのか気持ちを思いっきり切り替えるような人だ。…ある意味ポジティブというか……。

ということで出店の方を見ながら探しているんだけど…、やっぱりこの人混みじゃ見つからな………あ、いた!

りんご飴を買っている荒木くんを見つけた。やっぱりわかりやすい。何回も見てきたからすぐに分かる。

っていうか逆方向に行こうとしてない!?アレ、絶対に帰ろうとしてるよね!?
 
急がないと本当に帰っちゃう!

「待って!」

私は急いで駆けて彼の手を掴んだ。

「…北風…か?」

「ようやく見つけた…。ふぅ、今帰ろうとしてなかった?」

「い、いいや全く~。ちゃんとみんなを探そうと思ってたって」

そういう荒木くんの目はとても泳いでいる。……結構わかりやすいよね。

「まぁ、見つかったからいいけどさ…」

「本当に申し訳ございませんでした」

荒木くんが誠心誠意頭を下げて謝ってくれる。うん、素直なのはいいことだ!

「ふふ。別に怒ってないからいいよ。それよりみんなのところに戻ろっか」

「了解~」

今、来た道を戻って私と荒木くんはtukiさん達のところに向かって歩き出す。ここで私はあることに気づいてしまった。

今、私と荒木くんの2人っきりだ…!

いや、探しに行く時からこうなることはなんとなく予想ついてたんだけど、今再び自覚した。

ど、どうしようか…!?何したらいいんだろう!?

荒木くんはさっきから屋台のものを食べてるしねぇ…。何したらいいんだろうか?

なんとなく空気が気まずい…。なにか…何か話を……。そう思っていたら

「そういやさぁ」

「は、はい!」

「ん?どうかした?」

「い、いやなんでもないよ……。それよりどうしたの?」

急に荒木くんが話しかけてくれた。結構身構えていたからびっくりしちゃった。もっと冷静に…冷静に…。

「カミラ、どう?」

「あ、あぁ!カミラね!元気だよ!」

イブの日に荒木くんが私のためにとってくれたクマのぬいぐるみのカミラは今も私の部屋に住んでいる。

実は結構気に入っている。荒木くんがくれたって言うこともあるけれど、どうしてか可愛いらしくて好き。かなり重宝していて髪を整えたりしてる。

「カミラってクマだからかな?結構暖かいんだよ。最近は結構寒いから一緒に寝たりしたら……」

「え?一緒に寝てるの?」

「…ふぇ?あっ……」

やらかしたぁ!

思わず口から普段の行動のことが出てしまう。

頬が熱い。赤くなるのが自分でもわかる。

「だ、だって最近寒いし!でも暖房とかつけたら乾燥しちゃうじゃん!そうなったら肌にも悪いし…」

私は必死に弁明を試みる。このまま子供っぽいなんて思われたらちょっとだけイヤだよ!可愛いって思ってもらいたいけどそれはなんかちょっと違う!

「ぷッはは。そっか…」

…荒木くんは私を見て可笑しそうに笑った。最近は荒木くんが笑ってる姿をよく見るけど、これはなんか私のせいだと思うと恥ずかしい!

「あ、荒木くん!そんなに笑わなくてもいいんじゃない?」

なんかバカにされてるみたいだよ……。

「ごめんごめん。でも、カミラも喜んでるだろうな」

「え?なんで?」

「だって…ぷっ…はは……『お母さん』と一緒に寝てるんだろ?そりゃ、北風家に入って1週間ぐらいのカミラには嬉しいだろ…はは……うなって」 

『かぐらとまみを合わせてカミラ!』

「な!?な!!?」

なんてことを言ってくれるんだ!?って思ったけどよく考えたらカミラって名前の由来を忘れていた。しかも名付けたのは私だ…。荒木くんの言うことを否定できない……けど…!! 

「はは。真っ赤。りんご飴みたいだな」

荒木くんは私のことを自分のりんご飴に例えながらりんご飴を舐める。

「知らないッ!」

恥ずかしくなった私はそっぽをむく。赤くなった顔をこれ以上見られたくないし、これ以上からかわれるのも耐えられないもの!

「は……はは。ごめん…って…」

謝る素振りを見せるけどさっきからずっと笑いっぱなしだ。先程の謝罪とは全然違う!

それで許すはずもなくずっと私はそっぽをむくことに決めた!

うん、これは荒木くんが悪いね!

しばらくずぅっとそのやり取りが続いた。

それにしてもいつになったら顔の熱は消えてくれるんだろう?もしかして地球温暖化の影響?今日、結構暑いのかも。

突然、荒木くんから笑い声と足が止まっていることがわかった。

どうしたんだろうって思って荒木くんの視線の先を追ってみるとそこには周りをウロウロと歩き回って涙目になっている少女がいた。見た感じ……小学1、2年生かな? 

迷子のように見える。周りの人は…こんな人混みの中だし気づいていないのか気づいていない振りなのか分からない。

この喧騒の中でよく気がついたねって思う。荒木くんは私より身長が高いって言うのもあるんだろうけど。
 
多分…今、彼が考えていることはよくわかる。

「ごめん。北風…先行ってて。すぐ行くから」

「私も行く」

驚いたように荒木くんはこっちを見てくる。

「いいのか?もしかしたら参拝できないかもしれないけど?」

「別にいいよ。だって荒木くん携帯持ってないんでしょ?もしかしたらまた帰るかもしれないし。」

「いや、もうしないって。さすがに反省してるから」

どうかな?結局面倒くさがりそうな気はするけど。

「それに…その時は…2人で行ったら良くない?今日が無理なら来週ぐらいにでも」

はっきりいってしまえばそっちの方が都合がいいかもしれない。別にお参りすることは本来の目的だけどそこまで重要では無い。去年も行ってないしね。

「そっか。ならちょっとだけ付き合ってくれるか?」

一瞬ドキッ!とした。なんの前触れもなくなんて言うんだから。

「う、うん。もちろん付き合うよ!」


「お母さん……お父さん……どこ……?」

「どうしたの?」

私はしゃがんで少女に視線を合わせて話しかける。そちらの方がいいって荒木くんが教えてくれた。

付き合うって言ったけど、どうすればいいのかわからなかったけど荒木くんがいれば安心することが出来た。頼りになるよね。

「……ぐすっ……お姉ちゃん…たちだれ?」

「お姉ちゃんたちはね~、高校生なんだよ~」 

「こーこーせー?」

「そう。高校生。私は北風真美っていう名前なの。こっちは荒木神楽君。君の名前を教えてくれるかな?」

「私は…ももか…って言うの……」

「そっか。ももかちゃんか。ももかちゃんはどうしてここにいるの?」

「…ぐすっ…パパとママと…かぞくでおまいりに来たの…。でも…パパとママと手を離したら…ぐすっ…いなくなっちゃったの……」

やっぱり迷子だったんだ…。まぁ、なんとなくわかってたんだけど。

すると荒木くんまで腰を下げてももかちゃんと目線を合わせる。

「…そっか…。それは悲しいな……。でも、大丈夫!お兄ちゃんたちが一緒に探してあげるから…な!」

そのまま荒木くんは私の方を向いて…、

「北風、悪いんだけど携帯貸してほしい。姉ちゃんに連絡しときたいんだけど……」

「あぁ、なるほどね!はい、どうぞ」

私はカバンから携帯を取り出してロックを解除して携帯アプリを開いた状態で手渡した。

荒木くんは「ありがとう」と言って立ち上がり、電話をし始めた。

「もしもし…?俺なんだけどさ?…いや、オレオレ詐欺じゃなくて…。神楽だよ。うん、合流出来た。それでさ、ちょっと色々あってさ……」

「お姉ちゃん…とお兄ちゃんは…仲いいの……?」

「そうだね…。仲…いいと思うよ」

私が思ってるだけであってあっちはどうか知らないけどね…。もしかしたらなんとも思ってないのかもしれないね。

「…友達…かな?ももかちゃんにもいるかな?」

今日はちゃんと友達って言ってたから大丈夫なはず。こればっかりは事実であってほしい。

「ともだち…!ももかにもいるの!」

「それでさ……もしそっちにそれっぽい人見かけたら声かけて欲しいんだけど……。名前はももかちゃんだ。……OK。よろしく。
ありがとう、北風」

荒木くんは私に携帯を返してくれる。

「うん。どういたしたしまして」

「それじゃあ、移動するか」

「探すって言ってもどうするの?神社ここ結構人多いよ?」

さすがに闇雲に探すのでは難しいと思う。ももかちゃんの両親も探しているだろうからそんなに難しくないかもしれないけど……。

「とりあえず神社の方に向かおっかな。普通は人の流れの方に向かうと思うし。あっちも探してるんならその方がいいと思う。姉ちゃんにもそれっぽい人を見かけたら声掛けて欲しいってお願いしたからそれに期待してるし…。まぁ、それでも見つからないなら……神頼みだな…。ここ神社だし」

私はこんなことしたことがなかったから正直、ちょっとだけ不安とかどうしたらいいのかな?とかって考えてた。やっぱり初めてだし。

だけど荒木くんは色んなことを考えていて安心する。本当に頼りになると思う。頼って安心できる。

「神頼みって…。ふふ。神様ちょっと安すぎない?」

「大丈夫だろ。日本では至る所に神様がいるらしいからな。迷子の女の子ぐらい導いてくれるって。っていうかここ神のやしろだからな。家で迷子になった子供ぐらい導かなきゃ神なんか居ないって言ってるようなもんだ」

「ふふ。それもそうだね」

「お姉ちゃんたち…楽しそう…なの」

「ごめんね~。暇だったよね?それじゃあ行こっか♪」

新年早々の迷子の子供の親を探すという人助けが始まった。
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