堅物辺境伯の溺愛〜虐げられた王宮奴隷は逃げ出した先で愛を知る〜

咲木乃律

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第二章

淑女のあるべき姿とは

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 ユリウスはもういいと言ったが、カレルはこの際きっちりお教えするべきですと断固として言い張った。

 カレルが一度こうと決め言い出したら引かないことは知っている。ユリウスは仕方なくルカを抱いたままベッドに腰掛け 膝の上にルカを乗せた。
 カレルは腕を組み、ルカとユリウスを見下ろした。こちらまで小言を食らうような気分だ。ユリウスはルカの耳を塞いでしまいたい衝動にかられた。それを思いとどまったのは、ひとえにカレルの眼光の鋭さゆえだ。
 ユリウスが大人しく聞く構えを取ったのを見て取り、カレルは口を開いた。

「あのですな、ルカ。普通は夜中に淑女が一人で男性の部屋を訪れることはありません」

「どうして? というかわたしは淑女じゃない」

 ルカはきょとんとした顔でカレルを見上げる。

「ルカが淑女かどうかはともかく、女性が男性の部屋を夜に訪れるのは、はしたない行為とされているのです。先程のようなそしりを受けようとも仕方のない行為なのです」

「だからそれはどうしてなの?」

 純粋な疑問を向けるルカに、カレルは啞然と口を開いたまま時を止めた。ユリウスはこみ上げる笑いを耐え難くなり、横を向いて口をおさえた。が、さすがにカレルが気の毒になり、助け舟を出した。

「ルカ、おまえ王宮で夜伽をしろと言われたんだろう? 女が夜中に男の部屋に行くのは、そういう行為を自ら望んでしに行くと思われるということだ」

「夜伽って……。わたし、そんなつもりない」

 夜伽の言葉にルカは過剰に反応し、体を硬くした。

「ルカはその気がなくとも、他から見ればそのように見られても仕方がないとカレルは言いたいんだ。そうだろう?」

「ユリウス様のおっしゃる通りです。我々屋敷の者はわかっておりますから、そのような誤解をすることはございませんが、他の人から見ればそのように誤解されても仕方ないと申しているのです」

「でも、違うのに。それじゃあユリウスのところに夜に行ったらだめなの?」

「なるべくお控え下さい」

「……そんな」

 ルカはしょんぼりと顔を伏せた。

「ですが、それもルカにとっては酷なことでしょう。ですから、ユリウス様のお部屋へ行きたいときは、リサか私にまずは言っていただきたいのです。私達と一緒に行けば、何ら誤解されることはございませんので」

 朝までルカが出てこないとこれもまた誤解を生むが、見張りの騎士は頻繁に交代する。いちいちルカやカレルの退室を引き継ぐことはないので、これは問題ないとカレルは言う。

 その説明を聞いて、ルカはほっとしたようにユリウスにもたれかかってきた。

「しかしルカ。無防備にもほどがありますぞ。そのようなことを教えてくれる者は、王宮では近くにいなかったのですか?」

 カレルの疑問はもっともだ。王宮奴隷といえば、王の夜伽にもあがることがある存在だ。女のルカはそのような機会はなかったのかもしれないが、それにしては無知だ。いや、夜伽に呼ばれて逃げ出したのか。

「だいたいルカ、おまえ夜伽が何かわかって言っているのか?」

 話を聞いているとそこもあやふやだ。ユリウスが疑問を向けるとルカは「知ってるよ」と返した。

「お尻に男の人のを入れるんでしょ?」

「………」

「なんと……」

 盛大な勘違いにユリウスは絶句し、カレルはなんとと言ったきり言葉を失った。
 何か失言したと思ったのだろう。ルカは不安そうにユリウスを見上げる。

「違うの? でも一度言われたことあるよ。男の人が下穿きを脱いで見せてきて、お尻に入れさせてって」

 一体どんな状況なんだ、それは。
 突っ込みどころがありすぎて、何から聞けばいいのか。もはやわからない。

 男二人が唖然として押し黙ったので、やはり何かおかしなことを言ったと思ったのだろう。ルカは「でも……」と続ける。

「その人はわたしのこと、男だと思ったみたいだけど。何か間違ってる?」

「私からはなんとも……」

 カレルは後は知らないとばかりに匙を投げる。
 ユリウスは言葉に詰まりながらも、「まぁ、そうだな。そういう方法がないでもない…」と返しながら、一番気になることを聞く。

「それでルカ、男に迫られてその後どうしたんだ?」

 これほど無防備でよく今まで無事に過ごしてきたなと奇跡に近いものを感じる。いや、それとも経験はあるのだろうか。そんな疑問まで浮かぶ。

「その時はエメレンスが来て、この子は女の子だよって言ったら、男の人は慌ててどっか行っちゃった。女の希少種は、遊び相手には不向きなんだって。エメレンスがそう言ってた」

「エメレンスだと?」

 ユリウスは今度こそ完全に言葉を失った。
 王宮でエメレンスといえば、エメレンス・バッケルのことだ。ライニール王の腹違いの弟で、地方官長官でもある。
 なぜエメレンスが、一人の王宮奴隷に手を差し伸べるのだろう。あの男のことだ。気まぐれを起こさないとも限らないが、ユリウスの知るエメレンスはたとえ窮地に陥っていようと王宮奴隷に手を差し伸べるような男ではない。

 貴族の子息が通う寄宿学校で、ユリウスはエメレンスと同級だった。王族で取り巻きの多い男だったが、掴みどころのない男でもあった。なぜかユリウスとは気が合い、というより、向こうがやたらとユリウスに構ってきて、よく一緒にいた。

 王族であることを意に介していないようでもあり、場合によっては権を誇示して相手を意のままに動かそうとする。とにかくとらえどころがなく、ユリウスはエメレンスに会うたび、どんな態度で臨めばいいのか今でも迷う。

 しかし、ユリウスの父が政争に破れて多くの友が去ったなか、態度を変えなかった数少ない男の一人でもあった。



 
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