堅物辺境伯の溺愛〜虐げられた王宮奴隷は逃げ出した先で愛を知る〜

咲木乃律

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第五章

ディックの入れ知恵

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 二三日で終わるのかなと勝手に思っていた月のものが、四日経っても全然終わらない。もしかしたらずっと出血し続けるのだろうかと不安になってリサに聞くと、リサは一週間ほどかしらねと事も無げに言う。えっそんなに?とルカが驚くと、リサは平然とそのくらいよと返してきた。
 ユリウスとまたしたいと思っていたのに、そんなに長い間できないのか。ユリウスはしたくなったりしないのかな。また我慢しているのかな。心配だ。
 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、前からディックとフォリスがやって来た。二人は髪を茶色に染め、頭を隠すことなく林と屋敷とを行き来するようになっていた。いま、ルカの拾われた林の中に小屋を建てていて、いずれはそこへディック達みんなは移るらしい。ディックの引き連れてきた希少種達は、みな髪を茶色やグレーや金色に染めている。
 ディックとフォリスは林から帰ってきたところらしい。最近暑くなってきたのに関わらず、ブーツを履き長袖を着ている。対してルカは半袖の膝丈ワンピースだ。二人はパタパタとシャツを扇いでいる。

「おかえりなさい」

 ルカが声をかけると、ディックとフォリスは立ち止まり汗を拭った。

「林の中だと涼しいのかと思ったら暑いのなんのって。そのくせ蚊がぶんぶん飛んでるから半袖だとあちこち刺されちまう」

 ディックがげんなりした顔をする。

「それで長袖なの?」

「そうなんだよ、ルカ。でもね、静かでいいところだよ。僕は林に移るのが楽しみだ」

「この通り、フォリスは乗り気なんだけどよ」

 ディックはブツブツ言いながらフォリスの肩に手を回し、連れ立って部屋へと向かう。その後をルカは追いかけた。

「あのディック。聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ? 部屋についてからでいいか? 汗を流して着替えたいんだ」

「もちろん。あ、でも着替えるならもう少しあとのほうがいい?」

「おう。そうしてくれ」

 ディックは片手を上げ、フォリスと部屋に入っていった。
 もう少しあととは言ったけれど、はてどれくらいだろうか。扉の前で首を傾げていると、ラウが歩いてきた。

「やぁ、ルカ。そんなところに突っ立ってどうしたんだい?」

「うん、ちょっとね。ディック達の着替えが終わるのを待ってる」

 ラウは髪を金色に染めていた。初めて厨房で会ったときは、怖い感じがすると思ったが、話してみればラウは気さくで話しやすかった。屋敷内で出会うと、ラウは必ず声をかけてくれる。この四日ほどで、ルカはラウと急速に仲良くなった。

「ディック達のことだから、たぶん長くなるよ」

 ラウの苦笑に長くなる意味がわかり、ルカもうーんとうなった。あの二人のことだから、浴室で汗を流したらそのままということも考えられる。

「時間あるならさ、ちょっと僕の部屋においでよ。林で甘い木の実を摘んだんだ。一緒に食べよう」

 ルカが頷く前に腕を引かれた。有無を言わさぬ感じでぐいぐい引っ張られ、ルカはラウの部屋に入った。

「同室のあとの二人はまだ林から帰ってきてないんだ。これだよ」

 ラウは布袋から赤い実を取り出した。王宮にいた頃、ルカも採って食べたことのある実だ。甘酸っぱくてみずみずしくておいしい実だ。

「うわぁ。これ好き」

「ほら、どうぞ」

 差し出された赤い実をルカはぱくりと食べた。懐かしい味が口の中に広がる。

「ねぇルカ。聞いていいかい? ルカとユリウスとのこと」

「何を?」

 質問の意図がわからずルカは首を傾げた。

「その、二人はどういう関係なんだい? つまりその、男と女の関係なのかってことだけど」

「男と女の関係?」

「ああ、ごめん。こういう聞き方じゃわからないんだな。つまりセックスする間柄なのかってことだ」

「えっと」

 セックスがわからない。わからないが、なんとなくわかった気がした。

「それってユリウスとしてるかどうかってこと?」

「そう。それだよ」

 どうしてそんなことを聞きたいのかわからないが、別に隠す必要もない。

「したよ。この間」

 つい四日ほど前のことだ。

「そうなのか。そうなんだ。それで、何か変わったことってなかったかい?」

「変わったこと?」

 うーんとルカは思考を巡らせた。何もない。あ、でも一つだけある。

「月のものは始まったけど、そのこと?」

「そう。そうなんだ。それで? ユリウスはどうだい?」

「ユリウス?」

 今朝も普通に屋敷を出ていった。

「変わりないよ」

「ふーん」

 ラウは自分も袋から赤い実を取り出すと口に放り込み、ルカの口にも一つ押し込んだ。

「ほら、食べて食べて。この赤い実はね、精霊の実とも言われていてさ。この実がなる林には精霊がいるんだよ。そしてこの実を見つけられるのは、限られた希少種だけなんだよ」

「へぇ」

 ラウのうんちくを聞きながら、ルカはラウが次々に口に押し込んでくる赤い実を食べた。
 
 しばらくすると、外からディックがルカを呼んでいる声がしてきた。

「じゃあね、ラウ」

 ルカはラウの部屋を出て、廊下で大きな声を出しているディックを呼び止めた。

「ディック。もういいの?」

「おう。どこにいたんだ?」

「ラウのとこ。赤い木の実をもらってた」

「へぇ。あいつ、他の奴らとは全然話さないしつるまないくせに、ルカとは話すんだな」

 そうなのだろうか。ラウは優しいし話し上手だ。他の希少種と全然話さないなんてちょっと意外だ。

「それより、なんだ? 聞きたいことって」

「ユリウスとのことなんだけど」

 ルカは月のものがある間、ユリウスが我慢しているのではないか心配だと話すと、「じゃあさ」とにやにやしてルカの耳元にこそこそ囁いた。

「えっ」

 ルカは絶句し、「ほんとにそんなことするの?」と聞き返した。ディックはまあなと頷き、

「フォリスもたまにやってくれるぞ。めっちゃ気持ちいい。あ、でも歯で噛まないように気をつけろよ。痛いから」

「でもでも、その時にセーエキ出たらどうするの?」

 ディックはにやりと笑ってさらりと言った。

「飲んでくれたら最高かな」

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