89 / 91
終幕
全力で抗うまでだ
しおりを挟む
ユリウスとルカが、王宮内のオーラフ宰相の執務室に入っていくと、オーラフ宰相はさきほどと同じ紫紺のマントをつけた姿のまま、大きな執務机につき、入ってくるユリウスとルカの一挙手一投足をじっと見つめた。
執務机の上は、一分のズレもないほどきっちりと書類が並び、書架に並んだ本も、どのように揃えればそうなるのかと不思議なほど整然と並んでいる。
オーラフ宰相とは、ルカは月一診察で顔を合わせていたけれど、言葉をかわしたのは夜伽を命じられた日が初めてだった。なのでオーラフ宰相の人となりは知らなかったが、この整いすぎていて、どこか冷たい印象をあたえる無機質な執務室を見ただけでも、オーラフ宰相の人となりが垣間見えるようだった。
ユリウスも同じことを思ったのかもしれない。ユリウスは、慎重に部屋内を見回し、執務室の奥につながる扉に視線を注いだ。
「気になるようなら、見ても構わない」
オーラフ宰相はふっと笑い、立ち上がるとユリウスの見ていた扉を開いた。ユリウスはすばやくその扉に近づくと中を見回し、戻ってきた。
「王宮騎士団は控えていないようで、ひとまずは安心した」
ユリウスは、オーラフ宰相が王宮騎士団をつれてきていないかを警戒していたようだ。話し合いの途中で、不意をつかれるのは確かに嫌だ。
「疑り深いのは、このような場では役に立つ。しかし、ベイエル伯。今の我々の話し合いには、むしろ邪魔な存在だ」
「その言葉、どこまで信用していいものか。俺にはわからんからな」
「違いない。まぁ、かけられよ。いたずらに時間を浪費するのは、お互いのためにならない」
ユリウスはすすめられるままソファに腰を下ろし、隣に座るようにとルカを促した。
「俺は、回りくどい話は苦手だ。単刀直入に俺の要求を言おう。今後一切ルカからは手を引け。モント領内にいる王宮騎士団の手の者も、全て残らず退去させろ」
「これはまた、大きく出られたな。こちらが貴殿の要求をのむ必要がどこにある。レガリアのなくなった今、確かに王家にとってルカの価値はなくなったが、ルカが王妹であることには変わりない。ライニール王には未だお世継ぎがいらっしゃらない。希少種の女は妊娠しやすいと言う。血筋も申し分ないルカには、ライニール王のお世継ぎを産んでもらいたい」
「馬鹿な。ライニール王とルカは兄妹だぞ」
「そのような例は、過去にはいくつも存在する」
「それで産まれた子が黒髪黒目の希少種ならばどうする気だ」
「何人か産んでみれば、中には黒髪黒目ではない子も産まれよう」
「このような議論。するだけ無駄だった。答えは否だ。話を先に進めよう」
「して? ベイエル伯。そのような要求をこちらがのむ見返りは何なのだ? 貴殿は何をこちらに差し出す」
「そのようなもの」
ユリウスはオーラフ宰相の視線を真っ向から受け止めた。
「レガリアのことといい、弱味を握られているのは、ライニール王を献ずる宰相殿の方ではないか。俺は今すぐにでもレガリアの真実を白日の下に晒し、ライニール王を玉座から引きずり下ろすこともできる。これでもこちらの要求は控えめにしているつもりだ」
「言いよるな」
オーラフ宰相は、なぜか愉快だとでも言うようにふっと笑った。
「その要求、否と言ったら?」
「今すぐにでもモント領へ戻るだけだ」とユリウスは即答した。
「ならばこちらは王宮騎士団を差し向けよう」
「ならば全力で抗うまでだ」
「おもしろい。やれるものなら、と言いたいところだが、しかしベイエル伯の言う通り、秘密を抱えているのはこちらの方。更に王都に水が戻ったこと。これは間違いなくベイエル伯のおかげ。無下に要求をはねのけるのも心苦しい。そこでだ。これまでのことを不問とし、中央政界への復帰を約束するというのはどうだ。私の側近にとりたてることも約束しよう。全ての権力が手に入るぞ」
「否だ。その場合、ルカを差し出せというのだろう。それに俺は中央政界になど興味はない」
「それは惜しい。貴殿ならば多くの富と権力を手にするだろうに。ああ、いいことを思いついた。もっと効果的な方法が一つある。私が今ここでベイエル伯を亡き者にする。そうすればこちらに不利益はなく、レガリアの事実は永遠に闇の中だ」
「それはないな」
ユリウスは確固として首を振った。
「俺にはコーバスはじめ、信を置けるものがたくさんいる。今ここで俺が亡き者となれば、必ずその者達が、俺に代わってライニール王を玉座から引きずり下ろすさ」
「コーバスは私の実弟だと聞いていなかったのか? 少なくとも弟はベイエル伯の味方にはなるまい」
「それこそ大きな間違いだ」
ユリウスはにやりと笑った。
「コーバスは俺の腹心だ。誰の弟であろうと関係はない。あいつは俺の不利益になるようなことは絶対にしない」
オーラフ宰相は、しばらくじっとユリウスと睨み合った。緊迫した空気が流れた。二人の様子を、ルカは息を詰めて見守った。
先に視線をそらしたのはオーラフ宰相だった。
「どうやら、貴殿とは徹底的に反りが合わないらしい。揺さぶりをかけても、こうも揺らがない者は、今までにいなかった。コーバスが私に何を言ってきたのか。教えてやろう」
オーラフ宰相は、真っ直ぐにユリウスを見、言を継いだ。
「コーバスは、これまでの経緯を全て文にしたため、最後にこう記していた。ベイエル伯と争うな。王宮騎士団をモント領内へ差し向ければ、負けるのは王宮騎士団だと。モント騎士団はベイエル伯に絶対の信を置いている。ベイエル伯が戦うと決めたのなら、例え王宮騎士団相手でもモント騎士団は戦うだろうと。更に、常に隣国ルーキングと相対しているモント騎士団が、実戦経験のない王宮騎士団など相手ではないこと、装備の点でも、豊かな財源を元に整えられた武器の備蓄はバッケル王国一であること。ベイエル伯と争っても、負けはみえていること―――」
オーラフ宰相は、懐からその文と思われる紙束を出すと、ぱさりと机上に放った。
「我が弟の言葉とは思えないほど、ベイエル伯の褒め倒しだ。そして最後にはこう結んであった。無用にベイエル伯を刺激せず、ルカを自由にしろとな。さすれば王国の北の守りは盤石だとな」
ユリウスはオーラフ宰相の放った紙束を手に取ると、ざっと中身に目を通した。横から覗き見ると、上手いとは言い難いが、一文字一文字丁寧に書かれた文字が目に入った。
「それで? 宰相殿。俺の要求は了承したということでいいのだな?」
「レガリアのことを盾に取り、中央政界に戻る野心のない者を蹴落とすほど、私も暇ではない。王宮は、今後一切ルカに関わらぬことを約束しよう」
「ならば俺はレガリアについては口を噤み、北の守りを固めることを約束しよう」
オーラフ宰相とユリウスは、お互いの真意を探るように、相対して視線を交わしあった。やがて、オーラフ宰相は長い息を吐き出し、「話はこれで終わりだ」と立ち上がる。
「あともう一点だけ、俺から提案がある」
「聞こう」
「此度の水の復活を祝って恩赦を出してはどうだ。ライニール王の徳はいよいよ高まり、その権勢は揺るがぬものとなるだろう。賢王として歴史に名を刻むことは間違いない」
「……なるほどな。ベイエル伯。貴殿はなかなかの策士らしい。十年前、貴殿の父と共に、中央政界から蹴落としておいて正解だった」
オーラフ宰相は、なぜか満足そうににやりと笑った。
***
ベイエル伯とルカの去った執務室で一人、オーラフ宰相は、深くソファに身を預け、目を閉じた。
瞼裏にはオーラフ家に養子に入ってからこれまでの様々なことが浮かんでは消えていった。
期待に応えねばと必死で駆け抜けた日々だった。登り詰めるためには、たとえ友と慕った者を蹴落とすことになろうと躊躇いはなかった。ただひたすらに上を目指すことだけを至上目的として走ってきた。人を従わせるためならば、どんなことでもできた。
これまでその日々に疑問を感じたことはなかった。けれどなぜか今は両肩が重く、立ち上がるのさえ億劫なほどの倦怠感に包まれていた。
ベイエル伯には、中央政界に戻ってくる野心はない者と蔑んでみたが、あの男にはもっと別の野心があった。自分の大切な者達を全力で守ろうとする心だ。それもまた、一つの野心に他ならないだろう。
そういう生き方もあったのだ。
駆け上がる中で自分が捨ててきたものを、ベイエル伯は大事に慈しみ、守ろうとしている―――。
恩赦の具体的な内容には一切触れず、提案などと下手に出ながら、最大限の要求をつきつけてくるとは。大胆不敵でありながら、こちらがその要求をのまなければどうなるか。暗に脅しも含ませている。それでいて、提案などとオブラートで包んだ表現をしてくるとは。
人目もはばからず、ルカを片腕に抱き上げて去っていくベイエル伯の後ろ姿が、消しても消しても脳裏に浮かんでくる。おそらくこれから先も、事あるごとに思い出す。そんな気がする。
「オーラフ宰相。ライニール王がお呼びでございます」
執務室の扉がノックされ、小姓が声をかけてきた。オーラフ宰相は、「わかった」と返事を返し、重い体を引きずるように立ち上がった。
その時なぜか、適当に見繕おうと思っていた妹エミーの嫁ぎ先を、真剣に考えてやろうという思いが芽生えた。コーバスの文には、ユリウスに片思いしていたエミーのことも、包み隠さず記されていた。凡庸で哀れな娘だが、幸せになる権利は誰にでもある。
柄にもなくそんなことを考えた。
執務机の上は、一分のズレもないほどきっちりと書類が並び、書架に並んだ本も、どのように揃えればそうなるのかと不思議なほど整然と並んでいる。
オーラフ宰相とは、ルカは月一診察で顔を合わせていたけれど、言葉をかわしたのは夜伽を命じられた日が初めてだった。なのでオーラフ宰相の人となりは知らなかったが、この整いすぎていて、どこか冷たい印象をあたえる無機質な執務室を見ただけでも、オーラフ宰相の人となりが垣間見えるようだった。
ユリウスも同じことを思ったのかもしれない。ユリウスは、慎重に部屋内を見回し、執務室の奥につながる扉に視線を注いだ。
「気になるようなら、見ても構わない」
オーラフ宰相はふっと笑い、立ち上がるとユリウスの見ていた扉を開いた。ユリウスはすばやくその扉に近づくと中を見回し、戻ってきた。
「王宮騎士団は控えていないようで、ひとまずは安心した」
ユリウスは、オーラフ宰相が王宮騎士団をつれてきていないかを警戒していたようだ。話し合いの途中で、不意をつかれるのは確かに嫌だ。
「疑り深いのは、このような場では役に立つ。しかし、ベイエル伯。今の我々の話し合いには、むしろ邪魔な存在だ」
「その言葉、どこまで信用していいものか。俺にはわからんからな」
「違いない。まぁ、かけられよ。いたずらに時間を浪費するのは、お互いのためにならない」
ユリウスはすすめられるままソファに腰を下ろし、隣に座るようにとルカを促した。
「俺は、回りくどい話は苦手だ。単刀直入に俺の要求を言おう。今後一切ルカからは手を引け。モント領内にいる王宮騎士団の手の者も、全て残らず退去させろ」
「これはまた、大きく出られたな。こちらが貴殿の要求をのむ必要がどこにある。レガリアのなくなった今、確かに王家にとってルカの価値はなくなったが、ルカが王妹であることには変わりない。ライニール王には未だお世継ぎがいらっしゃらない。希少種の女は妊娠しやすいと言う。血筋も申し分ないルカには、ライニール王のお世継ぎを産んでもらいたい」
「馬鹿な。ライニール王とルカは兄妹だぞ」
「そのような例は、過去にはいくつも存在する」
「それで産まれた子が黒髪黒目の希少種ならばどうする気だ」
「何人か産んでみれば、中には黒髪黒目ではない子も産まれよう」
「このような議論。するだけ無駄だった。答えは否だ。話を先に進めよう」
「して? ベイエル伯。そのような要求をこちらがのむ見返りは何なのだ? 貴殿は何をこちらに差し出す」
「そのようなもの」
ユリウスはオーラフ宰相の視線を真っ向から受け止めた。
「レガリアのことといい、弱味を握られているのは、ライニール王を献ずる宰相殿の方ではないか。俺は今すぐにでもレガリアの真実を白日の下に晒し、ライニール王を玉座から引きずり下ろすこともできる。これでもこちらの要求は控えめにしているつもりだ」
「言いよるな」
オーラフ宰相は、なぜか愉快だとでも言うようにふっと笑った。
「その要求、否と言ったら?」
「今すぐにでもモント領へ戻るだけだ」とユリウスは即答した。
「ならばこちらは王宮騎士団を差し向けよう」
「ならば全力で抗うまでだ」
「おもしろい。やれるものなら、と言いたいところだが、しかしベイエル伯の言う通り、秘密を抱えているのはこちらの方。更に王都に水が戻ったこと。これは間違いなくベイエル伯のおかげ。無下に要求をはねのけるのも心苦しい。そこでだ。これまでのことを不問とし、中央政界への復帰を約束するというのはどうだ。私の側近にとりたてることも約束しよう。全ての権力が手に入るぞ」
「否だ。その場合、ルカを差し出せというのだろう。それに俺は中央政界になど興味はない」
「それは惜しい。貴殿ならば多くの富と権力を手にするだろうに。ああ、いいことを思いついた。もっと効果的な方法が一つある。私が今ここでベイエル伯を亡き者にする。そうすればこちらに不利益はなく、レガリアの事実は永遠に闇の中だ」
「それはないな」
ユリウスは確固として首を振った。
「俺にはコーバスはじめ、信を置けるものがたくさんいる。今ここで俺が亡き者となれば、必ずその者達が、俺に代わってライニール王を玉座から引きずり下ろすさ」
「コーバスは私の実弟だと聞いていなかったのか? 少なくとも弟はベイエル伯の味方にはなるまい」
「それこそ大きな間違いだ」
ユリウスはにやりと笑った。
「コーバスは俺の腹心だ。誰の弟であろうと関係はない。あいつは俺の不利益になるようなことは絶対にしない」
オーラフ宰相は、しばらくじっとユリウスと睨み合った。緊迫した空気が流れた。二人の様子を、ルカは息を詰めて見守った。
先に視線をそらしたのはオーラフ宰相だった。
「どうやら、貴殿とは徹底的に反りが合わないらしい。揺さぶりをかけても、こうも揺らがない者は、今までにいなかった。コーバスが私に何を言ってきたのか。教えてやろう」
オーラフ宰相は、真っ直ぐにユリウスを見、言を継いだ。
「コーバスは、これまでの経緯を全て文にしたため、最後にこう記していた。ベイエル伯と争うな。王宮騎士団をモント領内へ差し向ければ、負けるのは王宮騎士団だと。モント騎士団はベイエル伯に絶対の信を置いている。ベイエル伯が戦うと決めたのなら、例え王宮騎士団相手でもモント騎士団は戦うだろうと。更に、常に隣国ルーキングと相対しているモント騎士団が、実戦経験のない王宮騎士団など相手ではないこと、装備の点でも、豊かな財源を元に整えられた武器の備蓄はバッケル王国一であること。ベイエル伯と争っても、負けはみえていること―――」
オーラフ宰相は、懐からその文と思われる紙束を出すと、ぱさりと机上に放った。
「我が弟の言葉とは思えないほど、ベイエル伯の褒め倒しだ。そして最後にはこう結んであった。無用にベイエル伯を刺激せず、ルカを自由にしろとな。さすれば王国の北の守りは盤石だとな」
ユリウスはオーラフ宰相の放った紙束を手に取ると、ざっと中身に目を通した。横から覗き見ると、上手いとは言い難いが、一文字一文字丁寧に書かれた文字が目に入った。
「それで? 宰相殿。俺の要求は了承したということでいいのだな?」
「レガリアのことを盾に取り、中央政界に戻る野心のない者を蹴落とすほど、私も暇ではない。王宮は、今後一切ルカに関わらぬことを約束しよう」
「ならば俺はレガリアについては口を噤み、北の守りを固めることを約束しよう」
オーラフ宰相とユリウスは、お互いの真意を探るように、相対して視線を交わしあった。やがて、オーラフ宰相は長い息を吐き出し、「話はこれで終わりだ」と立ち上がる。
「あともう一点だけ、俺から提案がある」
「聞こう」
「此度の水の復活を祝って恩赦を出してはどうだ。ライニール王の徳はいよいよ高まり、その権勢は揺るがぬものとなるだろう。賢王として歴史に名を刻むことは間違いない」
「……なるほどな。ベイエル伯。貴殿はなかなかの策士らしい。十年前、貴殿の父と共に、中央政界から蹴落としておいて正解だった」
オーラフ宰相は、なぜか満足そうににやりと笑った。
***
ベイエル伯とルカの去った執務室で一人、オーラフ宰相は、深くソファに身を預け、目を閉じた。
瞼裏にはオーラフ家に養子に入ってからこれまでの様々なことが浮かんでは消えていった。
期待に応えねばと必死で駆け抜けた日々だった。登り詰めるためには、たとえ友と慕った者を蹴落とすことになろうと躊躇いはなかった。ただひたすらに上を目指すことだけを至上目的として走ってきた。人を従わせるためならば、どんなことでもできた。
これまでその日々に疑問を感じたことはなかった。けれどなぜか今は両肩が重く、立ち上がるのさえ億劫なほどの倦怠感に包まれていた。
ベイエル伯には、中央政界に戻ってくる野心はない者と蔑んでみたが、あの男にはもっと別の野心があった。自分の大切な者達を全力で守ろうとする心だ。それもまた、一つの野心に他ならないだろう。
そういう生き方もあったのだ。
駆け上がる中で自分が捨ててきたものを、ベイエル伯は大事に慈しみ、守ろうとしている―――。
恩赦の具体的な内容には一切触れず、提案などと下手に出ながら、最大限の要求をつきつけてくるとは。大胆不敵でありながら、こちらがその要求をのまなければどうなるか。暗に脅しも含ませている。それでいて、提案などとオブラートで包んだ表現をしてくるとは。
人目もはばからず、ルカを片腕に抱き上げて去っていくベイエル伯の後ろ姿が、消しても消しても脳裏に浮かんでくる。おそらくこれから先も、事あるごとに思い出す。そんな気がする。
「オーラフ宰相。ライニール王がお呼びでございます」
執務室の扉がノックされ、小姓が声をかけてきた。オーラフ宰相は、「わかった」と返事を返し、重い体を引きずるように立ち上がった。
その時なぜか、適当に見繕おうと思っていた妹エミーの嫁ぎ先を、真剣に考えてやろうという思いが芽生えた。コーバスの文には、ユリウスに片思いしていたエミーのことも、包み隠さず記されていた。凡庸で哀れな娘だが、幸せになる権利は誰にでもある。
柄にもなくそんなことを考えた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる