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第九章 魔力を吸う札
待ちぼうけ
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いつまで待てば良い?
謁見の間で床に膝をついたまま微動だにせず、ミルドはただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
ルーチェには「適当に休憩していて」と言われたが、謁見の間には休憩できるような場所などない。
だったら他の場所で休憩をとるか? とも考えたが、謁見の間から出てしまえばルーチェが戻っても気付くことはできないし、そうなったらなったで間違いなく彼は不機嫌になるだろう。
彼の性格上わざわざ自分の元へ遣いを寄越すなんてことは絶対にしてくれないだろうし、もししてくれたとしても、『この僕に遣いを出させるなんて、君はいつからそんなにも偉くなったんだい?』などと嫌味たっぷりに言われることは間違いない。
それだけは絶対に避けたくて、だからこそミルドはひたすらにルーチェが戻ってくるのを大人しく待ち続けていた。
しかし──。
これはもう……戻ってこないのではないか?
いつまで経っても戻ってくる気配のないルーチェに、ミルドの脳裏をついそんな疑問が掠めた。
そもそも何の用事で出て行ったのか知らないが、それにしたって戻るのが遅すぎる。こんなにも人を待たせるのであれば、せめて休憩用の部屋を指示して行くとか、最低でも理由を告げてから行ってくれれば良かったのに。
不親切な言葉一つで置き去りにされた者がどんな気持ちで待たされるかなど、あの方は考えることすらしないのだろう。臣下というのはあくまでも臣下であって、決して『道具』などではないのだが。
普段の態度から見るに、あの方はどうもその辺のことが分かっていないような気がする。
「……なあ、氷依──」
そんな気持ちを吐露しようと、自分の隣で同じように膝をついたまま身動きしない女魔性に声をかけようとして──ミルドはふと、目の前の空間が歪んだような気がした。
「…………?」
なんだ? あまりにも同じ体勢で固まっていたから、疲労で目がおかしくなったのか?
そんなことを考え、何度か瞬きをして目を擦り、ミルドは改めて氷依へと目を向けようとした──刹那。
「氷依!」
見たこともない長身の男に喉を掴まれた氷依の姿が目に飛び込んできて、思わず大声を上げた。
誰だ? こいつ──。
「貴様! 氷依を離せ!」
いつ現れたのか、全く分からなかった。突如目の前に姿を現した長身の男。
だが今はそんなことより、氷依を助けるのが先決だ。
その思いのみで、ミルドは長身の男へと手を伸ばす。
しかし、その手は虚しく空を掻き、ミルドの身体はその男によって、いとも簡単に床の上を転がされてしまった。
「うわっ!」
「……邪魔をするな、人間」
呟くように告げられた一言。
だがそれのみで、相手が魔性であることを理解した。
何故……? どうして魔性がこんな所に?
床を転がり、壁に全身を打ちつけながら、ミルドは懸命に頭を働かせる。
仲間である氷依を連れ戻しに来たのか? 否、それだったら首を絞める必要はない。
魔性という仲間を裏切り、人間に味方した氷依を殺しに来たのか? その理由なら、今の状況と合致する。
ならばどうする……?
できることなら氷依を助けたいが、あっさり転がされてしまった手前、もう一度向かって行ったところで敵うはずはない。
だったら見捨てるか? 否、見捨てたところであの男の次の標的が自分になるだけかもしれない。
だとしたらどうする? あの男は、次にどういった行動に出る?
相手が魔性であるだけに、次の行動の予測がつかない。こんな時、せめて魔力封じの札があれば良かったのだが──。
と、そこまで考えた時、ミルドは先程ルーチェに渡した札のことを思い出した。
そうだ……あの札は確か、一枚だけまだ使えそうなやつが残っていたはず……。
それを返してもらおうと、素早く立ち上がり謁見の間から走り出る。
無論、未だ氷依を捕らえたままの長身の男が、そんなミルドの行動を見逃すはずなどなかったのだが──。
謁見の間で床に膝をついたまま微動だにせず、ミルドはただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
ルーチェには「適当に休憩していて」と言われたが、謁見の間には休憩できるような場所などない。
だったら他の場所で休憩をとるか? とも考えたが、謁見の間から出てしまえばルーチェが戻っても気付くことはできないし、そうなったらなったで間違いなく彼は不機嫌になるだろう。
彼の性格上わざわざ自分の元へ遣いを寄越すなんてことは絶対にしてくれないだろうし、もししてくれたとしても、『この僕に遣いを出させるなんて、君はいつからそんなにも偉くなったんだい?』などと嫌味たっぷりに言われることは間違いない。
それだけは絶対に避けたくて、だからこそミルドはひたすらにルーチェが戻ってくるのを大人しく待ち続けていた。
しかし──。
これはもう……戻ってこないのではないか?
いつまで経っても戻ってくる気配のないルーチェに、ミルドの脳裏をついそんな疑問が掠めた。
そもそも何の用事で出て行ったのか知らないが、それにしたって戻るのが遅すぎる。こんなにも人を待たせるのであれば、せめて休憩用の部屋を指示して行くとか、最低でも理由を告げてから行ってくれれば良かったのに。
不親切な言葉一つで置き去りにされた者がどんな気持ちで待たされるかなど、あの方は考えることすらしないのだろう。臣下というのはあくまでも臣下であって、決して『道具』などではないのだが。
普段の態度から見るに、あの方はどうもその辺のことが分かっていないような気がする。
「……なあ、氷依──」
そんな気持ちを吐露しようと、自分の隣で同じように膝をついたまま身動きしない女魔性に声をかけようとして──ミルドはふと、目の前の空間が歪んだような気がした。
「…………?」
なんだ? あまりにも同じ体勢で固まっていたから、疲労で目がおかしくなったのか?
そんなことを考え、何度か瞬きをして目を擦り、ミルドは改めて氷依へと目を向けようとした──刹那。
「氷依!」
見たこともない長身の男に喉を掴まれた氷依の姿が目に飛び込んできて、思わず大声を上げた。
誰だ? こいつ──。
「貴様! 氷依を離せ!」
いつ現れたのか、全く分からなかった。突如目の前に姿を現した長身の男。
だが今はそんなことより、氷依を助けるのが先決だ。
その思いのみで、ミルドは長身の男へと手を伸ばす。
しかし、その手は虚しく空を掻き、ミルドの身体はその男によって、いとも簡単に床の上を転がされてしまった。
「うわっ!」
「……邪魔をするな、人間」
呟くように告げられた一言。
だがそれのみで、相手が魔性であることを理解した。
何故……? どうして魔性がこんな所に?
床を転がり、壁に全身を打ちつけながら、ミルドは懸命に頭を働かせる。
仲間である氷依を連れ戻しに来たのか? 否、それだったら首を絞める必要はない。
魔性という仲間を裏切り、人間に味方した氷依を殺しに来たのか? その理由なら、今の状況と合致する。
ならばどうする……?
できることなら氷依を助けたいが、あっさり転がされてしまった手前、もう一度向かって行ったところで敵うはずはない。
だったら見捨てるか? 否、見捨てたところであの男の次の標的が自分になるだけかもしれない。
だとしたらどうする? あの男は、次にどういった行動に出る?
相手が魔性であるだけに、次の行動の予測がつかない。こんな時、せめて魔力封じの札があれば良かったのだが──。
と、そこまで考えた時、ミルドは先程ルーチェに渡した札のことを思い出した。
そうだ……あの札は確か、一枚だけまだ使えそうなやつが残っていたはず……。
それを返してもらおうと、素早く立ち上がり謁見の間から走り出る。
無論、未だ氷依を捕らえたままの長身の男が、そんなミルドの行動を見逃すはずなどなかったのだが──。
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