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第三章 旦那様はモテモテです
可愛らしい鬼
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「ね、ねぇジュジュ。あなたはメイドなのよね? なのに騎士の姿になる時があるの?」
分からないことはストレートに尋ねようと、私はジュジュを見つめながら問う。
さっきジュジュは騎士の姿でお辞儀をすることが多いと言っていたけれど、メイドとして働いていて、騎士の姿になることなど普通はない。
けれどその逆も然りで、騎士がメイドの格好をすることは、もっとあり得ないのだ──今ちょっとだけ、男性騎士がメイドの格好をしたところを想像してしまって、吹き出しそうになった。
「もしかして、メイドと騎士を兼任しているとか? そんな事をしていて体は大丈夫なの?」
見たところ疲れているようには見えないけれど、表に出していないだけで、体の内ではダメージを抱えているのかもしれない。
それだったら、メイドとしての仕事は多少減らしても良い──と言おうとしたのだけれど。
ジュジュはにっこり笑うと、こう言った。
「ご心配には及びません。奥様はお優しい方ですね……。あたくしはメイドと騎士を兼任しているわけではなく、メイドの仕事がお休みの日に騎士の訓練場に通っているだけなので、本業はメイド一本でございます」
「まぁ、騎士の訓練場に? それはどうして?」
まさかお姉様のように、想いを寄せる騎士がいるとか……?
などと不埒なことを、つい考えてしまう。
けれどジュジュは、そんな私の考えとはまったく違うことを、ほんのり頬を染めて──紛らわしい──話してくれた。
「メイドの仕事も好きなのですが、何というか……悪人をやっつけるのも大好きなので。ですからいつか悪人を倒すために力と技を磨こうと、無理を言って通わせていただいているというわけなのです」
「そ、そうなのね……」
いつ出会うかも分からない悪人を倒すために、休みを使って騎士の訓練場に通うなんて、中々できることではない。
しかも、騎士の訓練で性別はほぼ関係ないとされている。
そんな訓練に通うだけでも大変だと思うのに、他の曜日はメイドとして働いているだなんて。
「それだと休む暇がないのではないの? 疲労で体を壊したりなどは?」
「ただの一度もございません」
そこでポルテが会話に割り込んでくる。
「ジュジュはとーっても健康なんですよ! 訓練場に通えるようになるまでは、寧ろ体力を余らせてしまっていて。休んでいると逆に具合が悪くなるみたいなんです」
ね、ジュジュ。と言って笑うポルテ。
そんな彼女の言葉に少しだけ恥ずかしそうに頷く様子を見るに、どうやらそれは本当らしい。
だから私の部屋付きメイド兼護衛なのね。
そう言われてみると、ジュジュは身長が高いだけでなく、メイド服を着た体には、薄らとした筋肉がついているようにも見える。
訓練場に行けるのは週二回だけだとしても、きっと他の日もトレーニングのようなことをしているのだろう。
「私も、ちょっとだけ見習おうかな?」
軽い気持ちで言うと、
「「奥様は絶対にやめて下さい!!」」
と、声を揃えて止められてしまった。解せぬ。
「それでですね、この辺りでジュジュとの話がひと段落ついたと思うのですが……」
唐突に会話を区切るポルテ。
きた。
やっぱり忘れてなかった。
思わず私は身体を強張らせる。
「そろそろ、昨晩の夜会の話をお聞かせ願えますか?」
なんなら紅茶の準備もしてございます。と言って、部屋の隅にさりげなく置かれたワゴンを指し示す。
流石ポルテ。こういうところは抜かりない。
「できる侍女ね、ポルテ」
「伊達に奥様付きではありません」
「それを言うならあたくしも──」
「ジュジュ。話が逸れるから黙っていてもらっても? 今は必要とされていないわ」
ビシッとジュジュを黙らせるポルテ。
年齢的には明らかに彼女が下なのに、立場的には上なのね……。
こういうところは普段の可愛らしい彼女とは違い、格好良いと思ってしまう。
恐らくこれが俗に言う『ギャップ萌え』ってやつ? 覚えておこう。
「で? 奥様、で? 昨晩の夜会は如何だったんですか? できるだけ詳しくお聞かせ下さい」
「ええっ!? 詳しく話すの?」
サラッと簡単に話して終わらせるつもりだったのに、それを話す前から禁止されてしまい、狼狽える。
けれどポルテは、さも当然というようにキラッキラの笑顔を浮かべて言い放った。
「当たり前じゃないですか! 昨夜奥様がお姫様抱っこでご帰宅されてから今までずーーーーーーーっと! 夜会の話を聞きたくて聞きたくて堪らなかったんですよ? なのに奥様はすっかりジュジュとのお話に夢中になられて……。ここまで待たされたんですから、何から何まで、細部まで事細かくお話しいただかなければ、満足できません!」
「そ、そう……。でも申し訳ないのだけれど、あまり細部までは記憶に残っていないかもしれないわ。なにせ昨日はほら、リーゲル様との初めての夜会だったわけだし……」
嘘だ。
私は自分でもかなり記憶力の良い方だと思うし、まるで夢のようだった昨日の出来事は、ほぼ完璧に記憶している。
でも人に話すのは恥ずかしいから、そう誤魔化そうとしたのだけれど。
「奥様そんなぁ……。楽しみにしていたのに酷いです……」
残念がるポルテに、ジュジュが余計な一言を言った。
「ご安心下さい。昨日の夜会の出来事は、単なる第三者として、あたくしが細部まで悉く記憶してございます。ですから、奥様があやふやな部分に関してはあたくしが代わりにご説明できるかと」
「ちょっ……ポルテ! ここは「必要とされていないわ」と言う場面ではなくて?」
慌ててポルテを振り返り、止めるべきでは? と言ってみたものの。
ポルテは、満面の笑みとともに首を横に振った。
「いいえ奥様。今はとても必要とされている場面でございましょう?」
可愛らしい鬼が、そこにいた。
分からないことはストレートに尋ねようと、私はジュジュを見つめながら問う。
さっきジュジュは騎士の姿でお辞儀をすることが多いと言っていたけれど、メイドとして働いていて、騎士の姿になることなど普通はない。
けれどその逆も然りで、騎士がメイドの格好をすることは、もっとあり得ないのだ──今ちょっとだけ、男性騎士がメイドの格好をしたところを想像してしまって、吹き出しそうになった。
「もしかして、メイドと騎士を兼任しているとか? そんな事をしていて体は大丈夫なの?」
見たところ疲れているようには見えないけれど、表に出していないだけで、体の内ではダメージを抱えているのかもしれない。
それだったら、メイドとしての仕事は多少減らしても良い──と言おうとしたのだけれど。
ジュジュはにっこり笑うと、こう言った。
「ご心配には及びません。奥様はお優しい方ですね……。あたくしはメイドと騎士を兼任しているわけではなく、メイドの仕事がお休みの日に騎士の訓練場に通っているだけなので、本業はメイド一本でございます」
「まぁ、騎士の訓練場に? それはどうして?」
まさかお姉様のように、想いを寄せる騎士がいるとか……?
などと不埒なことを、つい考えてしまう。
けれどジュジュは、そんな私の考えとはまったく違うことを、ほんのり頬を染めて──紛らわしい──話してくれた。
「メイドの仕事も好きなのですが、何というか……悪人をやっつけるのも大好きなので。ですからいつか悪人を倒すために力と技を磨こうと、無理を言って通わせていただいているというわけなのです」
「そ、そうなのね……」
いつ出会うかも分からない悪人を倒すために、休みを使って騎士の訓練場に通うなんて、中々できることではない。
しかも、騎士の訓練で性別はほぼ関係ないとされている。
そんな訓練に通うだけでも大変だと思うのに、他の曜日はメイドとして働いているだなんて。
「それだと休む暇がないのではないの? 疲労で体を壊したりなどは?」
「ただの一度もございません」
そこでポルテが会話に割り込んでくる。
「ジュジュはとーっても健康なんですよ! 訓練場に通えるようになるまでは、寧ろ体力を余らせてしまっていて。休んでいると逆に具合が悪くなるみたいなんです」
ね、ジュジュ。と言って笑うポルテ。
そんな彼女の言葉に少しだけ恥ずかしそうに頷く様子を見るに、どうやらそれは本当らしい。
だから私の部屋付きメイド兼護衛なのね。
そう言われてみると、ジュジュは身長が高いだけでなく、メイド服を着た体には、薄らとした筋肉がついているようにも見える。
訓練場に行けるのは週二回だけだとしても、きっと他の日もトレーニングのようなことをしているのだろう。
「私も、ちょっとだけ見習おうかな?」
軽い気持ちで言うと、
「「奥様は絶対にやめて下さい!!」」
と、声を揃えて止められてしまった。解せぬ。
「それでですね、この辺りでジュジュとの話がひと段落ついたと思うのですが……」
唐突に会話を区切るポルテ。
きた。
やっぱり忘れてなかった。
思わず私は身体を強張らせる。
「そろそろ、昨晩の夜会の話をお聞かせ願えますか?」
なんなら紅茶の準備もしてございます。と言って、部屋の隅にさりげなく置かれたワゴンを指し示す。
流石ポルテ。こういうところは抜かりない。
「できる侍女ね、ポルテ」
「伊達に奥様付きではありません」
「それを言うならあたくしも──」
「ジュジュ。話が逸れるから黙っていてもらっても? 今は必要とされていないわ」
ビシッとジュジュを黙らせるポルテ。
年齢的には明らかに彼女が下なのに、立場的には上なのね……。
こういうところは普段の可愛らしい彼女とは違い、格好良いと思ってしまう。
恐らくこれが俗に言う『ギャップ萌え』ってやつ? 覚えておこう。
「で? 奥様、で? 昨晩の夜会は如何だったんですか? できるだけ詳しくお聞かせ下さい」
「ええっ!? 詳しく話すの?」
サラッと簡単に話して終わらせるつもりだったのに、それを話す前から禁止されてしまい、狼狽える。
けれどポルテは、さも当然というようにキラッキラの笑顔を浮かべて言い放った。
「当たり前じゃないですか! 昨夜奥様がお姫様抱っこでご帰宅されてから今までずーーーーーーーっと! 夜会の話を聞きたくて聞きたくて堪らなかったんですよ? なのに奥様はすっかりジュジュとのお話に夢中になられて……。ここまで待たされたんですから、何から何まで、細部まで事細かくお話しいただかなければ、満足できません!」
「そ、そう……。でも申し訳ないのだけれど、あまり細部までは記憶に残っていないかもしれないわ。なにせ昨日はほら、リーゲル様との初めての夜会だったわけだし……」
嘘だ。
私は自分でもかなり記憶力の良い方だと思うし、まるで夢のようだった昨日の出来事は、ほぼ完璧に記憶している。
でも人に話すのは恥ずかしいから、そう誤魔化そうとしたのだけれど。
「奥様そんなぁ……。楽しみにしていたのに酷いです……」
残念がるポルテに、ジュジュが余計な一言を言った。
「ご安心下さい。昨日の夜会の出来事は、単なる第三者として、あたくしが細部まで悉く記憶してございます。ですから、奥様があやふやな部分に関してはあたくしが代わりにご説明できるかと」
「ちょっ……ポルテ! ここは「必要とされていないわ」と言う場面ではなくて?」
慌ててポルテを振り返り、止めるべきでは? と言ってみたものの。
ポルテは、満面の笑みとともに首を横に振った。
「いいえ奥様。今はとても必要とされている場面でございましょう?」
可愛らしい鬼が、そこにいた。
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