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第三章 旦那様はモテモテです

王女殿下がやって来た

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「おおおおおおお王女殿下ですってぇ!?」

 あまりの驚きにひっくり返った声でもって、私は叫んだ。

「なんでなんで? 王女殿下が何をしに来たの? ハッ! まさかリーゲル様に会いに来たとか?」

 答えを求めて、恐る恐るポルテを見る。

 けれど彼女は、両手と頭をぶんぶんと勢い良く横に振り、否定した。

「ご用件まではお聞きしていません。私はただ、奥様の朝食の用意を頼みに食堂へ行こうとしたところ、途中で王女殿下をお見かけし、慌てて戻ってきた次第で」

 つまり、私の朝食は未だに何の用意もされていないということか。なんてこと。

 軽く絶望に襲われて、空腹を訴え出したお腹に目をやる。今日のご飯はまだみたいよ、頑張って。

「もしやと思いますが、奥様に宣戦布告をしに来られたというわけではありませんよね?」
「わあっ!」

 突然話に加わってきたジュジュが耳元で喋るものだから、驚いて大声をあげてしまった。

 ほんと、勘弁してほしい。

 ただでさえこっちは王女殿下が来たことで信じられないくらい早く脈が打ってるのに、この上更に私の心臓に負荷をかけようとするなんて。

 実はジュジュは王女殿下の手の者で、私を暗殺しようとしていたり……? 

 冗談混じりに一瞬疑うも、すぐに『ないな』と切り捨てた。

 そんなことで人が殺せるなら、世の中死体だらけになってしまう。ここは落ち着かなきゃ。

 なんとか気持ちを落ち着けようと、深呼吸をしてみる。

 すると、隣でポルテも深呼吸を始め、二人で仲良くスーハースーハーした。

 ちなみにジュジュは、つまらなさそうな顔をして、再び部屋の隅へと移動して──しかけたところで、何故か部屋の前に、突然リーゲル様が現れた。

「扉が開いているが……君達はなにをしているんだ?」

 ポルテと二人、揃って深呼吸を繰り返しているのを見て、不思議に思ったらしい。

 怪訝そうに眉を顰めながら、尋ねられた。

「ええとですね、朝からちょっと色々ありまして……気持ちを落ち着けようと深呼吸をしておりました」

 隠すようなことは何もないため、すらすらとそう答える。

 けれど、僅かに顔を顰めたかと思うと、リーゲル様はポルテへと目を向けた。

「ポルテ、本当か?」

 えっ! どうしてポルテに確認するのかしら。 

 もしかして私って、リーゲル様に信用されていないとか?

 だとすると落ち込むな……と思っていると、そんな私の気持ちをポルテが代弁してくれた。

「奥様の仰ったことに間違いはありませんが……何故私に確認を?」

 問われて、リーゲル様が気まずそうに私を見る。

 あ、その顔は少しだけ罪悪感を感じておられますわね? 無関心じゃなくて良かった。

 意味もなく疑われ、ましてや無関心ではかなしすぎるもの。と、涙を拭う真似をする。

 けれど、疑われた原因はどうやら私にあったらしく、リーゲル様は再びポルテを見ると、こう仰った。

「グラディスは、偶に私に嘘を吐いて誤魔化すことがある。だから確認しただけだ」

 うっ……。何も言い返せない。

 ポルテとジュジュから、刺すような視線を感じる。

 誓って私はリーゲル様に嘘を吐いているわけではないのよ?

 ただ、恥ずかしくて知られたくない部分を濁して誤魔化そうとしたことがあるぐらいで……。

 心の中で言い訳するも、きっと二人はそれを言ったところで頷いてはくれないだろう。

 たとえ恥ずかしかろうと何だろうと、真実を話さなければ相手からの信用は得られないのだから。

『それは疑われて当然』だと、二人の目が言っている。うう、二人の目力怖い。

「それで旦那様、奥様に何かご用がおありでしたか?」

 落ち込む私と違い、すぐに対応へと移ることのできるポルテは流石だ。

 彼女の言葉を受けて、リーゲル様は何かを思い出したかのような顔をすると、すぐに私の方を向き、口を開いた。

「今し方王女殿下が来られたんだが、まだ朝食をとっていないということでお誘いしたんだ。家令のマーシャルに聞いたら、今日は君もまだだと言うから、誘いに来たんだが……一緒にどうだろうか」

「え!? ええっと……」

 どうしよう。行きたいけど行きたくない。

 三人でお食事をして、王女殿下とリーゲル様の仲良しぶりを見せ付けられるのは、正直嫌だ。

 かといって、行かずに我慢して、二人で何してるんだろう? って気にし続けるのも嫌だし……。

 返答に窮し、俯いてしまう。

 そんな私の態度を否定と受け取ったのか、リーゲル様の残念そうな声が聞こえた。

「昨日はかなり無理をさせてしまったから、まだ食堂に行けるほど回復していないよな……。悪かった。君は部屋で休んでいてかまわないから、殿下には私が──」
「行きます!」

 何故、そんなことを言ったのか。

 考えても不明だけれど、リーゲル様の口から『殿下』という言葉が飛び出した瞬間、私は彼の言葉を遮って、行きます宣言を声高らかにしていたのだった──。





 
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