【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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7 残念なイケメン

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 どうしよう……なんて言ったら、を手に入れられる?

 この場合、なんて言うのが正解なんだろう。

 にこにこと天使のような笑みを浮かべる令息を見つめ、私は無表情を装いつつも、懸命に考える。

 もういっそのこと、婚約破棄について何もかもを話してしまって、あの紙を見せて貰おうか。いや、先に話すと隠されてしまうかもしれないから、そこは何とか交渉して、こちらに有利になるように話を持っていかなければ。

 でも、どうやって?

 腹の探り合いや駆け引きなんてしたことのない私が、どこからどう見ても腹黒にしか見えない彼を相手に、交渉を有利にすすめるなどできるだろうか。

 ──できるわけがない。

 自分の問いを、即座に否定してしまう自分が悲しい。けれど、どう考えても私が彼を説き伏せるのは不可能に等しいだろう。

 だったら、ここは──。

「あー、もう分かった! 話したくない気持ちはよく分かったから! 今回は俺が譲る!」

 私が漸く一つの案を導き出したと同時に、待ちきれなくなったらしい令息が、バン! と音を立てて、件の紙を私の机の上に叩き付けてきた。

 どうでも良いけど、彼はちょっと気が短すぎるような気がする。上手いこと相手を罠に嵌めても、気が短すぎて自分からボロを出してしまいそうなタイプだ。

 今回だって、私に対して切り札と言っても過言ではないものを持っていたのに、それを有効に使うでもなく、こうも易々と差し出してくるなんて。完全に他人事ではあるけれども、「貴方ちょっと大丈夫?」と言いたくなってしまう。

 けれど私的には、これで欲しいものが手に入るので、もちろん何も言うつもりはない。

 余計なことを言って、せっかく手に入れられたものを取り上げられるようなことにでもなったら、意味がないし。

「これ……見ても良いの?」

 後から文句を言われては敵わない。

 一応確認してからにしようと尋ねれば、彼は大きく首を縦に振ってくれた。

「そもそも、ほぼ初対面の相手に婚約破棄の話なんてできるわけなかったよな。俺もつい面白そうだと思って──」
「面白そうだと思って?」

 聞き捨てならない。

 そう思った瞬間、彼の言った言葉を、そのまま口に出して繰り返していた。途端に、「しまった」という表情をする令息。

「貴方……随分と失礼な性格をしていらっしゃいますのね。ちなみにですが……デリカシーという言葉は、ご存知でいらっしゃいます?」 

 若干頬が引き攣るのを感じながらも、ここが淑女教育の見せどころとばかり、私はにこやかに微笑んで見せる。

 どんな時でも内心を隠し、穏やかに微笑むこと──その部分に関してだけは、淑女教育の先生に文句なしの満点をもらったのだから。

「えっと……デリカシーだろ? もちろん知ってる。知ってるけど……これってそういう問題?」

 そんなことを聞き返してくる時点で、デリカシーに欠けていると暴露しているようなものなのに、彼はまったくそれに気付いていないらしい。

 どこからどう見ても女性を惹きつけるような見た目をしているのに、この性格はなんなのだろう。

 一体どんな育ち方をしたら、こんなにも残念なイケメンが出来上がるのだろうか。

 もう少し中身が伴っていたら、彼もきっと今のレスターのように、日々令嬢達に追いかけ回される事になっていただろうに。

 彼に婚約者がいるかどうかは知らないし、興味もないが、この性格と彼の気の短さは、御愁傷様としか言いようがない気がする。

 見た目重視で性格はどうでも良いというご令嬢がいたら、需要はあるのかもしれないけれど。

 そんな気持ちが、どうやら私の表情に出ていたらしい。

 彼は私の机の端に肘をつくと、拗ねたように唇を尖らせた。

「言っとくけど、思ってること全部顔に出てるからな? どうせ俺を『残念なイケメン』とか『顔面の無駄遣い』とかって思ってるんだろ? それ、うちの家族と言ってること同じだから」
「え? なんで分かっ──」
 
 反射的に言い掛けて、慌てて口を押さえる。が、当然遅く、私は彼からジトっとした目を向けられてしまった。

「……やっぱりな」
「い、いえあの、今のはそういう意味ではなく……。あ、そ、そうだ。貴方の名前は……」

 デリカシーに欠けるなどと言ったくせに、自分も同じようなことを口にしそうに──既に手遅れな気がしないでもない──なり、なんとか誤魔化そうと、私は彼に渡された手元の紙に目を落とす。
 
 喉から手が出るほどに欲しかった、クラス名簿の数字を元に、腹黒そうな隣の席の令息の名前を確認した私は──瞬間、息を呑んだ。








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