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鉢の旅路
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暖かい陽射しを浴びながら、街道に沿ってぽくぽく馬を歩かせる。
時折り小鳥のさえずりが聞こえたり、サアッと風が吹き抜けたりして気持ちがいい。
鍛えられた王国軍によって野生の下等な魔物も駆逐されて久しく、街道沿いはのどかなものだ。
魔物の王国であり、多種多様な種族が住むガストン王国とはいえ、はびこる魔物を従え悪魔の力を振るっていたのはもはや遥か昔のこと。
凶暴な魔物がいなくなり、戦うことの少なくなった今では、私たち悪魔も姿形に昔の面影があるばかりで、魔法も使えないし人間よりも少し頑丈という程度だ。
旅に出るため一応の武装はしてきたが、これを振るうことは恐らくないだろう。
「いや~のどかね~」
「すー……すー……」
「って寝るなあああああ!」
私の放った華麗な裏拳によって、ルミーナは馬だけを残して綺麗に後ろに吹っ飛んでいった。
しばらくゴロゴロと地面を回転してから止まったルミーナは、寝ぼけ眼をこしこし擦って起き上がった。
「何するんですか~ふああ」
「何するんですかじゃないわよ!あんた私の護衛でしょ!第一、馬に乗ったまま寝るなんて危ないじゃない!」
「そうですね。いきなり突き落とされるかもしれませんし」
「チッ」
ルミーナは悪魔族の中でもとても頑丈だ。
彼女が私付きになってから、怪我をしているの見たことがない……あれ?私付きに……いつなったんだっけ?
そう、あれは初めてルミーナと出会って……
……ルミーナとはいつ出会ったんだっけ……
「……姫様!姫様!」
「え?ごめん、何か言った?」
ルミーナの声に、私は物思いに深く沈んでいた意識を急上昇させた。
あれ?私、いま何を考えていたんだっけ。
「お疲れですか~?ちょうどいい泉もあるし、休憩しましょう」
眉根を寄せる私に、ルミーナはにっこりと微笑んだ。
街道沿いの泉の近くで、馬に水を飲ませる。
適当な木に手綱を軽く結びつけ、私は泉の縁の草原に座り込んだ。
なんだか頭がぼんやりする。
「馬に酔ったのかしら。乗り慣れてるはずなのに、変ね」
幼い頃から慣れ親しんでいる愛馬に乗って酔うなんて初めてだ。
頭の靄を振り切ろうと、私はブン!と強めに首を振った。
「うおっ」
「姫さまっ!?」
忘れてました、遠心力。
鉢に振り回されるように横に倒れてしまった。
よっぽど疲れてるのかな……
そのままぼんやりしていると、ルミーナが苦笑しながら覗き込んできた。
「なーにしてるんですか!ほら、起きて下さい!」
「ええ、ありが……ひゃ!」
ルミーナの手にすがって体を起こそうとして、その冷たさに驚いた私は思わず手を離してしまった。
何故かゾクリと背筋が寒くなり、私は自分の手を温めるように何度もさすった。
「……姫様、大丈夫ですか?」
「え、ええ!なんでもないわ。少し疲れているみたい」
その時、急に日が差して逆光になり、ルミーナの顔に影が差した。
何故だろう。いつも隣にいたルミーナが、なんだかとても恐ろしいものに感じた。
「ほら、もうすぐイバラの城の近くの街が見えてきますよ!あの丘を越えたらすぐです!姫様、がーんば!がーんば!」
「うるっさいな!言われなくても地図見たらわかるわよ!ったくせっかくの景色が台無しじゃない!」
やはり疲れていたのだろう。
結局あの後、泉のほとりで野営をし、翌朝になったらすっかり元気になった。
連日の移動の疲れが溜まっていたんだわ。
こんな間抜けなルミーナが怖いなんてあるわけ無いのに、私ったらバカね。
その後は順調に旅程を消化した私達は、イバラの城の目前にせまっていた。
丘の上に到達するとルミーナの言う通り街が見え、そのしばらく先にはイバラの城がある。
イバラの城を見学しに行くツアー客の為に作られたこの街は、街道沿いの街や王都のように大きくはないが、旅行客のもてなしに特化した発展を遂げている。
出発前に読み漁った観光ガイドによれば、街の門から続く目抜き通りにはお土産店か立ち並び、お土産品の人気商品はイバラ饅頭だそうだ。
切っても切っても無限に生えてくるイバラをみじん切りにした餡が入っている饅頭で、イバラのエキスが美肌に効くと評判だ。
「お土産にイバラ饅頭買わないとね!美味しいといいなあ」
「そうですね~美肌に良いらしいし、リリアナ様が喜びそうですね」
「チッ!ませガキが……」
妹のリリアナは産まれてたった七年の幼女のくせに、口を開けば美容がどうのとか、美髪がなんたらとか本当にうるさい。
こっちは鉢かぶってるんだから、美肌だろうが美髪だろうが見えないっつーの。
それなのにいちいち新しい美容グッズを見せに来るので本当に腹立たしい。
「まあ、美味しかったら買って行ってあげるか。お土産買わなかったらまたギャーギャーうるさいだろうし。……でも、城まで帰るのに結構かかるわよね。日持ちするのかしら」
普通の饅頭がそんなに日持ちするとは思えない。
どうなんだろう、と首を傾げていると、ルミーナの能天気な声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ~観光地のお土産ってビックリするほど保つじゃないですか」
「確かに」
とても体に悪そうだ。
時折り小鳥のさえずりが聞こえたり、サアッと風が吹き抜けたりして気持ちがいい。
鍛えられた王国軍によって野生の下等な魔物も駆逐されて久しく、街道沿いはのどかなものだ。
魔物の王国であり、多種多様な種族が住むガストン王国とはいえ、はびこる魔物を従え悪魔の力を振るっていたのはもはや遥か昔のこと。
凶暴な魔物がいなくなり、戦うことの少なくなった今では、私たち悪魔も姿形に昔の面影があるばかりで、魔法も使えないし人間よりも少し頑丈という程度だ。
旅に出るため一応の武装はしてきたが、これを振るうことは恐らくないだろう。
「いや~のどかね~」
「すー……すー……」
「って寝るなあああああ!」
私の放った華麗な裏拳によって、ルミーナは馬だけを残して綺麗に後ろに吹っ飛んでいった。
しばらくゴロゴロと地面を回転してから止まったルミーナは、寝ぼけ眼をこしこし擦って起き上がった。
「何するんですか~ふああ」
「何するんですかじゃないわよ!あんた私の護衛でしょ!第一、馬に乗ったまま寝るなんて危ないじゃない!」
「そうですね。いきなり突き落とされるかもしれませんし」
「チッ」
ルミーナは悪魔族の中でもとても頑丈だ。
彼女が私付きになってから、怪我をしているの見たことがない……あれ?私付きに……いつなったんだっけ?
そう、あれは初めてルミーナと出会って……
……ルミーナとはいつ出会ったんだっけ……
「……姫様!姫様!」
「え?ごめん、何か言った?」
ルミーナの声に、私は物思いに深く沈んでいた意識を急上昇させた。
あれ?私、いま何を考えていたんだっけ。
「お疲れですか~?ちょうどいい泉もあるし、休憩しましょう」
眉根を寄せる私に、ルミーナはにっこりと微笑んだ。
街道沿いの泉の近くで、馬に水を飲ませる。
適当な木に手綱を軽く結びつけ、私は泉の縁の草原に座り込んだ。
なんだか頭がぼんやりする。
「馬に酔ったのかしら。乗り慣れてるはずなのに、変ね」
幼い頃から慣れ親しんでいる愛馬に乗って酔うなんて初めてだ。
頭の靄を振り切ろうと、私はブン!と強めに首を振った。
「うおっ」
「姫さまっ!?」
忘れてました、遠心力。
鉢に振り回されるように横に倒れてしまった。
よっぽど疲れてるのかな……
そのままぼんやりしていると、ルミーナが苦笑しながら覗き込んできた。
「なーにしてるんですか!ほら、起きて下さい!」
「ええ、ありが……ひゃ!」
ルミーナの手にすがって体を起こそうとして、その冷たさに驚いた私は思わず手を離してしまった。
何故かゾクリと背筋が寒くなり、私は自分の手を温めるように何度もさすった。
「……姫様、大丈夫ですか?」
「え、ええ!なんでもないわ。少し疲れているみたい」
その時、急に日が差して逆光になり、ルミーナの顔に影が差した。
何故だろう。いつも隣にいたルミーナが、なんだかとても恐ろしいものに感じた。
「ほら、もうすぐイバラの城の近くの街が見えてきますよ!あの丘を越えたらすぐです!姫様、がーんば!がーんば!」
「うるっさいな!言われなくても地図見たらわかるわよ!ったくせっかくの景色が台無しじゃない!」
やはり疲れていたのだろう。
結局あの後、泉のほとりで野営をし、翌朝になったらすっかり元気になった。
連日の移動の疲れが溜まっていたんだわ。
こんな間抜けなルミーナが怖いなんてあるわけ無いのに、私ったらバカね。
その後は順調に旅程を消化した私達は、イバラの城の目前にせまっていた。
丘の上に到達するとルミーナの言う通り街が見え、そのしばらく先にはイバラの城がある。
イバラの城を見学しに行くツアー客の為に作られたこの街は、街道沿いの街や王都のように大きくはないが、旅行客のもてなしに特化した発展を遂げている。
出発前に読み漁った観光ガイドによれば、街の門から続く目抜き通りにはお土産店か立ち並び、お土産品の人気商品はイバラ饅頭だそうだ。
切っても切っても無限に生えてくるイバラをみじん切りにした餡が入っている饅頭で、イバラのエキスが美肌に効くと評判だ。
「お土産にイバラ饅頭買わないとね!美味しいといいなあ」
「そうですね~美肌に良いらしいし、リリアナ様が喜びそうですね」
「チッ!ませガキが……」
妹のリリアナは産まれてたった七年の幼女のくせに、口を開けば美容がどうのとか、美髪がなんたらとか本当にうるさい。
こっちは鉢かぶってるんだから、美肌だろうが美髪だろうが見えないっつーの。
それなのにいちいち新しい美容グッズを見せに来るので本当に腹立たしい。
「まあ、美味しかったら買って行ってあげるか。お土産買わなかったらまたギャーギャーうるさいだろうし。……でも、城まで帰るのに結構かかるわよね。日持ちするのかしら」
普通の饅頭がそんなに日持ちするとは思えない。
どうなんだろう、と首を傾げていると、ルミーナの能天気な声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ~観光地のお土産ってビックリするほど保つじゃないですか」
「確かに」
とても体に悪そうだ。
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