鉢かぶり姫の冒険

ぽんきち

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雪の美少女

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「大丈夫よ!あなたが助けてくれたのね?あなたは……あら?どこにいるの?」

声はすれども姿は見えず。
部屋の中に響くのはか細く可憐な声のみで、どこにもその姿はない。

「うーむ。面妖な。幽霊族か妖精族のたぐいでしょうか。あ、このお茶美味しいですね」

いつの間にか起きていたルミーナが紅茶を啜りながら呟いた。
幽霊族……獣族やエルフ、ドワーフなど様々な種族の混在するガストンでも、妖精族と並んで希少な種族である。そもそも数が少ない上、幽霊族や妖精族は臆病であまり人前に出てくる事がないのだ。

「妖精族……とっても可愛らしいって聞くわね!ねえ、聞いている?あなたは妖精なの?姿を現してくれないかしら」

妖精族は特に可愛らしい外見をしていると有名だ。それが本当なら是非会ってみたい。
私はワクワクしながら問いかけた。こんなに可愛い声の持ち主だ。きっと姿形も可愛いに違いない。

『妖精族……じゃないの。私に近付くと凍っちゃうから、出て行くのはできないの』

困ったようなその言葉に、私とルミーナは顔を見合わせた。
凍りつく?……なんだか聞いた事のある設定だ。

「……なんか、聞いた事あるわね」

「ですね。……でも、ここら辺に昔住んでいた人間たちと違って、私たちは凍らないと思いますよ。人間よりも頑丈ですから」

おとぎ話に出てきた雪の女王がいた頃は、恐らくこの付近には人間族が住んでいたのだろう。しかし彼らはここよりもずっと南方の現人間領に移り住み、今は暑さ寒さに強い我々悪魔族などの魔族が住みついている。

『……凍らない?お姉ちゃん達、凍らないの……?本当?』

「ええ。凍らないわ」

その言葉に誘われるように、キラキラと輝く雪の結晶が部屋の一点に集中する。
光り輝く雪の中から出てきたのは……波打つ白銀の長い髪に、まさに雪のように白い肌を持つ、小さな女の子だった。
少女は真っ白くふわっとしたドレスに身を包み、小さな頭の上には氷で出来たティアラがちょこんと載っている。

モジモジしながら、はにかむように笑うその姿は可憐な花のようで……なんというか、もうたまらん感じだった。

「えへ……ひととお話しするの、初めてなの。会うのも初めて。嬉しいな」

少女がコテンと首を傾げて笑った時、私の理性がぶっ飛んだ。

「…………!があわいいいいいいいあ!たまっ!たまらん!はあはあはあ、撫でてもいいですか?いいですか?」

「姫様!落ち着いて!コラ、お客さん、お触り禁止ですよ!」

ルミーナが私の腰をガッチリ掴んで止めてくる。
くっ!なんという怪力……!

「だってうちの妹と違って可愛すぎるでしょう!なんという天使!」

「リリアナ様は、あれはあれで完成形なんです!ほら、怯えちゃってますよ!」

「ハッ!」

見れば美少女は小動物のように縮こまっていた。
私は慌てて緩みまくっていた表情を引き締めると、笑顔を浮かべる。

「ゴメンね~ついつい理性が……大丈夫だよ~怖い事しないからこっちにおいで~」

「……完全に変態ですね」
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