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南の国編
幕間 デリック、拾われる③
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その後、床に転がった連中は全員騎士団に突き出された。デリックも同様に捕縛されたが、団員とは別の牢に入れられている。リリアンが庇ったから比較的丁寧な扱いを受けているのと、主張が各々異なるからだ。デリックは団員の一部が暴挙に出たと言い、屋敷に押し入った団員は団全体の目的だったと主張した。それを確かめる為にもアルベルトがドルマを締め上げたのだが、ドルマの口からそれが語られる事はなかった。聞き出す前にドルマは喋れなくなってしまったのだ。
それで唯一大人しく話のできるデリックに事情聴取が行われたが、デリックはそこで取引を持ち掛ける。作戦に参加しなかった者も団には居る。その反ドルマ派には罪を問わないのなら、全て話すと告げたのだ。
アルベルトは渋々ではあったがそれを了承した。
ただし、リリアンに無体を働いた連中には容赦しなかった。アジトの場所を聞き出したアルベルトは自ら赴き、何もかもを粉砕して燃やし尽くしてしまった。
積極的に計画に参加した者にも同様に厳しい対処を行う。エル=イラーフ王国の法律に則ってではあったが、とにかく罪は重くなった。牢から生きて出られる者はいないだろう。
後日、ベンジャミンからそう聞かされたデリックだったが、意外と動揺はしなかった。
「俺はどうなるんで?」
「あなたの事は、お嬢様が気に掛けていますから。それも旦那様の気分次第でしょうが」
「……そうかい」
「そう悲観せずとも、作戦に参加していない方は無事ですよ」
「でなきゃ困る」
「そうですな」
そんなデリックの様子に、ふむ、とベンジャミンは腕を組む。これまで観察していたが、反抗的な態度は取らず従順だ。他に接触した前団長派という連中も、デリックを庇う者が多かった。
そういう人間だからだろうか。リリアンも、デリックに対しては好意的だった。今もこうして牢を訪れ、彼の様子を確かめたいと言うくらいには関心があるようだ。
アルベルトが後始末をしている間、リリアンは大人しく屋敷で過ごしていた。あんな事があった後なので警護は増員され、滞在する宿も別の建物に移っている。
シルヴィアとレイナードが室内で、ボーマンとヴァーミリオン家の兵が室外を。エル=イラーフ王国から借り受けた騎士が、屋敷の外を警戒していた。襲撃された宿は、貴族相手に商売をしており、実績のある業者だった。なのに誘拐騒ぎが起きたとあって、業界は揺れに揺れた。他国の貴族が狙われたということもあって、国へも苦情が入った。その結果、かなりの人員が割り裂かれ、警備の方は万全となったのだが。騎士が出入りする屋敷はいささか物々しい雰囲気に覆われていた。
リリアンの行動を制限しないよう最善は尽くされていたが、肝心のリリアンはどこか気落ちしたままだ。目敏くそれを察知したアルベルトが尋ねれば、リリアンは自分を助けてくれた人に礼を述べたいとそう言った。
そうして騎士団の地下牢を訪れた。鉄格子の向こうの男は、最後見た時と同じ服装をしていた。くたびれてはいたものの怪我をしている様子はなく、その事にリリアンはほっとする。
話し終わったらしいベンジャミンが振り返ったので、リリアンは一歩前に出た。
「あの、お礼をいいたくて」
そう言うと、男——デリックはぽかんと口を開ける。
「……は?」
「あの時は、わたくしとごえいを助けてくださって、ありがとうございます」
そうしてぺこりと頭を下げるリリアン。まさか礼を言われるとは思っていなかったデリックは言葉が出てこない。
「あの……?」
瞬くデリックに、リリアンは首を傾げた。心配しているような仕草だ、デリックの驚きは深いものになる。
これがアルベルトだったら優しさに打ちひしがれ天を仰ぐだろうが、出会って間もないデリックはそうでもなかった。ただ、煌びやかなドレスを纏う令嬢というものをこれだけ間近で見た事がなかったし、そんな存在に感謝されるとは想像していなかった。
というか、デリックがリリアンを助けたのは、団員達を止める為だ。その身を案じていたわけではない。
だが、巻き込まれながらもデリックへ感謝をするような子供が、酷い目に遭わなくてよかったと思ったのも事実である。
「いや、無事で良かった。迷惑かけてすまなかったな」
「そんなこと」
思っていたより優しげな声が出たのに自分でデリックは驚いた。それに警戒心が削がれたらしいリリアンが更に足を踏み出そうとして、咄嗟にボーマンが間に入る。その際ちらりと視線が合った。ボーマンの目には疑いが含まれており、それがかえってデリックを安堵させる。幼い子供を会わせるような連中だ、危機感が無いのではと疑っていたデリックは、妙に落ち着いた気分でそれを眺めていた。
リリアンは阻まれたのに驚いたようだったが、すぐに落ち着いた。けれども表情は一変、固いものになっている。
それに慌てたのはアルベルトだ。
「どどどどうしたリリアン!?」
「……おとうさま。このかたはどうなるんですか?」
静まり返った牢に、リリアンの声が響く。
「これまで、このかたがなにをしていたかは、分からないけど。でも、わたくしを助けてくれたのはじじつです。本当にわるい人だったら、きっとそんなことはしないわ」
「……ふむ」
言って、アルベルトは腕を組んだ。
(聞く限りでは使えない男というわけでもなさそうだ。多少、調整は必要になるが……)
デリックはエル=イラーフ王国で処罰を受ける。刑の重さは、はっきり言ってヴァーミリオン家の裁量次第だった。リリアンを狙った組織の一員であるから、例え本人にその気が無くともアルベルトは容赦しないつもりだった。けれども肝心のリリアンがそれを止めるのなら、アルベルトはデリックを生かさないとならない。
よし、とアルベルトは頷き、牢の中の男へ向かってこう言った。
「貴様を雇ってやる。その命、リリアンに捧げるがいい」
「……は?」
目を丸くしたのはデリックだ。だが、リリアンも驚いた顔をしている。ぽかんと父親を見上げていた。
「あーいや、そうか、そういう意味か」
それでデリックは言われた意味を理解する。
いくら捜査に協力したとは言え、デリックが犯罪組織に所属していたのは間違いない。しかもその組織の人間が貴族を襲ったとあってはどの道重罪だ、処分は免れない。
だから、死にたくないのなら拾ってやろうと言われているのだ。目の前のご令嬢が憐れんだ結果なのだろう。幼い娘の我儘を叶える貴族というのはどこにでもいる。拾った命をどう使うかなど、デリックには検討もつかないが。
長年居た組織はすでになく、逃げ出そうという気力も無い。どうせ行く宛もないのだ、デリックにはもう生きる意味というのが無くなっていた。けれども、金持ちの気紛れで好き勝手使われるのも御免だった。
「断る。一思いにやってくれ」
デリックはアルベルトを見据えてそう答えた。その意味を理解したアルベルトは僅かに眉を寄せたが、次いで聞こえた声には柔らかな雰囲気で答える。
「どういう意味ですか……?」
「出るくらいなら死ぬと、そう言っているようだ」
「そんな!」
もっとも、回答があんまりだったので、声を上げたリリアンは悲痛な叫びを返す羽目になる。しまった、とアルベルトは焦った。
どう説明したものかと言葉を探っていると、意外にもそれをフォローしたのは身内ではなく、牢の中の男だった。
「あー、お嬢サマ。気にしなくていい。どうせ処刑されるんだ、これまで散々悪い事してたからな。死んでもいい人間なんだよ、俺は」
「そんなことないです」
「そんな事あるんだわ」
「あなたはわたくしを助けてくれたじゃないですか」
「それはそれだ。生きてる意味も無いんでね」
デリックは、ドルマと対峙した際には差し違えるつもりでいた。その後、アルベルトが乱入した時にはすでにこうなるのを予想していた。ドルマを止めても止められなくても、きっと死ぬ事になるだろうな、と。この数日ですっかり覚悟が決まっていたので、もう開き直っている。リリアンへの言葉はデリックの本心で間違いない。
なのにあんまりにも軽く言われたものだから、リリアンはくしゃりと表情を歪めてしまう。
「そんなのだめ! おとうさま、このかたを助けられませんか?」
リリアンはアルベルトのズボンに縋りつく。そして大きな瞳に涙を滲ませた。思わずアルベルトはしゃがみ込んでリリアンを抱き締める。
(なんだ? 何が起こった? リリアンが差し伸べた救いの手を払い除けたというのか?)
アルベルトには目の前で起きている事が理解できない。
彼にとって、リリアンの望みこそが世界の基盤で、すべてなのだ。それを叶えるのが世の理で、呼吸するのと同じもの。アルベルトはそう信じている……というよりそれが彼の前提なのだ。断る、という発想自体が存在しない。
しかもその上、リリアンは傷付き涙している。到底信じられる光景ではない。
「リリアンの希望は、何よりも優先されるべきものだ。来る以外の選択肢があるとでも思うのか」
なのでそう言ってやったのだが、デリックは更に意味の分からない発言をする。
「いや、あるだろ。法律って知ってるか?」
「それはリリアンの希望以上に重要か?」
「重要だろ! 何言ってんだ!」
叫ぶデリックに、やれやれ、とアルベルトは首を横に振った。そうしておもむろに鉄格子に手を伸ばす。訝しむデリックの前で「ふん!」と力んで格子をへし曲げ、隙間から手枷を掴んだ。
「来い」
「え? は? 意味わかんねえんだけど!?」
ぐにゃりと歪んだ鉄格子とアルベルトとを見るデリックは目を白黒させる。頑丈な鉄格子が形を変えたのも、自分が牢から引きずり出されている理由もなにもかもが意味不明だ。抵抗しようにも強引に引っ張られているせいでふんばりが効かない。
アルベルトは、そんなデリックを振り返らずに進んだ。ついでなので世界の真理についての解説も添えてやる。
「分からないなら教えてやる。リリアンが全てでそれ以外はゴミだ。分かったか」
「いやマジで意味分からん! なんだこいつやべぇ!」
デリックの叫びは牢に響き渡ったが無視された。それどころか、体勢を立て直す間を与えられないせいで、床を引き摺られている。
「いででで、痛ぇ! か、階段は、ちょっ!」
「煩い、静かにしろ!」
「お父様、引きずるのはやめてあげて」
「リリアンは優しいな。さすがだ」
「いってえ!!」
リリアンが止めると、アルベルトは途端にぱっと手を離す。そのせいでデリックは段差の角に頭を打ちつける羽目になった。
それで唯一大人しく話のできるデリックに事情聴取が行われたが、デリックはそこで取引を持ち掛ける。作戦に参加しなかった者も団には居る。その反ドルマ派には罪を問わないのなら、全て話すと告げたのだ。
アルベルトは渋々ではあったがそれを了承した。
ただし、リリアンに無体を働いた連中には容赦しなかった。アジトの場所を聞き出したアルベルトは自ら赴き、何もかもを粉砕して燃やし尽くしてしまった。
積極的に計画に参加した者にも同様に厳しい対処を行う。エル=イラーフ王国の法律に則ってではあったが、とにかく罪は重くなった。牢から生きて出られる者はいないだろう。
後日、ベンジャミンからそう聞かされたデリックだったが、意外と動揺はしなかった。
「俺はどうなるんで?」
「あなたの事は、お嬢様が気に掛けていますから。それも旦那様の気分次第でしょうが」
「……そうかい」
「そう悲観せずとも、作戦に参加していない方は無事ですよ」
「でなきゃ困る」
「そうですな」
そんなデリックの様子に、ふむ、とベンジャミンは腕を組む。これまで観察していたが、反抗的な態度は取らず従順だ。他に接触した前団長派という連中も、デリックを庇う者が多かった。
そういう人間だからだろうか。リリアンも、デリックに対しては好意的だった。今もこうして牢を訪れ、彼の様子を確かめたいと言うくらいには関心があるようだ。
アルベルトが後始末をしている間、リリアンは大人しく屋敷で過ごしていた。あんな事があった後なので警護は増員され、滞在する宿も別の建物に移っている。
シルヴィアとレイナードが室内で、ボーマンとヴァーミリオン家の兵が室外を。エル=イラーフ王国から借り受けた騎士が、屋敷の外を警戒していた。襲撃された宿は、貴族相手に商売をしており、実績のある業者だった。なのに誘拐騒ぎが起きたとあって、業界は揺れに揺れた。他国の貴族が狙われたということもあって、国へも苦情が入った。その結果、かなりの人員が割り裂かれ、警備の方は万全となったのだが。騎士が出入りする屋敷はいささか物々しい雰囲気に覆われていた。
リリアンの行動を制限しないよう最善は尽くされていたが、肝心のリリアンはどこか気落ちしたままだ。目敏くそれを察知したアルベルトが尋ねれば、リリアンは自分を助けてくれた人に礼を述べたいとそう言った。
そうして騎士団の地下牢を訪れた。鉄格子の向こうの男は、最後見た時と同じ服装をしていた。くたびれてはいたものの怪我をしている様子はなく、その事にリリアンはほっとする。
話し終わったらしいベンジャミンが振り返ったので、リリアンは一歩前に出た。
「あの、お礼をいいたくて」
そう言うと、男——デリックはぽかんと口を開ける。
「……は?」
「あの時は、わたくしとごえいを助けてくださって、ありがとうございます」
そうしてぺこりと頭を下げるリリアン。まさか礼を言われるとは思っていなかったデリックは言葉が出てこない。
「あの……?」
瞬くデリックに、リリアンは首を傾げた。心配しているような仕草だ、デリックの驚きは深いものになる。
これがアルベルトだったら優しさに打ちひしがれ天を仰ぐだろうが、出会って間もないデリックはそうでもなかった。ただ、煌びやかなドレスを纏う令嬢というものをこれだけ間近で見た事がなかったし、そんな存在に感謝されるとは想像していなかった。
というか、デリックがリリアンを助けたのは、団員達を止める為だ。その身を案じていたわけではない。
だが、巻き込まれながらもデリックへ感謝をするような子供が、酷い目に遭わなくてよかったと思ったのも事実である。
「いや、無事で良かった。迷惑かけてすまなかったな」
「そんなこと」
思っていたより優しげな声が出たのに自分でデリックは驚いた。それに警戒心が削がれたらしいリリアンが更に足を踏み出そうとして、咄嗟にボーマンが間に入る。その際ちらりと視線が合った。ボーマンの目には疑いが含まれており、それがかえってデリックを安堵させる。幼い子供を会わせるような連中だ、危機感が無いのではと疑っていたデリックは、妙に落ち着いた気分でそれを眺めていた。
リリアンは阻まれたのに驚いたようだったが、すぐに落ち着いた。けれども表情は一変、固いものになっている。
それに慌てたのはアルベルトだ。
「どどどどうしたリリアン!?」
「……おとうさま。このかたはどうなるんですか?」
静まり返った牢に、リリアンの声が響く。
「これまで、このかたがなにをしていたかは、分からないけど。でも、わたくしを助けてくれたのはじじつです。本当にわるい人だったら、きっとそんなことはしないわ」
「……ふむ」
言って、アルベルトは腕を組んだ。
(聞く限りでは使えない男というわけでもなさそうだ。多少、調整は必要になるが……)
デリックはエル=イラーフ王国で処罰を受ける。刑の重さは、はっきり言ってヴァーミリオン家の裁量次第だった。リリアンを狙った組織の一員であるから、例え本人にその気が無くともアルベルトは容赦しないつもりだった。けれども肝心のリリアンがそれを止めるのなら、アルベルトはデリックを生かさないとならない。
よし、とアルベルトは頷き、牢の中の男へ向かってこう言った。
「貴様を雇ってやる。その命、リリアンに捧げるがいい」
「……は?」
目を丸くしたのはデリックだ。だが、リリアンも驚いた顔をしている。ぽかんと父親を見上げていた。
「あーいや、そうか、そういう意味か」
それでデリックは言われた意味を理解する。
いくら捜査に協力したとは言え、デリックが犯罪組織に所属していたのは間違いない。しかもその組織の人間が貴族を襲ったとあってはどの道重罪だ、処分は免れない。
だから、死にたくないのなら拾ってやろうと言われているのだ。目の前のご令嬢が憐れんだ結果なのだろう。幼い娘の我儘を叶える貴族というのはどこにでもいる。拾った命をどう使うかなど、デリックには検討もつかないが。
長年居た組織はすでになく、逃げ出そうという気力も無い。どうせ行く宛もないのだ、デリックにはもう生きる意味というのが無くなっていた。けれども、金持ちの気紛れで好き勝手使われるのも御免だった。
「断る。一思いにやってくれ」
デリックはアルベルトを見据えてそう答えた。その意味を理解したアルベルトは僅かに眉を寄せたが、次いで聞こえた声には柔らかな雰囲気で答える。
「どういう意味ですか……?」
「出るくらいなら死ぬと、そう言っているようだ」
「そんな!」
もっとも、回答があんまりだったので、声を上げたリリアンは悲痛な叫びを返す羽目になる。しまった、とアルベルトは焦った。
どう説明したものかと言葉を探っていると、意外にもそれをフォローしたのは身内ではなく、牢の中の男だった。
「あー、お嬢サマ。気にしなくていい。どうせ処刑されるんだ、これまで散々悪い事してたからな。死んでもいい人間なんだよ、俺は」
「そんなことないです」
「そんな事あるんだわ」
「あなたはわたくしを助けてくれたじゃないですか」
「それはそれだ。生きてる意味も無いんでね」
デリックは、ドルマと対峙した際には差し違えるつもりでいた。その後、アルベルトが乱入した時にはすでにこうなるのを予想していた。ドルマを止めても止められなくても、きっと死ぬ事になるだろうな、と。この数日ですっかり覚悟が決まっていたので、もう開き直っている。リリアンへの言葉はデリックの本心で間違いない。
なのにあんまりにも軽く言われたものだから、リリアンはくしゃりと表情を歪めてしまう。
「そんなのだめ! おとうさま、このかたを助けられませんか?」
リリアンはアルベルトのズボンに縋りつく。そして大きな瞳に涙を滲ませた。思わずアルベルトはしゃがみ込んでリリアンを抱き締める。
(なんだ? 何が起こった? リリアンが差し伸べた救いの手を払い除けたというのか?)
アルベルトには目の前で起きている事が理解できない。
彼にとって、リリアンの望みこそが世界の基盤で、すべてなのだ。それを叶えるのが世の理で、呼吸するのと同じもの。アルベルトはそう信じている……というよりそれが彼の前提なのだ。断る、という発想自体が存在しない。
しかもその上、リリアンは傷付き涙している。到底信じられる光景ではない。
「リリアンの希望は、何よりも優先されるべきものだ。来る以外の選択肢があるとでも思うのか」
なのでそう言ってやったのだが、デリックは更に意味の分からない発言をする。
「いや、あるだろ。法律って知ってるか?」
「それはリリアンの希望以上に重要か?」
「重要だろ! 何言ってんだ!」
叫ぶデリックに、やれやれ、とアルベルトは首を横に振った。そうしておもむろに鉄格子に手を伸ばす。訝しむデリックの前で「ふん!」と力んで格子をへし曲げ、隙間から手枷を掴んだ。
「来い」
「え? は? 意味わかんねえんだけど!?」
ぐにゃりと歪んだ鉄格子とアルベルトとを見るデリックは目を白黒させる。頑丈な鉄格子が形を変えたのも、自分が牢から引きずり出されている理由もなにもかもが意味不明だ。抵抗しようにも強引に引っ張られているせいでふんばりが効かない。
アルベルトは、そんなデリックを振り返らずに進んだ。ついでなので世界の真理についての解説も添えてやる。
「分からないなら教えてやる。リリアンが全てでそれ以外はゴミだ。分かったか」
「いやマジで意味分からん! なんだこいつやべぇ!」
デリックの叫びは牢に響き渡ったが無視された。それどころか、体勢を立て直す間を与えられないせいで、床を引き摺られている。
「いででで、痛ぇ! か、階段は、ちょっ!」
「煩い、静かにしろ!」
「お父様、引きずるのはやめてあげて」
「リリアンは優しいな。さすがだ」
「いってえ!!」
リリアンが止めると、アルベルトは途端にぱっと手を離す。そのせいでデリックは段差の角に頭を打ちつける羽目になった。
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