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新妻の問い
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午後4時過ぎ、俺たちはやっと目的としていた宿に到着した。
観光といえば、窓からみた景色と、徒歩での空気感を楽しむくらいで、本当に列車内でまったりしただけ。
それでも不思議なことに、圭一といるだけで俺は普通に楽しい時間を過ごすことができた。
宿の暖簾をくぐると、女将さんと思われる上品な笑顔を浮かべた女性が出迎えてくれた。
「ようこそ、おいでくださいました」と、頭を深々と下げられる。
ロビーで温かいお茶を出され一息ついた俺たちは、その後ゆったりとしたソファー席に促され、そのまま温泉や食事の時間、館内全体の説明を受け、いよいよ部屋に通される。
「わあ…先輩…なんかココすごい…ですね…」
廊下も階段も…部屋にあつらえた調度品も…そこにある何もかも全てが豪華で…かといって派手すぎない品の良い造りで、今更ながらちょっとまだ学生の俺らには高級過ぎたかな…と思えるほどだ。
実はバイトで貯めたお金をまあまあ切り崩したし、しかも圭一はまだ高校生だから、今回は言い出しっぺの俺負担を申し出た。
それでも圭一の両親が圭一分の資金を幾分か持たせてくれたので無下には断れず…ありがたく頂戴し、それでも気にしていた圭一に、残りはいつか出世払いで頼むと言ってある。
まあもちろん、取り立てる気なんて、さらさらないんだけど。
「お食事は6時にご準備に伺います。それまで、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
一言だけ言って、にっこりと微笑み、女将さんが襖を閉める。
部屋の片側半分には大きなダブルベッドがででんと、配置され、存在を主張している。
しかも、片側半分は和室になっているという贅沢な和洋室仕様。そしてとにかく部屋の広さが本当に半端ない。俺のマンションの全部屋の広さを、優に超える広さだ。
キャンセルが出てたまたま予約が取れたわけだけど、きっとどこぞのラブラブカップルが、ここぞという記念日か何かに予約していた部屋に違いない。
しかもこの部屋、離れで内風呂付き…もちろん温泉。
誰もが入れる大浴場の温泉ももちろんいくつかあるけど、それ以外に各部屋それぞれに温泉だなんて…どんだけ、贅沢なんだ。
俺が荷物を持ったまま呆然と立ち尽くしていると「ほらほら…先輩、せめて荷物くらい置いて少し寛ぎましょうよ。時間はまだありますが、温泉にも行きたいし…っていうか、部屋で気軽に入れるから、ほんと最高ですね、この部屋…俺もう、かんどーで胸がいっぱいです。」
圭一は俺の荷物をさっさと奪い去り、それを和室の畳の上に置く。不意に振り返り、圭一が真顔で俺に尋ねる。
「さて、先輩…先にご飯にしますか?
それとも、お風呂…にしますか?
それとも…
俺…にしますか…?」
「…へ…?」
こいつ…新妻、みたいだ…変な奴…
しかも、ご飯はまだ無理だろう…?
そして俺の声は…うまく言葉にならない。圭一の真剣な目… 俺の答えは…答えは…
考えている間に、
圭一がゆらりと俺の前に立つ。
「圭っ、んんっ!… ん」
答える前に、圭一に頬を優しく包みこまれ、唇を塞がれていた。
圭一の…気持ちのいいキス…
大正解…だ。
俺の頭に、最初に浮かんだもの…
こいつのキス…
俺は途端に、幸せに包まれた…
観光といえば、窓からみた景色と、徒歩での空気感を楽しむくらいで、本当に列車内でまったりしただけ。
それでも不思議なことに、圭一といるだけで俺は普通に楽しい時間を過ごすことができた。
宿の暖簾をくぐると、女将さんと思われる上品な笑顔を浮かべた女性が出迎えてくれた。
「ようこそ、おいでくださいました」と、頭を深々と下げられる。
ロビーで温かいお茶を出され一息ついた俺たちは、その後ゆったりとしたソファー席に促され、そのまま温泉や食事の時間、館内全体の説明を受け、いよいよ部屋に通される。
「わあ…先輩…なんかココすごい…ですね…」
廊下も階段も…部屋にあつらえた調度品も…そこにある何もかも全てが豪華で…かといって派手すぎない品の良い造りで、今更ながらちょっとまだ学生の俺らには高級過ぎたかな…と思えるほどだ。
実はバイトで貯めたお金をまあまあ切り崩したし、しかも圭一はまだ高校生だから、今回は言い出しっぺの俺負担を申し出た。
それでも圭一の両親が圭一分の資金を幾分か持たせてくれたので無下には断れず…ありがたく頂戴し、それでも気にしていた圭一に、残りはいつか出世払いで頼むと言ってある。
まあもちろん、取り立てる気なんて、さらさらないんだけど。
「お食事は6時にご準備に伺います。それまで、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
一言だけ言って、にっこりと微笑み、女将さんが襖を閉める。
部屋の片側半分には大きなダブルベッドがででんと、配置され、存在を主張している。
しかも、片側半分は和室になっているという贅沢な和洋室仕様。そしてとにかく部屋の広さが本当に半端ない。俺のマンションの全部屋の広さを、優に超える広さだ。
キャンセルが出てたまたま予約が取れたわけだけど、きっとどこぞのラブラブカップルが、ここぞという記念日か何かに予約していた部屋に違いない。
しかもこの部屋、離れで内風呂付き…もちろん温泉。
誰もが入れる大浴場の温泉ももちろんいくつかあるけど、それ以外に各部屋それぞれに温泉だなんて…どんだけ、贅沢なんだ。
俺が荷物を持ったまま呆然と立ち尽くしていると「ほらほら…先輩、せめて荷物くらい置いて少し寛ぎましょうよ。時間はまだありますが、温泉にも行きたいし…っていうか、部屋で気軽に入れるから、ほんと最高ですね、この部屋…俺もう、かんどーで胸がいっぱいです。」
圭一は俺の荷物をさっさと奪い去り、それを和室の畳の上に置く。不意に振り返り、圭一が真顔で俺に尋ねる。
「さて、先輩…先にご飯にしますか?
それとも、お風呂…にしますか?
それとも…
俺…にしますか…?」
「…へ…?」
こいつ…新妻、みたいだ…変な奴…
しかも、ご飯はまだ無理だろう…?
そして俺の声は…うまく言葉にならない。圭一の真剣な目… 俺の答えは…答えは…
考えている間に、
圭一がゆらりと俺の前に立つ。
「圭っ、んんっ!… ん」
答える前に、圭一に頬を優しく包みこまれ、唇を塞がれていた。
圭一の…気持ちのいいキス…
大正解…だ。
俺の頭に、最初に浮かんだもの…
こいつのキス…
俺は途端に、幸せに包まれた…
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