【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～杉崎～

決意

やはり、直接彼女に聞いてみるよりほかない…。
食事に誘おう。

「…　…甘い　…　」

ごくりと…　一気に、残りの珈琲を飲み干す。

俺の方は、つい数日前、智花に連絡を済ませている。
福岡に行くことを伝えたら、彼女は少し驚いてはいたが、もはや直接会って説明して…はっきりと別れを告げるしかない。

　　　　　　…　カコン…　

缶を捨て、俺はゆっくり立ち上がる。

正直なところ、
細野さんはいい、俺にとってはどうでもいい。

ひらひらした衣服を身に着け、肌露出多めで、強めの香水を身にまとい、俺の腕に触れ、しな垂れかかるようにしながら甘えたような声で、俺に何かと相談をしてくる彼女。

メイクもアクセサリーもぬかりなく、大半の男は、甘え上手な彼女に転ぶのかもしれない、とも思う。


一方、黒紺茶など、アースカラーとでもいうのだろうか…
いつも地味過ぎるほどに地味な服装で、顔と首回り、手しか肌色が露出していない彼女。
相談など、されたこともない。
仕事のことでの相談はもちろんあるが、プライベートのことでは皆無だ。きっとこちらがあえて聞かない限りは、彼女は悩みを打ち明けたりもしないだろう。

確か、水無月さんと細野さんの年齢は近かったはずだが、こんなにも対照的なのは、ある意味で驚きだ。

もはや、時代だとか、流行だとかは関係ないのだ。
その人の好みが、その性格が…その雰囲気が、そうだというだけ。揺らがない個性、そのもの…。

彼女の控えめな服装、控えめなメイク。
見た目に違わぬ、控えめな性格。

彼女はいつも自分のことを後回しにして、相手のことを考えてしまう性格だ。自己主張があまりに弱過ぎる…いや、もはやなきに等しい。考えようによっては、かなり損な性格…

でもだからこそ、俺は彼女に惹かれている。
細野さんのように自己主張がない、わがままも言わない、愚痴だって言わない…。

そんな彼女だからこそ守りたい、たまには我儘を言わせたい、少しは愚痴を言って欲しい。
せめて俺の前だけでは、心から笑って欲しい…。

そう思ってしまうこの感情は、恋か、愛か…　

それとも、年齢が離れているが故の、親が子を想う感情にも似た、庇護欲、なのか…

「…　…　っ…　」

なんにしろ、耐えられない…　　

今のこの、彼女の状況がわからない、曖昧な状況が辛い…　

彼女に、もう一度触れたいと思ってしまうこの感情は、恋か…　愛か…

いや、そんな綺麗なものじゃない…　

　　　　　　　　　彼女が欲しい…

もはや…　男の、身勝手な…　欲望…なのかもしれない…。
　　

とにかく、彼女と話をするために、
今日中に…絶対に…彼女を、食事に誘う…。

俺はそう心に決めて、ようやく、部屋の方に足を向けた…。